Disc Review

Note By Note / Booker T. Jones (Edith Street Records)

ノート・バイ・ノート/ブッカー・T・ジョーンズ

ちょっと前にスタックス・レコード在籍時代のシングル・コレクションを本ブログでもご紹介したブッカー・T&ジ・MGズ。その中核メンバーだったキーボード奏者/ソングライター、ブッカー・T・ジョーンズは、先月末、初の自伝本『TIME IS TIGHT: My Life, Note by Note』を出版したばかり。

この自伝、テネシー州メンフィスを本拠に、時に裏方として多くの偉大なソウル・シンガーたちをバックアップし、時に自らがパフォーマーとして数々の名演を残しながら、米国ソウル音楽シーンの形成/成長に大きく貢献してきた彼のとてつもなく刺激的な半生を、自在に時間軸を行き来しながら振り返った実に興味深い一冊なのだけれど。

その自伝のサウンドトラック・アルバム的な位置づけでリリースされたのが本盤。過去、ブッカー・Tが様々な形でレコーディングに関わってきた楽曲の新録/再演をメインに構成された1枚だ。収録曲の大半が自伝本の章タイトルにもなっている。

まず1曲目は、1960年、まだ16歳だった彼にとってプロ・ミュージシャンとしての初レコーディングとなったルーファス&カーラ・トーマスの「コーズ・アイ・ラヴ・ユー」の新録ヴァージョン。この曲のオリジナル・レコーディングの際、若きブッカー・T少年はなんとバリトン・サックスを演奏したのだが、60年近い歳月を経て、ブッカー・Tおじさん、またまた挑戦してます。お元気です。

で、このニュー・ヴァージョンのヴォーカルのほうは、『アメリカン・アイドル』出身のジョシュア・レデットと、『ザ・フォー〜バトル・フォー・スターダム』を勝ち抜いたエヴィー・マッキニーという、テレビのタレント発掘番組で注目を集めた新進男女シンガーが担当している。かっこいい。エヴィーは次世代ソウル・アーティスト養成のための学校、スタックス・ミュージック・アカデミーの卒業生でもあるんだとか。つながってる感がうれしい。

以下、収録曲を順番におさらいしていくと——。

かつてブッカー・T&ジ・MGズがバックアップしたアルバート・キングの「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン」(ヴォーカルは曲の共作者でもあるブッカー・T本人。来日公演でもよく歌ってたっけ)。

カーラ・トーマスの「B-A-B-Y」(ヴォーカルはパティ・ラベルやカニエ・ウェスト、ジェイダキスらとの共演でも知られるブロンクスのカリブ系女性シンガー、アヤナ・アイリッシュ)。

1981年のブッカー・Tのソロ・アルバムのタイトル・チューン「アイ・ウォント・ユー」(ヴォーカルはやはり『アメリカン・アイドル』出身のデアンドレ・ブラッケンシック)。

1956年、12歳のときに教会でマヘリア・ジャクソンの伴奏をつとめた思い出の1曲「プレシャス・ロード」(ヴォーカルはR&Bからカントリーまで膨大なレコーディングに参加してきた実力派セッション・シンガー、シャーロット・ギブソン)。

やはりブッカー・T&ジ・MGズがバックアップしたオーティス・レディングのデビュー・シングル「ジーズ・アームズ・オヴ・マイン」(ヴォーカルはヴィンテージ・トラブルのリード・シンガー、タイ・テイラー)。

ブッカー・Tがプロデュースしたカルロス・サンタナのソロ・アルバムのタイトル・チューンとなったチャック・ベリー作品「ハヴァナ・ムーン」(ヴォーカルはブッカー・T自ら)。

やはりブッカー・Tがプロデュースを手がけたウィリー・ネルソンのスタンダード・カヴァー・アルバムのタイトル・チューン「スターダスト」(ヴォーカルはザ・ナショナルのマット・バーニンガー)。

ブッカー・T&ジ・MGズの大ヒット・シングルとしてもおなじみの「タイム・イズ・タイト」、サウンドトラック用ロング・ヴァージョンのほうの要素なども採り入れつつリニューアルされた新録版。

そして、バック・バンドのギタリスト/ヴォーカリストでもあるブッカー・Tの息子さん、テディ・ジョーンズをフィーチャーした新曲2曲。

というラインアップ。演奏はブッカー・Tとテディのジョーンズ親子のほか、スティーヴ・フェローニ(ドラム)と、ブッカー・Tの来日公演でもおなじみのメルヴィン・ブラノン(ベース)。曲によってレニー・カストロ(パーカッション)も参加。プロデューサー/エンジニアのアンドレ“ストレンジラヴ”リップスコムとマーク・コールも協力。

と、まあ、いろいろと注目ポイントが多いアルバムではあるのだけれど。それでも結局、何度も聞き直していくと、けっして派手なことをしているわけでもないのに、ここぞのところで白タマ弾き延ばし一発、音像の背景でなんともどっしりした存在感を放ちながら楽曲にこの上なく魅力的な輝きを与えてみせるブッカー・TのB3オルガン・プレイのすごさを、今さらながらに改めて思い知ってしまうというか。

そういうアルバムです。

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