Disc Review

Dr. Dog / Dr. Dog (We Buy Gold Records)

ドクター・ドッグ/ドクター・ドッグ

フィラデルフィアのインディ・ロック・バンド、ドクター・ドッグが“今回が最後”と宣言してツアーを行なったのが2021年で。けっして解散ではないとか言ってはいたけれど、ああ、レコード・デビューから20年を目前に、これで活動停止なんだな、と。ファンのほとんどはそう覚悟していたと思う。

ところが、うれしい誤算。新作、出ました! 途中、ライヴ・アルバムがあれこれ出たり、フロントを担うツー・トップ、ベースのトビー・リーマンとギターのスコット・マクミッケンがそれぞれソロ・アルバムをリリースしたり、いろいろあるにはあったけれど、バンド名義のスタジオ作としては2018年の『クリティカル・イクエイション』以来。6年ぶり。今回はマクミッケンが全体を仕切っているようだ。

2022年、本ブログでも紹介したビッグ・シーフのアルバム『ドラゴン・ニュー・ウォーム・マウンテン・アイ・ビリーヴ・イン・ユー』ってのがあって。ビッグ・シーフが全米4カ所のスタジオを転々としながらレコーディングした2枚組だったのだけれど。その4カ所のうちのひとつがスコット・マクミッケンのホーム・スタジオであるアリゾナ州ツーソンのプレス・オン・スタジオ。そのセッションがマクミッケンさんを触発したらしく。自分たちも活動を再開しようと思い立ったのだとか。ビッグ・シーフ、グッジョブ!

でもって、トビー・リーマンのおじさんがペンシルヴァニア州フォークスヴィルに持っているキャビンに楽器類や録音機材を持ち込んで、そこでレコーディング・セッションがスタート。一発録りっぽい感触を大事にしながらアルバムが完成へと至ったのだとか。

ティラノザウルス・レックスとビートルズが合体したみたいなサイケに歪んだ自主制作ファースト・アルバムでいきなりぼくたちを驚かせた後、アンタイ在籍期を経て自分たちの“ウィー・バイ・ゴールド・レコード”を設立。徐々に1960年代後半のビーチ・ボーイズっぽさとか、ビッグ・スターっぽい捻れたパワー・ポップ感覚とか、フィラデルフィアならではのソウルっぽいニュアンスとか、オルタナ・カントリー風味とか、多彩な音楽性を取り込みつつ着実にアルバム・リリースを重ねてきて。

で、今回の新作へ。過去いち開かれたアプローチを展開しているかも。収録曲はもちろん大半がマクミッケンとリーマンの共作曲なのだけれど、ドラムのエリック・スリックが初めて書いてヴォーカルを担当した曲とかも含まれていて、バンドの一体感も過去いちだ。最後を締める「ラヴ・ストラック」にはシー&ヒムのM.ワードが客演しています。

さすが20年選手だけに、初期に比べると音作りはぐっと洗練されてきてはいるものの、やはりこの人たちならではのローファイでどこかチープな感触が根底に流れ続けていて。かっこいい。ここにきて初めて自分たちのバンド名をどかんと冠した1枚をリリースしてきた自信のようなものも痛快だ。うれしい1枚。

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