Disc Review

My Song: 50th Anniversary Edition / Labi Siffre (Edsel)

マイ・ソング(50周年記念エディション)/ラビ・シフレ

ラビ・シフレ。いまだに本当はどう読むんだかわからないロンドン生まれのシンガー・ソングライター。初めて聞いたのは、んー、いつだったかな。もう1970年代半ばを過ぎていたような気もする。ぼくの大学生時代。どこかの輸入レコード・バーゲンで、パイ・レコードから出ていたこの人のデビュー・アルバムを手に入れたのが最初で。

ラビ・シフレに関しては、ほんと、何ひとつ知らなかったので、まあ、いわば“ジャケ買い”をしたわけですが。別にジャケット自体がそんなにかっこよかったわけじゃない。マーティンのアコースティック・ギターを持ったラビ・シフレと思しき男が雑に三重移しになっているみたいなやつで。むしろかっこ悪いような…(笑)。

でも、裏ジャケットをじっと眺めていたら、収録曲ほとんどが自作である中、2曲だけカヴァーが入っていて。ひとつがビージーズの「ワーズ」。もうひとつが、ハリー・ニルソンの「メイビー」。ビージーズも好きだったし、「ワーズ」といえば、さらに輪をかけて好きだったエルヴィス・プレスリーもカヴァーしていた曲だし。ニルソンに至ってはその当時本当にハマっていたアーティストだし、しかも「メイビー」は名作『ハリーの肖像(Harry)』の収録曲だし。

おっ…と思って、買ってみた。バーゲンだからね。安かったし。クレジットによるとオリジナル・リリースは1970年。5年くらい遅れての出会いだったわけだ。で、聞いてみたら、A面1曲目に入っていた「トゥー・レイト」って曲からいきなり、サンバというか、ボッサというか、不思議なグルーヴのもと、アコースティック・ギターとノスタルジックなストリングスが絡み合う妙な音像が飛び出してきて。

その次がしっとりアコギで弾き語る「ワーズ」で。次がバート・バカラックというかハーブ・アルパートというかロジャー・ニコルスというか、そういうものを想起させるコード進行の下、またまたストリングスがピチカート聞かせたりする「サムシング・オン・マイ・マインド」で。次がアコギ弾き語りに突如木管・金管アンサンブルが切り込んできたりする「メイビー・トゥモロウ」って曲で…。

正直、最初はこの人の持ち味というか方向性というか、そういうものをつかみかねていたのだけれど。でも、聞き続けるうちに、それこそハリー・ニルソンとか、ヴァン・ダイク・パークスとかにも通じる、ちょい捻れた感触にじわじわやられていって。少しずつ他のアルバムにも手を出すようになっていった。

といっても、そんなにオリジナル・アルバムを簡単に入手できる状況でもなかったので、確か次に買ったのは英EMIから出ていたベスト盤だった。A面1曲目に「メイク・マイ・デイ」、B面1曲目に「クライング・ラフィング・ラヴィング・ライイング」が入っているやつ。あれをよく聞いた。のちにマッドネスがカヴァーした「イット・マスト・ビー・ラヴ」とか、あと「ウォッチ・ミー」とか、名曲だなぁと思ってけっこうハマった。

あ、そうだ。あと、当時あんまりロック好きの友だちの前では話題にできず、おうちでひっそり、しかし熱く楽しませてもらっていた(笑)オリヴィア・ニュートン・ジョンさまが1975年のアルバム『クリアリー・ラヴ』で「クライング・ラフィング…」をカヴァーしていたんだよなぁ。あー、懐かしい。

その後、しばしの活動休止期間を経てリリースされた「ソー・ストロング」って曲での反アパルトヘイト・メッセージが各方面で話題になったり、エミネムやジェイZ、カニエ・ウェストなどが往年のラビ・シフレ・ナンバーをサンプリングしたことで注目が集まったり、日本でもフリー・ソウルだとかフォーキー・ブームだとか、そういうムーヴメントの中で再評価されたり…。

そんなラビ・シフレ、先述した通り、デビュー・アルバムのリリースが1970年で。それから50年ということで、それを記念するボックスセットを英エドセル・レコードがリリースしてくれた。この人の本格的ボックスセットって、これが初じゃないかな。めでたい。ということで、紹介しておきます。9月くらいに出ていたみたいだけど、見逃してました。

CD9枚組。ラビさん本人編纂による全146曲。ボーナス・トラック44曲。オリジナル・アルバム未収録のシングル音源を含め、2006年にまとまったCD再発があったときのボーナス音源が基本だけど、あのときにデラックス・エディションが出なかった盤にも新たなボーナス音源が入っていたりするので、要チェック。本人インタビューを含む32ページのブックレット付き。この人のキャリアが詳しく綴られている。

『ラビ・シフレ』(1970年)、『ザ・シンガー・アンド・ザ・ソング』(1971年)、『クライング・ラフィング・ラヴィング・ライイング』(1972年)、『フォー・ザ・チルドレン』(1973年)、『リメンバー・マイ・ソング』(1975年)、『ハッピー』(1975年)、『ソー・ストロング』(1988年)、『マン・オヴ・リーズン』(1991年)、『ザ・ラスト・ソング』(1998年)という、ラビ・シフレのオリジナル・アルバム9作が各1枚ずつ、9枚のCDに分載されてます。

ラビ・シフレ、一気にコンプリートするにはいい機会。初回500セットにはラビさん直筆サイン入りのポートレイトも付いてます(笑)。

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