Disc Review

From Out of Nowhere / Jeff Lynne’s ELO (Big Trilby Records/Columbia)

フロム・アウト・オブ・ノーホエア/ジェフ・リンズELO

“ELO的”なるもの。

ぼくはこいつに弱いのだ。エレクトリック・ライト・オーケストラ。初期の中心メンバーだったロイ・ウッド。そして、その後を受け継いだジェフ・リン。この二人の英国人アーティストをキーパーソンに、1970~80年代、様々な形でシーンを賑わしたELO的ポップス。これに弱い。どうしたって抗えない。いつ聞いても胸がときめく。

ロイ・ウッドにせよ、ジェフ・リンにせよ、そしてELOに絡んだ他の様々な気鋭ミュージシャンたちにせよ、彼らがやってきたこと、あるいは今なおやり続けていることは、過去の遺産の有機的な再構築、と。これに尽きる。過去、様々な音楽――クラシック音楽からアメリカン・ロックンロールまで――を通して自分が得た影響なり刺激なり快感なりを、今、このコンテンポラリーなシーンにどう有機的に再構築するか。そのやり口がいい。実にいい。ポップで、キャッチーで、マニアックで、ほんの少しアヴァンギャルドで、ちょっぴり変態で。お見事。

今回、なんとELOのオリジナル・アルバムとしては1981年の『タイム』以来、38年ぶりに全英アルバム・チャート1位に輝いたという本作『フロム・アウト・オブ・ノーホエア』もそういう1枚。まあ、名義は前作『アローン・イン・ザ・ユニバース』に引き続き、“ジェフ・リンズELO”ということになっているけれど。宣伝文句で使われている通り、どこを切ってもELO。コードの運び。音の積み重ね方。今回の新作で聞かれる音も、これまたどうしようもなくELO的だ。

といっても、1970年代半ば以降のELO。デビュー当初、組曲形式を取り入れたり、クラシックとのストレートな融合を図ったりしながら“ストリングス・セクションを内包する世界最小かつ最高のオーケストラ”という壮大なコンセプトを全うしようとしていた初期の彼らではなく、よりポップでコンパクトなアンサンブルを目指すようになった、アルバムで言えば1977年の『アウト・オブ・ザ・ブルー』とか1979年の『ディスカバリー』とかで大当たりをとっていた時期のELOが体現していたキャッチーな音世界が今の時代にも変わらず有効なのだなと再確認できる1枚だ。

オリジナルELOは1988年、ジェフ・リンが公式に解散を宣言した段階でいったん活動を終えたわけだが。その前後の時期からジェフ・リンはパフォーマーとしてではなく、プロデューサーとしての活動を本格化させている。デイヴ・エドモンズ、エヴァリー・ブラザーズなど、ELOの活動と並行してプロデュースしたものもあったけれど、やはり世間の大きな注目を集めたのは解散宣言直前の1987年、ジョージ・ハリソンのアルバム『クラウド・ナイン』のプロデュースを手がけ、ジョージを見事コンテンポラリーなポップ・シーンに返り咲かせたときだろう。

その後、ロイ・オービソン、トム・ペティ、デル・シャノン、デュアン・エディ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、ジョー・コッカー、ハンク・マーヴィン、ポール・マッカートニーなど、数々の偉大な先達ロックンローラーの楽曲をバックアップ。アルバムまるまる1枚プロデュースすることは少なかったものの、要所要所でツボを心得た仕事を披露し続けてきた。新人や同世代アーティストとの仕事もあったが、ジェフ・リンがもっとも彼らしさを発揮したのはこうした上の世代のロックンロール・ヒーローとの仕事でだった。

彼のプロデューサーとしての持ち味というのは、第二期以降のELOと同じ。過去の遺産の有機的な再構築だ。トム・ペティやロイ・オービソンら、プロデュースされる米人アーティスト側から見れば、自分たちがふと見逃しがちな自国の伝統や様式を、自分たちよりも深く、客観的にとらえている異国のたのもしい男。それがジェフ・リンなのだろう。

オーヴァー・プロデュースだ、という意見もある。そうかもしれない。確かに、どのプロデュース作品も聞けばすぐにわかる。ジェフ・リンの音。特に後期ELOの作品群を特徴づけていた、大量のギター・カッティングとアンビエンスを効かせたドラムの乱雑なグルーヴとシンセサイザーとエコーで塗り込めた現代版ウォール・オヴ・サウンド。誰のアルバムをプロデュースしようとこのサウンドの肌触りは基本的に変わらない。そういう意味では、確かにオーヴァー・プロデュース。

が、彼のプロデュース・ワークの醍醐味は、そんなある種完成された独自の定型ポップ音像の中に、どのような渋くマニアックな隠し味をこめているか、だ。長いロックンロールの歴史の中からどんな局面を切りとってきてプロデュースする対象アーティストに絡ませるか。あるいは、かつてそのベテラン・アーティストがどんな役割をシーンにおいて果たしていたのか、どんな魅力を振りまいていたのかを、いかに現代にも有効な形でリスナーに(そして、本人にも)“思い出させる”か。

次々移り変わっていくことを余儀なくされつつ、しかし同時に変わらない何かをも継承し続けなければならない、そんなロックンロールの使命を全うするために、ジェフ・リンは様々なアーティストのもとで持てる力を存分に発揮してきた。

そう考えると、もろもろ揉めていた権利関係がクリアされて“ELO”というバンド名義をジェフ・リンがまた使えるようになった時期、2001年にリリースされた復活アルバム『ズーム』以降、今回のジェフ・リンズELO名義による『フロム・アウト・オブ・ノーホエア』までの作品群というのは、もしかしたら、これまでジェフ・リンがコンテンポラリーなシーンへと甦らせてきた様々な先達たちと同じ位置に、今、ELO自体を据えたということなのかも。

往年の人気アーティストの魅力をよみがえらせることにかけて右に出る者なしの天才的プロデューサーであるジェフ・リンが、ELOというある種歴史的なアーティストを俯瞰した視点から見つめ直し、その魅力を再構築している、みたいな…?

ちなみに、JRN系で毎日オンエアしている『萩原健太のMusic SMiLE』では、今週、ニュー・アルバム・リリース記念、ELO特集をやってます。ラジオで聞くELOは最高です。よろしければ、ぜひ!

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