Disc Review

Pony / Rex Orange County (Rex Orange County/Sony)

ポニー/レックス・オレンジ・カウンティ

途中、来日なども挟まれていたので、そんな超久々感はないものの。ごきげんだった前作『アプリコット・プリンセス』からすでに2年半。英国の若きポップ・シンガー・ソングライター、レックス・オレンジ・カウンティことアレックス・オコナーがようやくニュー・アルバムを届けてくれた。

前作が大いに注目を集めてから、えんえん世界中をツアーして回る日々。その流れで日本にも来てくれたわけだけれど。周囲が思うほど本人はその成功を手放しで喜んではいなかったようで。いきなり今回のオープニング・チューン「10/10」では、なんだか懐かしい、キャッチーな、でもどこかチープめのシンセ・サウンドに乗せて、“いちばん古い友達のことを考えてる/もうやつらと遊ぶことはできない/家に帰れる日が待ち遠しい/この1年ほとんどギリギリだった…”みたいなことを歌っている。

この曲で漠然と提示された閉塞感とか不満とか苦しさとかが、その後のアルバム収録曲で具体的に綴られていく。とか言うと、なんかダークでややこしいアルバムのようにも思えるけれど、アレックスはそれは彼ならではのポジティヴで、かつ自然体な魅力と、卓抜した美メロ作りの才能とでうまいこと中和してみせる。まだ21歳だというのに、なかなかの手練れだ。この「10/10」という曲自体、最後には、いかにそうした悩みや苦しさから脱却したかが描かれて終わるのだった。

何に悩み、苦しみ、そしていかにして立ち直ったか。

アルバム全体がそんなテーマをひとつの大きな流れとして構成されている。主にアルバム前半が、いろいろ大変だった時期の心象。2曲目のバラード「オールウェイズ」では、誰かに心から助けを求めることがどれほどむずかしいかが歌われているし、「ストレスド・アウト」って曲では、口では友達だとうそぶきながら、実は人がストレスに押しつぶされそうになっているところを見るのが好きで、本当に必要なときけっしてそばにいてくれない“フェイクな友”のことが描かれる。

で、アルバム後半。折り返しにあたる6曲目の「ネヴァー・ハッド・ザ・ボールズ」で、悩みを自分の内側にため込むのではなく、外側に向けて解き放つことの大切さを称えて、それ以降は、何というか、立ち直り編、みたいな(笑)。

ただ、音のほうは相変わらず、往年のポップR&Bやミドル・オヴ・ザ・ロード系の極上メロディ感覚と、ヒップホップ以降のアプローチとを当たり前のように合体させた、今様ブルー・アイド・ソウルで。「エヴリウェイ」という曲では、ピアノの弾き語りでまるでランディ・ニューマンのような世界観を紡ぎ上げてみたり、「イット・ゲッツ・ベター」ではR&Bのグルーヴと深いストリングス・アンサンブルとを交錯させてみたり。アイデアも豊か。歌詞的には重い前半もポジティヴで楽観的な後半も、サウンド的にはアルバム全編がキャッチー。そこがいい。ぐっとくる。

そして、ラスト。スフィアン・スティーヴンスのようなバロック・ポップふうの手触りをたたえたバラード「イッツ・ノット・ザ・セイム・エニーモア」で、タイトル通り、以前の、よりシンプルで幸せだった人生とはもう違ってしまったけれど、でも、誰かが助けてくれるわけじゃない、自分で解決しなくては…と静かな決意を告げ、最後、It’s better、よくなったよ、という一節で終わる。こうして「10/10」でスタートしたアルバムがひとつの環を描く。

そんな意味では、けっして完全に重なり合うわけではないけれど、かつてブライアン・ウィルソンが自らの苦悩に満ちた人生を1編の物語としてアルバムに綴った『ラッキー・オールド・サン』あたりと印象がダブるかも。

まあ、常人にはけっして理解し得ないであろう長年に及ぶブライアンの苦悩に比べられるものは、もちろん、この世にそうそうないわけだけれど。大なり小なり、誰もがそれぞれ悩みや苦しみを抱えていて。それぞれのやり方で克服しながら生きていて。アレックスくんもそんなひとり。このアルバムのエンディングに漂う一筋の希望とほのかな切なさは、特に『ラッキー・オールド・サン』のエンディングに匂うそれとなんだか近いような気も…。

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