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Disc Review

Mary Lou Williams Presents Black Christ of the Andes / Mary Lou Williams (Smithsonian Folkways Recordings/RICE)

アンデスの黒いキリスト/メアリー・ルー・ウィリアムス

今朝は、1964年にオリジナル・リリースされて以来、まあ、わりと頻繁に再発されてきたジャズの名盤を取り上げます。なぜ今なのか、理由はよくわからないけど、なんか6月末に突然、日本のライス・レコードがこの盤を独自に再発/配給するといううれしいアナウンスがあったもんで。いい機会かなと思って、それに乗っかります。

女流ジャズ・ピアニストの草分け、メアリー・ルー・ウィリアムスの意欲作。メアリー・ルーといえばチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンクら錚々たる大物たちのメンターとも言うべき“ファースト・レディ・オヴ・ジャズ”で。かのデューク・エリントンをして、「彼女はカテゴリーを超えた、けっして古くなることのない存在だ」と言わしめたことでもおなじみだろう。

1920年代にプロとして活動を開始した後、ブギウギ、スウィング、ビ・バップ、スピリチュアル、フリーなど、1981年に亡くなるまで、時代ごとに様々なジャズのフォーマットに挑み続けた偉大な才能。ぼくは大学生になりたてのころによく聞いた。1974年の『ゾーニング』とか翌年の『フリー・スピリッツ』とか、最高だったなぁ。

ただ、1950年代半ばに数年間、引退していたことがあったらしい。カトリックに改宗してその道を熱心に究めていたのだとか。もちろん、世の中がそれを放っておくわけもなく、ほどなくディジー・ガレスピーに説得されて音楽活動に復帰。ライヴに出演したりアルバムを制作したり…。

今回、ライス・レコードが日本で配給する『アンデスの黒いキリスト』は、まさにそんな復帰時期の作品。それだけに、タイトルからもわかる通り、思いきり宗教色の濃い1枚に仕上がっている。1962年に列聖された聖マルティン・デ・ポレスに捧げるコンセプト・アルバムだ。

1964年に自身のレーベル“メアリー・レコード”(配給はフォークウェイズ)から、ずばり『メアリー・ルー・ウィリアムス』というまっすぐなタイトルのもと、ピンク地のジャケット(下のYouTubeの映像に映っているやつ)で出たのがオリジナル。その後、ドイツのSABAレコードから黒地の別デザイン・ジャケで出たとき『ブラック・クライスト・オヴ・ジ・アンデス』というタイトルに変わって。さらにMPSからもその新仕様で出て。ぼくが1970年代半ばに初めて聞いたのはこのMPS盤だった。

その後もオリジナル・ジャケットを使用したアナログLPでの復刻なども含め、様々な形で再発されてきた名作だけれど。2004年にスミソニアン・フォークウェイズがさらに写真を使用したジャケットに変更した上で未発表音源4曲をボーナス追加してCD化したことがあって。今回、ライス・レコードが日本で配給してくれることになったのはそのエクスパンデッド・エディションだ。

ハワード・ロバーツ指揮によるレイ・チャールズ・シンガーズ(いまだに勘違いしている人もいるようなので無粋ながら書き添えておくと、これ、例の盲目の偉大なR&Bシンガーとは関係のない、白人リーダー率いるコーラス・グループ)のゴスペル・クワイアをフィーチャーした荘厳な曲で幕開け。

以降、ブルージーなピアノ・トリオものあり、グラント・グリーンのギターやバド・ジョンソンのバス・クラリネット、ジョージ・ゴードン・シンガーズのヴォーカルなどを交えたファンキーなジャズ・ワルツあり、のちに共演アルバムを録音することになるセシル・テイラーあたりへの脈絡も感じさせるフリーなソロ・ピアノ曲あり…。

作品に託されたメッセージはきわめてシリアスかつストイックなものだけれど、放っているグルーヴはごきげん。内に秘めた“熱”を静かな、しかし確かなタッチで綴るジョージ・ガーシュウィン作「イット・エイント・ネセサリリー・ソー」や、パーシー・ヒースをベースに迎えて躍動する「私の青空(My Blue Heaven)」あたりは不朽の名演だ。

ただ、このエクスパンデッド・エディションは曲順にちょっとクセがあって、オリジナル・アルバム全10曲の9曲目まで普通に進み、そのタイミングでボーナスが4曲挿入され、再びグラント・グリーンやジョージ・ゴードン・シンガーズを迎えたソウルフルな名演「プレイズ・ザ・ロード」でオリジナルLP通りに締める、という構成になっている。その点のみ要注意。あとは、英文ブックレットも充実しているし、日本盤には詳細な日本語ライナーも付いているし。

未聴の方がいらっしゃったら、これを機会に、ぜひ!

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