Disc Review

Two Saviors / Buck Meek (Keeled Scales)

トゥー・セイヴィアーズ/バック・ミーク

去年の10月、エイドリアン・レンカーの新作を紹介したこのエントリーでも書きましたが。新型コロナ禍で今年の3月に延期されていたビッグ・シーフの来日公演。結局、時期未定の再延期というか、要するにチケット払い戻しってことになっちゃって。心の底から残念でならないのだけれど。

でも、このコロナ禍でワールド・ツアーが中止になってしまったからこそ、それと引き換えに手にしたフリーな時間を活かして、バンドのフロントを担うエイドリアンが改めて自らの内省と真摯に対峙したあの名作ソロ・アルバムを作ってくれたりした、と。それもまた事実で。

不幸中の幸い、というのは言葉が違うか。でも、要するに優れたクリエイターというのは、どんな環境に置かれたとしても、転んでもただじゃ起きないというか。それはポール・マッカートニーブルース・スプリングスティーンテイラー・スウィフトもそう。

パンデミック自体に感謝する気など当然さらさらないわけだけれど、その最悪な状況下にあってなお自分たちのクリエイティヴィティを最大限に発揮してくれた表現者たちには心から感謝するばかり。と、まあ、そんなふうにポジティヴな解釈でもしない限り、この1年以上に及ぶ悪夢を乗り切れないからなぁ…。

今朝とりあげるのも、そんなアルバム。前出、エイドリアン・レンカーと同じビッグ・シーフで、彼女とともにバンドのツー・トップ的な存在感を発揮しているギタリスト/ソングライター、バック・ミークのソロ作だ。ビッグ・シーフ結成以前に自主リリースした2作のEPや、2018年、ソロ名義での初フル・アルバム『バック・ミーク』に続く1枚。

といっても、実際はパンデミックが米国に襲来する以前から曲作りなど準備が始まり、ベーシックなレコーディングが行なわれたのは2019年の7月らしい。ビッグ・シーフとも古い付き合いになるプロデューサー、エンドリュー・サーロの提案によって、ニューオーリンズのビクトリア朝様式の古い一軒家を借り、ミュージシャン仲間とそこに泊まり込んで、1週間という短い期間で集中レコーディングされたものだとか。8トラックのアナログ・マルチ・テープレコーダーにダイナミック・マイクをつなぎ、ヘッドホンなし、ほぼ一発録りに近い形でのセッションだったという。

バック・ミークがギターとヴォーカル、アダム・ブリスビンがギター、マット・デヴィッドソンがベース、ペダル・スティール、フィドルなど、オースティン・ヴォーンがドラム、そしてバックの弟、ディラン・ミークがキーボード。

ふにゃふにゃ、ヨレるような歌声が、ナチュラルなバンド・サウンドと絡み合いながら、なんとも不思議な浮遊感に満ちた音宇宙を編み上げる。フォーク、カントリーを基調にしたアコースティカルな音像をベースに、しかしオルタナティヴかつアンビエントな空気感も音の狭間に漂う。アーシーな感触ときわめて抽象的な観念との融合、みたいな。テキサス育ちという出自と、現在はニューヨークを拠点に活動するという環境と、両者をうまく活かした魅力的な仕上がりだ。

全曲、もちろんバック・ミークのオリジナル。「キャンドル」1曲のみ、エイドリアン・レンカーとの共作だ。バンド活動を経て、ソングライターとしてもより幅広くバラエティ豊かな個性を発揮できるように成長した感じ。

バックとエイドリアンだけでなく、ビッグ・シーフのメンバーとしてはドラムのジェイムズ・クリヴチェニアも去年、エクスペリメンタル作品『ア・ニュー・ファウンド・リラクゼイション』を発表している。もともとメンバーのソロ活動もそこそこ活発だったビッグ・シーフながら、この非常時に世に問うた各々のソロ・プロジェクトには通常とは違う思いも何らかこめられていたはず。そこで得た成果を、彼らがどんなふうにビッグ・シーフへと持ち帰るのか。楽しみだ。

いつになるかわからないけれど、本当に再延期の来日が実現する日が訪れることを心から願っております。

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