Disc Review

Greendale / Neil Young & Crazy Horse (Reprise)

グリーンデイル/ニール・ヤング&クレイジー・ホース

ジョニー・キャッシュの訃報。体調の悪さはかねてから伝えられていたので、それなりに覚悟はしていたものの。やはり、この偉大な存在が他界したというニュースには胸が締め付けられた。ウォーレン・ジヴォンの訃報も切なかった。ロックンロール以降のポップ・ミュージックの歴史もどんどん積み重ねられて、どうしたって訃報が多くなってしまうわけだけれど。同時に、自分のリスニング歴の長さみたいなものも意識せざるを得ない今日このごろ。

日々、音楽を聞き続けてきた時間の積み重ねってやつに思いを馳せると、幸せなようでもあり、不幸なようでもあり。というのも、長く聞いてきたからこそ味わえる深い感動みたいなものを手に入れられたのはうれしいのだけれど。裏腹に、かなり多くのものを体験してしまった身ゆえ、そこそこのものでは簡単に感動できなくなってしまったのも事実。そこそこの新人のそこそこの新作を聞いても、若いリスナーだったらこれもまた新鮮なのかなぁ…とは思っても、大方の場合、これまでのポップ・ミュージックのイディオム内の仕上がりであることが多くて。あまり盛り上がれなかったりするのも事実。

で、ここからが分かれ目で。たとえばロックとかに新鮮さとか目新しさとかを求め続けてきたベテラン・リスナーの中には、こうした事態に陥った際、“だいたいのことがわかっちゃった”ロックを見捨て、新奇さだけを求めて未体験ジャンルの音楽へと歩を進めたりする人が少なくない。「最近、ロックがつまんなくてさ。近ごろはキューバの音楽ばっかり聞いてる」とか「アフリカものとか南米ものが新鮮なんだよねー」とか、ある日突然言い出したりするタイプっつーか。

まあ、音楽を聞くことは結局ある種の学習だから。学習を重ねて、いろいろ細部が分かってくると、当然のことながら新鮮な発見の喜び、出会いの喜びはなくなる。でも、あまりいろいろ知らなかった若いころにロックに接しながら感じた“新鮮さ”“新奇さ”が忘れられず、それを追い求めて他の、まだあまり細部まで知らない音楽の世界へと再入学して、また一年生としてあらゆることに新鮮に接していく、と。そんな感じで非ロック系の音楽に興味を移していくベテラン音楽ファンって、けっこう多い。

でも、そうではなくて、新鮮さと引き替えに手に入れた“深い感動”のほうにこだわって、そのまま、これまでと同じ音楽を聞き続けるしつこいタイプの人間もいて。ぼくはこっちのほうかな。若いころに若いころなりの視点で楽しんでいた音楽を、もう一度、若いころにはわからなかったところにまで踏み込む形で、より深く、じっくり味わう、と。年齢を重ね、より幅広い音楽や芸術に接する中で、楽曲ひとつひとつの背景に雄大に広がる文化の深さみたいなものを知って、それに改めて打ちのめされながら、「ああ、俺はいったいこれまで何を聞いてきたんだ。こんなに深い世界だったとは…」みたいな感動を楽しむパターン。昔からなじんだ楽曲そのものに対してそうした感動を覚えることもあるし、なじみの音楽フォーマットに対して感動することもあるし。これって、やっぱりひとつのタイプの音楽にしつこく、飽きることなく付き合ってきてはじめて味わえるものだと思う。

もちろん、実際はこんなふうにきっちり二分できるわけもなく。両方の要素がそれなりの割合で交じり合いながら、おっさんリスナーたちは各自それぞれのリスニング・ライフを送っていて。どちらが優れたアティテュードだとか、そういうことはないのだろうけれど。

これはパフォーマー側にも言えることで。時代とともにくるくると表層をとっかえひっかえしながら生き延びていくタイプのベテラン・アーティストもいれば、ずっと変わらず同じフォーマットの音楽を突き詰め続けるベテラン・アーティストもいる。当然ながら、ぼくは後者のタイプが好きで。送り手と聞き手、ともに成長してきたんだなぁという共感もより強く。つい、そっちのタイプにこだわってしまう。

そんなアーティストの代表格のひとりが、今回のピック・アーティスト、ニール・ヤングだろう。クレイジー・ホースと組んだ話題の新作が登場した。発売前からあれこれ噂されていた新作で。ただ、あまりいい噂ばかりじゃなかったです。今回の新作、たぶんすでにみなさんご存じの通り、グリーンデイルという小さな町に住む家族の姿を描いたコンセプト・アルバムで。夏のツアーで全曲がアコースティック・アレンジで披露されていたらしい。けど、そのツアーのレビューがね。なんだか芳しくなかったのだ。高いチケット買ってライヴに出かけてみたら聞いたこともない新曲を淡々と演奏するばかりで…みたいな。おかげで、聞く前は少し引き気味だったのだけれど。

が、結論から言うと、これはまさにニール・ヤングな一枚。このところ、活動初期に通じる、穏やかで、ちょっとノスタルジックな『シルヴァー&ゴールド』とか、ブッカー・Tらのサポートを得て渋くきめた『アー・ユー・パッショネイト』とか、多彩で、それなりにキャッチーな諸作を出し続けてきたニール・ヤング。おかげでニール・ヤング観がそっちよりにシフトしちゃってるきらいもあるのだけど。今回は盟友クレイジー・ホースとがっちりタッグ。初めて聞いた瞬間の、なんともいえないとっつきにくさも含めて、96年の『ブロークン・アロウ』、いや94年の『スリープス・ウィズ・エンジェルズ』、いやいや、もしかしたら90年の『ラギッド・グローリー』以来、本当に久々のニール・ヤング&クレイジー・ホース節が堪能できるスタジオ・アルバムかも。聞く前にちょっと引き気味になる感触も、実は往年のクレイジー・ホース盤に通じるものだっりして。

このしぶとい変わらなさかげんと、より内面へと深まった表現と。ああ、そうそう、ニール・ヤングってここ数作みたいなポップな手触りも持っているけど、あえて一歩踏み込んでくるリスナーに対してしか響かない“歌”を深い部分で届ける男でもあったなぁ、と思い出させてくれた。しぶとく聞き続けるうちになんとも言えぬ愛着がわいてくるアルバムなんじゃないかなぁ…と、これまでの経験上、感じる一枚です。ぼくはまだ本盤の魅力のすべてを味わい尽くしてないんだろうなぁ。今後の感動の深まりを楽しみに、長いスパンで粘着リスニングしてみます。ダブリンでの弾き語りライヴの模様を収めたライヴDVD付きの仕様、およびDVDオーディオ版もあり。

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