Disc Review

Kiwanuka / Michael Kiwanuka (Interscope)

キワヌーカ/マイケル・キワヌーカ

去年だったか、一昨年だったか。ニコール・キッドマンとリース・ウィザースプーンらが主演するドラマ・シリーズ『ビッグ・リトル・ライズ』にがっつりハマった時期があって。アマゾンだったかスターチャンネルだったかどこかで毎話引きつけられるように日々見続けたことがあったっけ。

主題歌もよかった。マイケル・キワヌーカの「コールド・リトル・ハート」。それが冒頭のタイトルバック・シーンで毎回かかる。カリフォルニアの海辺の高級住宅地に暮らすセレブなママ友コミュニティに渦巻く表の顔と裏の顔、そして謎の殺人事件…みたいな。そういう、なんともクールで、シニカルで、ちょっぴりサイコで、ダークなドラマのムードを、キワヌーカの浮遊感に満ちた歌声がぐっと思わせぶりに盛り立てていた。

その曲を含む傑作アルバム『ラヴ&ヘイト』から3年。久々に新作が出た。ついに自らの姓をまっすぐタイトルに冠した堂々たる1枚『キワヌーカ』。この人、デビュー作『ホーム・アゲイン』が2012年で。セカンド『ラヴ&ヘイト』が2016年。で、今回、2019年にサード・アルバム『キワヌーカ』。1枚1枚、じっくり期間を置きながら、ていねいに作り上げてきた。

デビュー作からしていきなり、コンテンポラリーな味と既視感たっぷりのレトロ感覚とが絶妙に共存する世界観を提供してくれたキワヌーカさん。この時空を超越する感触が新時代のUKソウルの在り方なのだとしたら、そりゃ悪くないぞ…と、大いに盛り上がったものだ。ウガンダ人の両親のもと北ロンドンで生まれ育ったという境遇もいい形で影響しているのかもしれない。

1988年生まれのくせして趣味が古い。渋い。ロンドンっぽいといえばロンドンっぽいのだけれど、彼の音楽の背景には、マーヴィン・ゲイ、テリー・キャリア、カーティス・メイフィールド、オーティス・レディング、ジミ・ヘンドリックス、ボブ・ディラン、ランディ・ニューマン、ロバータ・フラック、そして何よりもビル・ウィザーズなど、キワヌーカ自身が生まれるよりずっと前、1960〜70年代にそれぞれ何かを達成した偉大な先達からの多大な影響が聞き取れる。それらを、デアンジェロあたり以降の音像なり方法論なりと融合しつつ、キワヌーカは独自の芳醇な音世界を構築してきた。

そうした感触は今回もまるで変わらない。ちょっと真面目すぎる感じもなくはないけれど、それもまたこの人の重要な持ち味なのだろう。やはり21世紀のビル・ウィザーズだなぁ。前作に引き続きデンジャー・マウスとインフローが全面参加。曲作りもすべて3人の共作とクレジットされている。

オープニングを飾る「ユー・エイント・ザ・プロブレム」は、パーカッションが躍動する活気に満ちたグルーヴに乗せて、何かを恐れて自らを偽りながら生きる必要はない、ためらうことはない、時がすべてを癒やしてくれる…みたいなポジティヴな励ましを投げかけてくる曲。そういうのもあるかと思えば、「ヒーロー」って曲では“俺はヒーローなのか?”という問いを繰り返しながら、スターとかセレブとか政治的リーダーとか、そういったある種のペルソナのもとに築き上げられた価値に対しネガティヴな疑念をぶつけまくっていたりして。

時代性だとか、人種だとか、音楽ジャンルだとか、喜怒哀楽だとか、そういったもろもろの“狭間”で、ナチュラルに、オーガニックに、エモーショナルに紡ぎ上げられたキワヌーカズ・ワールド。聞けば聞くほどしみてきます。

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