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Disc Review

Letter to You / Bruce Springsteen (Columbia)

レター・トゥ・ユー/ブルース・スプリングスティーン

出た。ようやく。ブルース・スプリングスティーン。盟友E・ストリート・バンドとのタッグを久々に本格復活させた新作『レター・トゥ・ユー』。このブログでも、ずいぶんと前からこことかこことかで騒ぎまくってきたので、またかよ…と思われちゃうかもしれませんが。すみません。またです(笑)。

昨夜というか今朝というか、午前0時にサブスクの配信もスタート。新型コロナウイルス禍のさなか、これまで以上に仲間の大切さを再認識したか、自宅スタジオにEストリート・バンドの面々を招集。一発録りっぽいアプローチの下、ほんの5日間で仕上げてしまったという1枚だ。いいわ、やっぱり。しばらくこれで気分をアゲながら日々を送れそう。

ちょっと昔話になるけれど。実はぼくの場合、スプリングスティーンに関しては出遅れ組。深くハマったのはちょっと遅くて。1980年の『ザ・リヴァー』が出たときだ。もちろん、それまでも聞いてはいた。大学の先輩がセカンド・アルバム『青春の叫び(The Wild, the Innocent & the E Street Shuffle)』の国内盤を買ってきて、それを聞かせてもらったのが初めての出会いだったかな。

でも、ぼくはずいぶんとノーテンキなポップス・ファンだったもんで。そのときは特になんとも思わず…(笑)。ご本人の意向に反して、“第二のボブ・ディラン”とか呼ばれていたことも、大のディラン・ファンだったぼくには気にくわなかった。おかげで、この人の本当の凄みを心底思い知らされるまでにちょっと時間がかかってしまった。1975年の大傑作アルバム『明日なき暴走(Born to Run)』ですら、わりとぼんやりやりすごしてしまっていたくらい。でもって、ようやく『ザ・リヴァー』が出た1980年になって、遅ればせながら本気で打ちのめされた。

まじ、すごいな、と。このときばかりは圧倒された。1950〜60年代のロックンロール/R&Bの精神を本能的に体内にしたためた男が、自由に、伸び伸びとその持ち味を発揮していた。サウンド的にも、歌詞の面でも、フィル・スペクター、エルヴィス・プレスリー、ザ・バーズ、ボブ・ディラン、ロイ・オービソンなど、彼が敬愛するロックンロール・ヒーローたちへの熱いオマージュが、それまでのどのアルバムよりもくっきりと、随所に散りばめられていた。

壮大なストリート・ライフ・シンフォニーも、片田舎にくすぶる切ないフラストレーションを淡々と綴る楽曲も、ハッピーなロックンロールも、何から何までが2枚のLP内にランダムに渦巻いている。ある曲では他者との絆、共同体への欲求をぶちまけ、しかしある曲では一人にならなければいけないと確信をもって訴え…。どちらも真実。両極を激しく揺れ動きながら、スプリングスティーンはすべてのパラドックスをありのままぶちまけた、混乱と喧騒のロックンロール・アルバムを作り上げてみせた。

「フィル・スペクターのようなサウンドでディランのような歌詞をデュアン・エディのようなギターをバックにロイ・オービソンのように歌いたかった」という、かの超欲ばりな名言からもわかる通り、この人の魅力は圧倒的な“全部乗せ”感だ。何かを捨て去ることなく、全て背負い込んで前進する。そんな持ち味が『ザ・リヴァー』には充満していた。そして、その“全部乗せ”の最新型こそが今回の新作『レター・トゥ・ユー』だなと思う。最高だ。

ただし、アルバムの幕開けだけはちょっと違う。オープニング・チューン「ワン・ミニット・ユーアー・ヒア」は、前作『ウェスタン・スターズ』からの脈絡をたたえたようなアコースティック・ギターの弾き語りに弦アンサンブルが絡む穏やかなナンバーだった。でも、この曲の歌詞に耳を傾けていたら、いきなりちょっと泣けてきた。

“Baby baby baby / I'm so alone / Baby baby baby / I'm coming home”と、ここでスプリングスティーンは歌っていて。これって、アルバム『明日なき暴走』の収録曲「凍てついた十番街(Tenth Avenue Freeze-Out)」の大サビ“And I’m all alone, I’m all alone / And I’m on my own, I’m on my own / And I can’t go home”とイメージがダブりません?

45年の歳月を経て、スプリングスティーンは今なおとてつもない孤独感を抱いたままで、でも、かつてはそれでも“家には帰らなかった”のに、今は孤独を感じながら“家に帰っていく”のだ。

そんなことをつぶやくように歌った後、2曲目へとなだれ込むや否や、いきなり来る。どかん、と来る。アルバムからの先行シングルとして話題を巻き起こした表題曲。マックス・ワインバーグの強烈なドラム・フィルをきっかけに炸裂するEストリート・バンドならではの太く強いロック・チューンへ。興奮するしかない。

そんなふうに、今回のアルバムには音楽的な“全部乗せ”にとどまらず、時間軸すら“全部乗せ”されている感じがあって。現在だけでなく、過去も明瞭な形で混在している。以前もこのブログで書いた通り、収録された全12曲中3曲が往年のお蔵入り曲の新録。そして、実はそれら3曲が本盤をより力強いものにしている。

新曲が書けなくなったからでは? と辛辣に批難する人もいそうだけれど。いや、すでに70代に突入したスプリングスティーンにとって、もはや新しいとか古いとか、いつ書いた曲かとか、もしかすると誰が書いた曲かすら、どうでもいいことだろう。それは長い歳月をリアルに体感した者でないと理解し得ない感触。ボブ・ディランあたりと同様、スプリングスティーンもそれを今、思いきり有効に活用し満喫している気がする。実際、新曲もかなり手応えたっぷりな仕上がりの曲ばかりだし。

それでもぼくは今回、新曲以上にそれら70年代に書かれたお蔵入り曲たちと半世紀近い時の流れを超えてコネクトしてみせたスプリングスティーンの姿にこそ胸が震えたということ。

79年のリハーサル・テイクがブートなどでおなじみの「ジェイニー・ニーズ・ア・シューター」をはじめ、初期オーディション録音やいわゆる“ロンドン・パブリッシング・デモ”音源で知られる「イフ・アイ・ワズ・ザ・プリースト」と「ソング・フォー・オーファンズ」。特に後者2曲は、以前のブログでも書いた通り、ピアノ、あるいは生ギターの弾き語り音源しか残っていないので、往年のザ・バンドすら想起させる今回の豪快な新録ヴァージョンはうれしい限り。若気の至りとも言える、ちょっといかれた、でも背伸び気味の達観漂う歌詞を老齢になった自らがそのまま歌う。時間軸が思いきり歪みながらスリリングに連関する。

スプリングスティーンの思いは、そして仲間との絆は、半世紀の歳月を経てもけっして揺るがないってことだ。やばい。

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© 2020 Kenta Hagiwara