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Disc Review

Take Me Back: The Bigtone Sessions / Kim Wilson (M.C. Records)

テイク・ミー・バック:ザ・ビッグトーン・セッションズ/キム・ウィルソン

ぼくは本当にファビュラス・サンダーバーズというバンドが好きだった。いや、だった…とか言っちゃいけないか。メンバー・チェンジを繰り返しながらではあるものの、ファブ・Tバーズは今なお活動中だし。過去形じゃない。申し訳ない。

とはいえ、ぼくが好きなTバーズはやはり活動初期だ。1979年にタコマ/クリサリス・レコードからデビュー・アルバムをリリース。その後、着実にリリースを重ねて、1986年、メジャーのCBSへと移籍。アルバム『タフ・イナフ』で広く注目を集めるようになったころまでの彼ら。ほんと、最高だった。

ちょうどそのころ、ぼくは幸運なことに彼らのライヴに接することができた。1986年3月、仕事で訪れていたニューヨークでのこと。ストレイ・キャッツを解散してソロ・デビューを果たしたばかりのブライアン・セッツァーのニューヨーク凱旋コンサートを見るのがメインの目的だったのだけれど。なんと、その夜のオープニング・アクトをつとめたのが、『タフ・イナフ』のプロモーションのために全米を精力的にツアーして回っていたファビュラス・サンダーバーズだった。

とんでもない柵ボタ。あのときの興奮は忘れない。泥臭く、かつソリッドなギター・プレイを繰り広げるジミー・ヴォーン。ウッド・ベースとエレキ・ベースを持ち替えながら、腰の入ったリフを繰り出し続けるプレストン・ハバード。着実なビートを刻むフラン・クリスチナ。そして、ディストーションまみれのブルース・ハープを吹き鳴らしながら渋い歌声をふりしぼるキム・ウィルソン。キーボードのチャック・リーヴィルをサポートに従えて全部で10曲ほど、息もつかせぬ勢いで聞かせてくれたっけ。

会場はビーコン・シアター。広いステージの中央付近にメンバー4人がぐっと固まり、あまり派手なアクションも見せずに演奏。その姿がやけに印象的だった。長年、小さなクラブばかりで演奏してきたせいかもしれない。けれども、音のほうは本当にかっこよかった。音圧も文句なし。スピード感も抜群。臭い言葉だけれど、連中のホットなスピリッツがいきいきと伝わってきた。

その夜。このコンサートの打ち上げパーティが、なんとたまたまぼくが泊まっていたホテルのレストランで行なわれていた。これまたラッキー。そこで、ダメでもともとと、レストランで見かけたキム・ウィルソンに歩み寄り自己紹介。ぼくが日本でDJをつとめているラジオ番組のためのコメントをお願いしてみた。

キムは申し出を快くOK。ぼくの部屋までやって来てテープレコーダーにコメントを吹き込んでくれた。ジミーの弟、スティーヴィー・レイ・ヴォーンから聞いたという日本の話をいろいろしてくれたり、バンドの音楽的ルーツについて話してくれたり。

「ぼくたちの音楽は日本で受け入れてもらえるかな。もし可能性があるんなら、ぜひ日本に行って、できるだけ多くの人にTバーズの魅力を生で味わってもらいたい。スティーヴィーの話じゃ、日本ではロックンロールやR&Bの名盤がたくさん再発されているんだろ? そういう面でも、ぼくにとって日本は本当に魅惑的な国なんだ」

結局、その年の暮れ、彼らの初来日が実現。日本のロック・ファンもTバーズならではのホットなロックンロール・ワールドを生で体験することができることになったわけだけれど。

と、そんな思い出の夜から36年。キム・ウィルソンの最新アルバムが出た。Tバーズとしてではなく、ソロ・アルバムだ。ソロ名義では3年ぶり、7作目。今回はM.C.レコードからのリリースだけれど、同レーベルからは過去、2001年に『スモーキン・ジョイント』、2003年に『ルッキング・フォー・トラブル』という2枚のソロ作を出していて、どちらもグラミー賞のトラディショナル・ブルース部門にノミネートされていた。その後、2作のソロ・アルバムを間に挟んで、めでたく17年ぶりのレーベル復帰だ。

といっても、どのレーベルにいようがキム・ウィルソンがやっていることはいつも同じ。セヴァーン・レコードから2017年に出た前作『ブルース・アンド・ブギーVOL.1』同様、今回もビッグ・ジョン・アトキンソン(ギター)のビッグ・トーン・スタジオに、ビリー・フリン(ギター)、キッド・アンダースン(ギター)、バレルハウス・チャック(ピアノ)、ラスティ・ジン(ギター)、ボブ・ウェルシュ(ギター、キーボード)、トロイ・サンドウ(ベース)、マーティ・ドッドソン(ドラム)ら前作から引き続きの顔ぶれも含む渋いブルース・プレイヤーたちを迎えての1枚だ。

2016年に他界したバレルハウス・チャックの名前もクレジットされているということは、たぶんレーベルは違えど、前作録音時の音源なども含まれているのだろう。

ビッグ・トーン・スタジオには、かつてチェスとかコブラとかヴィージェイとか、そういう往年のレコード・レーベルが世に送り出していた豊かなサウンドを再現できるヴィンテージのアンプとかマイクとかイクイップメントとかががっつり揃っているそうで。そのあたりを存分に駆使して、なんと! ほぼ全曲、モノラルで一発録り!

アルバム全体がファブ・Tバーズでデビューしたころからのメンター的存在だったジミー・ロジャースに捧げられていて。そんなジミー・ロジャースのレパートリーが4曲(「イフ・イット・エイント・ミー」「ザ・ラスト・タイム」「マネー、マーブルズ&チョーク」「ゴーイン・アウェイ・ベイビー」)取り上げられているのをはじめ、オープニングを飾るジミー・ノーレンの「ユーヴ・ビー・グーフィング」、ラリー・ウィリアムスの「スロウ・ダウン」、パーシー・メイフィールドの「ストレンジ・シングス・ハプニング」、リトル・ウォルターの表題曲「テイク・ミー・バック」、ハウリン・ウルフの「ノー・プレイス・トゥ・ゴー」…と、全16曲中9曲がカヴァーだ。

それらがごきげんな仕上がりなのは言うまでもないけれど、残る7曲、キム・ウィルソンの自作曲たちも負けないくらいごきげん。どこが新曲だよ、という(笑)、ぶりぶりな仕上がりではありますが。4曲のインスト・ナンバーで特に大フィーチャーされているブルース・ハープも相変わらず絶品。ビッグ・ジョン・アトキンソンとか、ビリー・フリンとか、バックを支える連中も超かっこいいプレイを聞かせてくれるし。言うことなしの1枚だ。

新境地を切り拓くとか、ルールをぶち破るとか、そういうことじゃないのだ。もちろんそれもかっこいいし意味のあることだけれど、伝統を受け継ぐこと、守り抜くこと、それだって同じくらいかっこよくて意味のあることなのだ。オーヴァーダブとか、ほんとに必要なの? ステレオって何? みたいな。そんなことまで思っちゃう、まじ、うれしい新作でありました。

間もなく、10月28日に国内盤も出ます。

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© 2020 Kenta Hagiwara