Disc Review

We Get By / Mavis Staples (Anti-)

ウィー・ゲット・バイ/メイヴィス・ステイプルズ

60代後半から70代を通じて、こんなコンスタントにたくさんの新作アルバムをリリースしたシンガーって他にいるんだろうか。メイヴィス・ステイプルズ。元ステイプル・シンガーズのリード・シンガーだった彼女が、ソロとして、再び着実なペースで唯一無比の太く豊かな歌心をぼくたちに届けるようになってくれたのは、以前こちらのページでも書いた通り、07年以降だ。

当時彼女は67歳だったけれど、ソロ・シンガーとしてアンタイ・レコードと新たに契約。ライ・クーダーをプロデューサーに迎えて、60年代公民権運動のただ中でよく歌われたブルースやゴスペルをカヴァーしまくった意欲作『ウィール・ネヴァー・ターン・バック』をリリースした。その後も、ウィルコのジェフ・トウィーディやシー&ヒムのM.ワードをプロデューサーとして起用し、スタジオ盤5作、ライヴ盤2作、次々とメッセージ色の濃い新作を出し続けながら、ぼくたちを鼓舞したり、泣かせたりしてきた。

そんなメイヴィスの新作。今回起用したプロデューサーはベン・ハーパーだ。ベン・ハーパーはメイヴィスの2016年作『リヴィン・オン・ア・ハイ・ノート』に「ラヴ・アンド・トラスト」という楽曲を提供していたけれど、今回はアルバム全編、11曲すべてを作詞作曲している。父親がアフリカ系アメリカ人とネイティヴ・アメリカンの血をひき、母方の祖母がロシア/リトアニア系ユダヤ人というハーパーも、自ら常に意識的なメッセージを放ちながら活動してきたシンガー・ソングライター/ギタリスト。60年代、公民権運動の時代から、ステイプル・シンガーズの一員として歌声を武器に戦い抜いてきたメイヴィスと本格的にタッグを組むとは当然の成り行きだったのかも。

近年のメイヴィス・サウンドの要とも言うべきリック・ホームストロム奏でるテレキャスターのアグレッシヴな音色が印象的なエレクトリック・ブルース「チェンジ」とか、どストレートなプロテストR&B「ブラザーズ・アンド・シスターズ」とか、トランプが仕切る悪夢のようなアメリカ社会に真っ向から切り込む姿勢に相変わらず緩みはない。愛と信念を胸に、笑顔で、私たちはやりとげる、どんなことがあっても私はあなたのもとへ駆けつける…と、ベン・ハーパーとのデュエットで歌われるアルバム・タイトル・チューンも感動的。かっこいい。

けど、メイヴィスも今年の7月で80歳。かつてステイプル・シンガーズのメンバーとしてともに活動していた父のポップス・ステイプルズは2000年に(2015年に発掘リリースされた遺作がこちら)、姉のクレオサは2013年に亡くなった。去年、もうひとりの姉、イヴォンヌもこの世を去った。中でも特に、直近のイヴォンヌとの別れが今作の楽曲たちに大きく影を落としているようだ。アルバム自体もイヴォンヌに捧げられている。そんなこともあってか、閉塞した現状に対する警告や怒りの表現などとともに、本作にはどこか切ない色合いも漂う。

無骨なギターのバッキングのみで歌われるバラード「ヘヴィ・オン・マイ・マインド」とか、信じられる友との運命の出会いを綴る「ネヴァー・ニーデッド・エニワン」とかには、大きな喪失感と闘う現在のメイヴィスの心情も託されている感じ。あらゆる矛盾に対して毅然と立ち向かい続けてきた強い女性が、けっしてすべてを諦めたとかそういうわけではないけれども、しかしふとした瞬間、人前で初めて寂しげな表情をよぎらせたような…。

“流れゆく日々をつかみなさい。日々の流れにつかみ取られる前に。特別な時間を付け加えなさい。少しでもいいから。私はやわらかい夏のそよ風のような時を過ごしてきた。離れがたいわ…”と歌われる「ハード・トゥ・リーヴ」とか、なんだか泣けます。じわじわ沁みます。

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