Disc Review

Dragon New Warm Mountain I Believe in You / Big Thief (4AD)

ドラゴン・ニュー・ウォーム・マウンテン・アイ・ビリーヴ・イン・ユー/ビッグ・シーフ

ビッグ・シーフってバンドの作品は、なんとなくゆるめの2枚組になっているというか。1作リリースすると、わりと即座に次の1作が登場して、2作でひとつみたいな感触をもたらしてくれることが多い気がする。

4ADに移籍する前、サドル・クリークからリリースされた2作、2016年の『マスターピース』と2017年の『キャパシティ』という2枚もなんとなく組になっている感じ。リリース間隔は1年以上空いているけれど、『キャパシティ』のレコーディングは『マスターピース』の半年くらい後、一気にスタートしたらしいし。

その後、4ADに移籍して放った『U.F.O.F.』『トゥー・ハンズ』は2019年の5月と10月にそれぞれリリースされて。あまりのスピードに驚いたものだ。しかも、両方聞いて初めてこの人たちの意図が有機的に浮かび上がってきた、みたいな、そんな仕上がりだったし。

で、パンデミックの間、バンド活動ができなかった時期には、グループのツー・トップ的存在であるエイドリアン・レンカーとバック・ミーク、それぞれがそれぞれの環境でそれぞれのソロ・アルバム『ソングズ+インストゥルメンタルズ』『トゥー・セイヴィアーズ』を制作。

常にルーズなペアで作品が存在しているような、そんな感じがする。自分たちの中に渦巻く様々なアンビバレンスというか、相反する要素というか、そういったものを提示するにはそれなりの“振り幅”が必要ってことなのだろうか。優れたクリエイターならではの創造意欲の表われなのかもしれない。

てことで、ビッグ・シーフがいよいよ久々にバンドとして再結集して放つ待望の新作。今度はどんな感じになるのかとワクワクしていたら。来ました。これ1作で2枚組分、みたいな(笑)。4つの異なった地域にバンドで出向き、各々異なったレコーディング・スタジオで録音された全20曲を詰め込んだ充実の新作だ。

前々作『U.F.O.F.』はワシントン州シアトル近郊の木造りのスタジオ“ベア・クリーク・スタジオ”でレコーディングされた。続く『トゥー・ハンズ』は広大な砂漠の中にあるテキサス=メキシコ国境付近のソニック・ランチ・スタジオでのレコーディング。ビッグ・シーフはアルバムごとに的確な“場”を設定しつつ、その独特の世界観を作り上げてきたわけだけれど。

今回は先述の通り、4カ所を渡り歩きながらの制作作業。このアイディアを提案したのはアルバムのプロデューサーとしてもクレジットされているドラムのジェイムス・クリヴチェニアだ。

ひとつ目のスタジオは、友人のソングライター、サム・エヴィアンがニューヨーク州北部の森の中に構えるフライング・クラウド・レコーディングス。ふたつ目は、先日リリースされたニール・ヤング&クレイジー・ホースの『バーン』が録音されたことでも知られるカリフォルニア州トパンガ・キャニオンのファイヴ・スター・スタジオ。みっつ目はロッキー山脈の街、コロラド州テルユライドに19世紀に建てられた納屋を改装した通称“スタジオ・イン・ザ・クラウズ”ことミュージック・ガーデンズ。そして、よっつ目がアリゾナ州ツーソンにあるドクター・ドッグのスコット・マクミッケンのホーム・スタジオ、プレス・オン・スタジオ。

ビッグ・シーフはこれら4つの異なる環境下で行なわれた濃密なレコーディング・セッションで45曲のOKテイクを完成させ、そこから厳選された19曲と、あと1曲、エイドリアンがマサチューセッツ州ウェストハンプトンのホテルの部屋でひとりで録音した弾き語り音源を加えて、本作『ドラゴン・ニュー・ウォーム・マウンテン・アイ・ビリーヴ・イン・ユー』に詰め込んだ。

デビュー以来、彼らのよき相談相手だったアンドリュー・サーロのもとを離れ、初めてメンバーのジェイムス・クリヴチェニアがプロデュースしたビッグ・シーフのアルバム。これまでのビッグ・シーフらしさをたたえた曲もあれば、各々のソロ・プロジェクトで披露した多彩な試行錯誤と二重映しになるものもある。ありがちなバンド・サウンドを拒否したような斬新なアプローチもある。前出の言い回しを繰り返すならば、彼らの中に渦巻く多様な要素と振り幅を全部、分け隔てなく詰め込んだ大作で。そういうものをリリースしても、もはや誰からも文句言われない状況をビッグ・シーフはついに手に入れたということなのかも。

『U.F.O.F.』と『トゥー・ハンズ』を手がけたエンジニア、ドム・モンクスも協力。バック・ミークのソロ作もバックアップしていたマット・デヴィッドソンや、キャロル・キングとの共演でも知られるベテラン木管プレイヤー、リチャード・ハーディらも参加。

いいバンドです。輸入盤CDは全20曲入りの1枚もの。LP(Amazon / Tower)は2枚組。国内盤CD(Amazon / Tower)はボーナス・トラック2曲を追加した2枚組。ちなみに国内盤には、えー、もれなく不肖ハギワラが書かせていただいたライナーノーツも付いてます(笑)。

コロナ禍で中止になってしまった来日公演、改めて切望します。

というわけで、スーパーボウルの朝の更新。試合開始前までにアップしようと思ったものの、やっぱり思うようにはいかず(笑)、試合始まっちゃってます。いかんいかん。さあ、ラムズvsベンガルズ、見るぞ。特にどっちか応援しているわけでもないので、どっちもがんばれで満喫します。

Resent Posts

-Disc Review
-