Disc Review

Love For Sale / Tony Bennett, Lady Gaga (Columbia/Interscope)

ラヴ・フォー・セール/トニー・ベネット&レディ・ガガ

ちょっと近々のイベント系のお知らせなどを。

今度の日曜日、10月10日は横浜に移転したネイキッド・ロフトで、久々、有観客でのCRT&レココレ・イベントです! 本秀康くんをゲストに迎えてのCRT恒例、ジョージ・ハリスンまつり。パソコンやタブレットでご覧の方は右側のサイドバー、スマホでご覧の方は下方のCRTインフォメーションをご参照のうえ、よろしければぜひ。

有観客CRTは今年3月、渋谷LOFT9で行なった「ねやぽん編集長就任おめでとうナイト」以来。ネイキッド・ロフトでの有観客CRTということになると、去年2月、やはり本くんを迎えた「祝・ジョージまつり20周年!〜今夜もジョージは椅子が似合う〜」以来です。やはり有観客復活はジョージまつりで、と、そんな感じ。

緊急事態宣言は解除されたものの、まだまだ油断は禁物ということで、安心安全に配慮して普段より座席に余裕をもたせた人数限定となります。ネイキッド・ロフトのホームページでお早めにWEB予約を。


続いて、先月まで3カ月間、大滝詠一師匠のことをあれこれお話しさせていただいた小学館神保町アカデミー。今月末から12月までは、毎月1回計3回にわたり「日本のポップス・クロニクル」と題して、日本のポップ・ミュージックを作り上げるうえで大きな役割を果たしたアーティスト/クリエイターを毎回ひと組ずつ取り上げ、その魅力と功績を掘り下げます。これもサイドバー、あるいは下方にインフォメーション掲載するつもりですが、第1回が10月29日(金)で、テーマは山下達郎。第2回が11月26日(金)で、テーマは筒美京平。そして第3回が12月10日(金)、テーマはハナ肇とクレージーキャッツです。詳細は神保町アカデミーのホームページでチェックしてください。


ということで、告知に続いて本日のピックアップ・アルバム。トニー・ベネットとレディ・ガガ、いきます。

今年の8月で95歳を迎えたトニー・ベネット。にもかかわらず、実に矍鑠とした歌声を聞かせ続けてきてくれた驚異のシンガーですが。そんな彼がアルツハイマー型認知症であることを公表したのが今年の2月ごろ。2015年に初期症状が出始めて、2016年にそう診断されたとのこと。

重度の見当識障害や長期的な記憶喪失のような深刻な症状には至ってはいないものの、短期的な記憶喪失に苦しむようになって。そんな中、自身最後の作品となるかもしれないアルバムの制作を決意。2018年から2020年にかけて慎重にレコーディングが行なわれた。

そうして完成したのが本作、レディ・ガガとのデュエットによるコラボ・アルバム『ラヴ・フォー・セール』だ。2014年、やはりガガとのデュエットで制作され大ヒットした『チーク・トゥ・チーク』に続く“トニー・ガガ”第2弾。

いわゆる“グレイト・アメリカン・ソングブック”と呼ばれるスタンダード・チューンを集めた『チーク・トゥ・チーク』のあと、2015年にピアニストのビル・シャーラップと組んだジェローム・カーン作品集『ザ・シルヴァー・ライニング』を出して、2018年にはダイアナ・クラールと組んだジョージ・ガーシュウィン作品集『ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ』を出して。それに続く本作はコール・ポーターの作品集。トニー・ベネットのスタジオ・アルバムとしてはたぶん61作目。そして最後の1作になるかもしれない1枚だ。

このアルバムを完成させた後、ベネットの95回目の誕生日に合わせてニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで2夜、ガガとベネットによるソールド・アウト・コンサートが行なわれた。各メディアがどれほど感動的な夜だったかをこぞって伝えていたっけ。

ガガが先行してコンサートを進め、中盤、彼女がベネットをステージに招く。そしてベネットが、実に象徴的なタイトルの名曲「ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム」で登場。もちろん会場はスタンディング・オヴェイションだったという。そりゃそうだろう。ゴードン・ジェンキンス作の名曲「ジス・イズ・オール・アイ・アスク」も歌われたそうで。あの曲のエンディング、“歌える歌がある限り音楽を奏で続けてくれ/そうすれば私は春よりも若くあり続けられるから…”という歌詞を歌ったシーンなど、きっと誰もが涙したに違いない。

そして、そんなベネットを支えたガガも超グッジョブ。この人、ほんとすごいと思う。音楽的な幅にしても、パフォーマーとしての力量にしても、ソングライターとしての才能にしても、毅然としたたたずまいにしても。感服するしかない。彼女がいたからこそベネットもこのライヴをやりきることができたのだろうし。晩年に出会って、ベネットの長い長いキャリアの中ではほんの一瞬の付き合いだったのかもしれないけれど、きっとガガはベネットにとって、とても特別な、大切な親友なのだと思う。交わした思いの深さはどれほどのものだったのだろう。

そんな二人がコール・ポーターの名曲群を歌い綴ったコラボ・アルバム。全12曲中、ベネット、ガガ、それぞれのソロ・パフォーマンスが2曲ずつ。残る8曲がデュエットものだ。ベネットの状況とかに思いを巡らせるといろいろ切ない気持ちになったりもするのだけれど、聞いているうちにそんなこと忘れてしまうほど、ひたすら充実した、愛すべきコール・ポーター・ソングブックに仕上がっている。

カラー・ヴァイナル版、ピクチャー・ヴァイナル版、カセット版、『チーク・トゥ・チーク』のライヴを抱き合わせにしたCD2枚組デラックス・エディション、『チーク・トゥ・チーク』のスタジオ盤と組み合わせたカラー・ヴァイナル2枚組とか、たくさんのフォーマットで発売されております。どれ買ったらいいのか、悩むなぁ、まじ。ぼくはとりあえずハイレゾ買ってダウンロードして楽しんでいるけど、やっぱりどれかヴァイナルで手に入れたいなぁ。ぐずぐずしていたら売り切れちゃうかなぁ…。

フランク・シナトラが評した通り、やはりトニー・ベネット、世界最強のシンガーです。

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