Disc Review

The Complete Stax Singles Vol. 1 (1962-1967) / Booker T. & The MG’s (Real Gone Music)

ザ・コンプリート・スタックス・シングルズ Vol.1 (1962-1967)/ブッカー・T&ジ・MGズ

一般的に1950年代末~1960年代初頭は“ロックンロール冬の時代”と言われている。

エルヴィス・プレスリーが徴兵された。チャック・ベリーが少女を州境を超えて連れ出した罪で告発された。幼い従姉妹と結婚したことでジェリー・リー・ルイスが全米のラジオ局から締め出された。バディ・ホリーやエディ・コクランが悲劇の事故死を迎えた。リトル・リチャードが出家した。アラン・フリードは収賄で有罪を食らった。この激動の時期を境に荒々しく粗野な初期型ロックンロールは鳴りをひそめ、フランキー・アヴァロンやアネットに代表される、より穏やかなティーンエイジ・ポップスがヒットチャートの主流を占めるようになった…というのが大雑把なアメリカン・ポップ・シーンの流れではある。

が、以降64年にビートルズを筆頭とする英国ビート・バンドたちが全米を席巻するまでアメリカにはロックンロールがなかったと早合点するのは間違いだ。“ロックンロール冬の時代”にだってごきげんなロックンロールはチャート上に存在していた。フォー・シーズンズ、ディオンら東海岸イタロ・アメリカン・ポップもその一例だし、ボブ・ディランやジョーン・バエズらのモダン・フォークもそう。そして、ロックンロール/R&Bインストゥルメンタル。これを絶対に忘れてはいけない。時代的にも音楽的にも、エルヴィス・プレスリーとビートルズをつなぐ重要な橋渡し役となったのが、それらロックンロール/R&Bインストだった。

生々しいグルーヴを放つスター・ロックンローラーが次々とシーン最前線から姿を消し、甘いマスクのアイドルが注目度を高める中、しかしロックンロールの熱いグルーヴを歌声によってではなく楽器で受け継ごうとした見上げた連中もいたということだ。アイドルたちの活躍の場は主にTVや映画だったが、対して我らがインスト野郎どもはラジオで存在を主張。ラジオ音楽番組のエンディング・テーマがわりにDJが何の説明もなくこうしたインストのシングルをかけ、もし電話などでリスナーからの問い合わせが多かったら正式なプレイ・リストに加えられ、徐々に反響を広げ全米的なヒットへ…という道のりをたどりながら、彼らは人気を獲得していった。

で、その代表選手のひとつが、昨日ブログでも取り上げたジェリー・マギーが在籍していたベンチャーズであり、強烈なトワンギー・ギターで無数のヒットを連発したデュエイン・エディであり、セッション・ギタリスト、デイヴ・バージェスを中心にでっちあげられ58~62年に8曲のチャート・ヒットを記録したチャンプスであり、59~62年にかけて8曲の全米ヒットを放ったドラマーのサンディ・ネルソンであり、プロデューサーのジョー・サラシーノが有能なセッション・ミュージシャンをかき集めて作り上げたマーケッツやルーターズのような架空のスタジオ・バンドたちであり…。

そしてこの人たち、ブッカー・T&ジ・MGズだ。ご存じ、ソウルの名門、テネシー州メンフィスのスタックス・レコードでオーティス・レディングやサム&デイヴ、ウィルソン・ピケットら無数のR&Bシンガーたちのバッキングをつとめたハウス・バンド。ブッカー・T・ジョーンズ(オルガン)、スティーヴ・クロッパー(ギター)、ルウィ・スタインバーグ(ベース)、アル・ジャクソン(ドラム)というのが当初のラインアップだ。のちにベースがドナルド“ダック”ダンに変わった。意識的にバンドとしての見え方を強調するようになった1962年当時、ブッカー・Tが17歳、クロッパーが20歳。まさに若き腕ききたちだった。

現在はちょっとした見学コースのようになっている往年のスタックス・スタジオを訪れたとき、レコーディング・スタジオのブースにメンバー4人が愛用していた楽器が昔の定位置にそれぞれ置かれていたのが印象的だった。彼らはこのスタジオに常駐し、次から次へと名曲をバックアップし続けていた。かつて、地元のサン・レコードに所属して活躍していたビリー・リー・ライリーのレコーディングのバックをつとめていたとき、合間にブルージーなリフを4人で演奏してみたら、スタックスの創設者のひとり、ジム・スチュワートが気に入り、インスト・シングルとしてリリースすることになった。

それが「グリーン・オニオンズ」。1962年にリリースされ、全米3位、R&Bチャート1位に輝く大ヒットに。以降、1970年代にかけて、クールさとホットさとが同居する彼ら独自のサウンドを満載したヒットを20曲近く全米チャートに送り込んだ。と、そんなヒット・シングルのうち、1967年までに出たAB面全曲を時系列で1枚のCDに詰め込んだのが本作。「モー・オニオンズ」だけカップリング曲違いの盤が出ているので、計29曲。うち15曲がチャート・ヒットだ。ぼくがかつてFM番組のBGMに使いまくっていた「ビートにしびれて(Hip Hug-Her)」とか、最高にクールな「ブリージン」とか、もうごきげん。オリジナル・アルバム未収録曲もあり。

まあ、彼らの場合、これまでにもたくさんのコンピが編まれてきたし、充実のボックスセットとかもあるし、今さら…と思う方もいらっしゃるでしょうが。ここまできっちりシングルに特化して編纂された盤は初めてじゃないかと思う。すべてモノラルのシングル・ヴァージョンというのもうれしい。名匠ビル・イングロットも絡んだというテープ・リサーチ/ソース・リサーチも見事。ダン・ハーシュによるリマスタリングもいい。エド・オズボーンのライナーもばっちり。さすがはリアル・ゴーン・ミュージックだ。

ここに集大成された時期のあとも、「ソウル・リンボ」「奴らを高く吊るせ(Hang ‘Em High)」「タイム・イズ・タイト」など、ブッカー・T&ジ・MGズにはヒット・シングルが多いので、当然ながらVol.2の登場を心待ちにさせていただく所存でございます。ちなみに全世界1000セット限定のブルー・ヴァイナルLP2枚組も出てるみたい。しまった。そっちを買うべきだったか…。今月の下旬になると、日本盤も出るみたいです。

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