Disc Review

summerteeth: Deluxe Edition / Wilco (Rhino)

サマーティース(デラックス・エディション)/ウィルコ

ウィルコというバンドも、時期によってゆるゆるっとサウンドの表層を変化させながら活動を続けていて。どの時期のウィルコが好きか、ファンそれぞれ、好みが分かれるところだろう。まあ、ファンならば基本、全部の時期を好きなことが前提ではあるけれど。その中でどの辺にいちばん思い入れがあるか、に関しては多彩な意見があるはずだ。

一般的にはシカゴ音響派との脈絡などもたたえた2002年の『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』が人気作かな。でも、ぼくはその前まで。『ヤンキー…』以降ももちろん好きだけれど、それより断然、初期。

グランジの音圧と、ギター・ポップの痛快さと、グラム・パーソンズ以降の内省的なコズミック・アメリカン・ミュージックの精神をあわせもつサウンドを雄々しく提示していた時期というか。ロックンロール、グランジ、オルタナティヴ、パワー・ポップ、カントリー、フォーク、R&Bなど、多くの音楽要素を積極的に採り入れつつ、全編にわたってルーツ・ロックへの熱い思いを通底させつつ、独自のメランコリックな歌心を貫いてみせていた時期というか。そんなころのウィルコが今でも大好きなのだ。

ご存じの通り、ウィルコの母体となったのはアンクル・テュペロというバンドで。1990年代半ば、ボトル・ロケッツ、ブルー・マウンテン、バッド・リヴァーズ、ワコ・ブラザーズ、ジェイホークスらとともにオルタナ・カントリー・シーンを賑わしていた。そのバンドのツー・トップ的存在だったメンバーのうちのひとり、ジェイ・ファーラーがサン・ヴォルトを結成して独立し、もう一方の雄、ジェフ・トウィーディがウィルコを結成した、と。

当初から他のバンドに比べればあらかじめポップな音楽性を強く発揮していたとはいえ、ウィルコもデビュー当時は意図的にかなりルーツ寄りのサウンド・アプローチを繰り広げていた。その路線が1995年の『A.M.』、1996年の傑作2枚組『ビーイング・ゼア』、そして1998年、偉大なフォーク歌手、ウディ・ガスリーが生前に残した未発表歌詞を甦らせたビリー・ブラッグとの共演アルバム『マーメイド・アヴェニュー』あたりまで続いて。

が、この時期、彼らをオルタナティヴ・カントリー・バンド、あるいはルーツ・ロック・バンドと印象づけるうえで最大の肝となっていたフィドル、ラップ・スティール、バンジョーといったカントリー系楽器を一手に担当していたマックス・ジョンソンが脱退。それによって、ウィルコはギター、キーボード、ベース、ドラムというごく普通の4人組に。

この、まあ、なんというか、ごくフツーの編成でリリースされた最初のアルバムが1999年の『サマーティース』だった。曲によっては中期ビートルズみたいだったり、1960年代半ば過ぎのビーチ・ボーイズみたいだったり、ニール・ヤングみたいだったり、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいだったり、ティム・バックリーみたいだったり…。

もはや細かい分類を拒絶するかのような、よりポップで多彩なポップ/ロック・アルバムに仕上がっていて。ぼくが大好きな初期の味と、『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』以降、現在へと至る味との、ちょうど中間っぽい、おいしいとこどりの1枚。

ちょうど同時期、同じアンクル・テュペロを母体に生まれたサン・ヴォルトがザ・バンドにとっての“ビッグ・ピンク”を思わせる“ジャジューカ・プレイス”なる倉庫にこもって持ち前のオルタナティヴ・カントリー~ルーツ・ロック感覚を迷いなく研ぎ澄ましたアルバム『ワイド・スウィング・トレモロ』を完成させたのとは正反対。

もちろん、どちらも“あり”な方向性だったと思う。1990年代を通して存在感を主張し続けたオルタナティヴ・カントリー・ムーヴメントの成熟ぶりをそれぞれのやり方で体現した頼もしい盤として、当時のぼくはこの2枚のアルバムを聞きまくったものだ。

と、そんな傑作アルバム、ウィルコの『サマーティース』がデラックス・エディション化された。うれしい。CD4枚組、あるいはアナログLP5枚組。まずはCDフォーマットのほうで説明すると——。

核となっているのは名匠ボブ・ラドウィックが手掛けた2020年最新リマスター音源によるアルバム『サマーティース』本編。隠しトラックも含む全17トラックをCD1に収めて。CD2はデモ、プロト・ヴァージョン、別ヴァージョン、別テイク、アウトテイク集、全24トラック。リリースされたヴァージョンでは軽くポップな仕上がりになっていたアルバム・タイトル・チューンのミディアム・スロウ・ヴァージョンとか、ちょいブルー・アイド・ソウル風味が増していて最高! 

で、CD3とCD4は1999年11月1日、コロラド州ボルダーでレコーディングされた未発表ライヴ音源をフルで収録…という構成。このライヴがまた、『サマーティース』収録曲のみならず、『マーメイド・アヴェニュー』からの曲まで含む初期レパートリー満載で楽しい楽しい。ストリーミングはこっちのパターン。

アナログ5枚組(Amazon / Tower)のほうは、まずLP1とLP2にオリジナル・アルバムのリマスター音源を振り分けて。LP3とLP4がデモ、プロト・ヴァージョン、別ヴァージョン、別テイク、アウトテイク集。でもってLP5がCDとは違う、1999年3月11日、アルバムの発売日のほんの2日後にレコーディングされシカゴのFM局WXRTでオンエアされたタワー・レコードでのインストア・ライヴ(全10曲)の模様を収録している。

てことは、うー、なんだよ、結局どっちも手に入れなきゃならないじゃん…。

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