Disc Review

Liberté / The Doobie Brothers (DB Entertainment/Island)

リベルテ/ザ・ドゥービー・ブラザーズ

本ブログではよく取り上げる話題なのだけれど。活動歴が長いバンド、あるいはメンバーチェンジが激しかったバンドの話で誰かと盛り上がろうとするとき、どの時期の音が好きかを先に言っておかないと話がわやくちゃになってしまうことがある。オールマン・ブラザーズ・バンドとか、フリートウッド・マックとか、シカゴとか…。

そして、この人たち、ドゥービー・ブラザーズ。時期によって全然別のバンドみたいになっちゃった連中の代表格みたいな。そんな感じ。

現在60歳代半ばであるぼくの場合、最初にこの人たちのことを好きになったのは高校生時代。1972年、日本でのデビュー盤にあたるセカンド・アルバム『トゥールーズ・ストリート』に出くわしたのが初のドゥービーズ体験だった。それだけにやはり初期のあの音、つまりパット・シモンズのフォーク/カントリー味とトム・ジョンストンのロックンロール/ブルース味を絶妙のバランスでグルーヴさせたツイン・ギター、ツイン・ドラムによる豪放な西海岸ロック、ね。あれこそがぼくにとって最良のドゥービーズ・サウンドだ。

なので、豪快なグルーヴや、キャッチーなリフ、爽快なハーモニーといった武器をさらに研ぎ澄ました1973年の『キャプテン・アンド・ミー』や1974年の『ドゥービー天国』、ジェフ・バクスターを迎え入れトリプル・ギター編成へアップグレードした1975年の『スタンピード』までが、ぼくのドゥービーズ愛のピーク。モビー・グレイプあたりが1960年代後半に地元サンフランシスコで展開していたアシッドな試行錯誤を天性の明るさと切れ味のよさで再構築し、ポップな形で1970年代へと持ち込んで成功を収めた時期の彼らこそが最高だと今でも思う。

ところが、ご存じの通り1976年ごろからメンバーが大きく変動。中心的存在だったトム・ジョンストンが脱退。マイケル・マクドナルドが加入し、洗練されたポップ感覚を導入。初来日を果たしたのはそのころだった。ぼくは大学生になっていて。武道館に足を運んだら、ステージ上にギターを掻き鳴らしながら歌うジョンストンの姿はなく、代役としてマクドナルドがキーボードを弾きながらリード・ヴォーカルをつとめていたっけ。もちろんマクドナルドの加入は知っていたけど、正直、あのときはまだ“誰だ、お前?”感、半端なかった。

1978年の『ミニット・バイ・ミニット』のころにはすっかりマクドナルド主導のアダルト・コンテンポラリー系バンドと化していた。まあ、ぼくもその時代の彼らの音をそれなりに新鮮に楽しんではいたものの、ふと冷静になると、俺、こういう音楽聞きたくてドゥービーズを好きになったわけじゃなかったよなぁ…と、複雑な気分になったりもしたものだ。

でも、あれから40〜50年たっちゃって。こうなると、もうどっちでもいいかな、みたいな(笑)。それもまた正直な気分。パット・シモンズも、トム・ジョンストンも、マイケル・マクドナルドも、今となってはみんな含めてドゥービーズ。結局、誰かひとりがドゥービーズを作ったのではないということ。そこに関わったすべての者たちが、熱い友情と深い愛情と、時には憎しみや倦怠もひっくるめて、離れていてもけっして無視することのできない絆で結ばれている。そんな、文字通り兄弟の絆のようなものこそがドゥービー・ブラザーズ最大の魅力なのかな、と。

ドゥービーズはいったん1982年に解散を発表。10年以上に及ぶ激動のバンド活動史に終止符を打ったのだけれど。その後、1989年、初期メンバー中心のラインアップで再結成。以降も、たまにアルバムを出したり、ライヴ・ツアーを行なったり、ちょいちょい来日したり、それなりに着実な活動を続けている。

そして今、2014年の『サウンスバウンド』以来となる新作アルバムが出た。というか、『サウンスバウンド』は様々なゲスト・アーティストを迎えて往年のレパートリーを再演した1枚だったから、新曲によるオリジナル・アルバムとしては2010年の『ワールド・ゴーン・クレイジー』以来、11年ぶりの1枚ということになる。

今回のメンバーは、結成以来ずーっと在籍し続けているパット・シモンズと、出たり入ったり繰り返しているトム・ジョンストン、そして途中加入したジョン・マクフィー。長いバンド活動史において出入りしたたくさんのメンバーの中にはもはやけっこう故人も多く、最盛期には7〜8人編成だったドゥービーズも今では3人、と。そういうことか。プロデュースを手がけたのは、ボン・ジョヴィやシェリル・クロウ、マイリー・サイラスらとの仕事で知られるジョン・シャンクスだ。

曲を書いたのはトム・ジョンストン7曲、パット・シモンズ5曲。いずれも共作者としてジョン・シャンクスの名前がクレジットされている。アルバム・リリースを受けての全米ツアー(まだ続くコロナ禍でリスケジュールを余儀なくされたようだけれど)にはマイケル・マクドナルドも参加しているものの、レコーディングは完全にジョンストンとシモンズ中心。そのため、1970年代前半の初期ドゥービーズに通じる味わいがアルバム全編を痛快に貫いている。もちろん往年の若々しさとか荒々しさとかはもはや期待できないわけですが(笑)。そのぶん、ぐっと枯れた感触というか、大らかな余裕というか、そういったものがどの曲にも漂っていて。楽しいです。スリルはないけど。

なんだろうな、こう、世の中全体にネガティヴ感が渦巻く昨今だけに、まあ、どうにかなるでしょ的な1970年代っぽい楽観を随所に孕んだドゥービーズ・サウンドに救われた気分になれるような…。

今日は9月末にジミー・キンメルのレイト・ショーにマイケル・マクドナルド込みで出演したときに収録されたライヴ、放映されなかったパートなどをまとめた30分弱の映像、貼っておきます。ビル・ペインとかツアー・メンバーたちをバックに従えて「ブラック・ウォーター」「ミニット・バイ・ミニット」「ロング・トレイン・ランニング」といった往年のレパートリーに加えて、新作から「ベター・デイズ」「ドント・ヤ・メス・ウィズ・ミー」も披露してます。

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