Disc Review

Burnin’: 60th Anniversary Edition / John Lee Hooker (Craft Recordings/Concord)

バーニン:60周年エディション/ジョン・リー・フッカー

「ブーン・ブーン」って曲を初めて聞いたのは、たぶんスパイダースのヴァージョンかな。ぼくが小学生だったとき。1960年代後半のことだ。リード・ヴォーカルはかまやつさんだった。なんか、ブンブンブンブン…とか言ってるだけなのにやけにかっこいい曲だな、と。ガキながらワクワク興奮したものだ。

後年知ったことだけれど、どちらも「シェイク・イット・ベイビー」って曲と組み合わされていたアニマルズ・ヴァージョンのコピーで。「ブーン・ブーン」も「シェイク・イット・ベイビー」ももともとはジョン・リー・フッカーってブルースマンの持ち歌だった。

となると、もちろん元歌を聴いてみたくなるわけで。といっても1960年代の話。オリジナルを聞く手立てもなかなかなく。キャンド・ヒートとの共演盤買ったり、いじましくあれこれしながら、ずいぶんと後になって、もう高校生になってからかな、なんとか、ようやくジョン・リー・フッカーのオリジナル・ヴァージョンにたどりついた。で、やっぱオリジナルはいいな、たまらないなと再認識した。

なんといっても、まずはヴォーカル。アニマルズ・ヴァージョンがけっこう高い声域でシャウトしていたこともあって、かまやつさんもそれに倣った感じだった。この曲はそういうものだと思っていた。けど、オリジナルのジョン・リー・フッカーは低い、ドスの効いた声で、しかし特段にシャウトすることもなく、よりゆったりしたテンポ感でキメていて。

さらに、アニマルズもスパイダースも歌っていなかった“ハウ・ハウ・ハウ・ハウ…”とか“ンー…”とか、ささやいているみたいなとこもあって。それがまたファンキーで、ブルージーで。しびれましたわ。

1970年代半ばに日本でブルース・ブームが湧いて以降、この人のアルバムもいろいろ再発されるようになって。1980年には映画『ブルース・ブラザーズ』にも出て。1980年代末からはまた活発に新作も出るようになって…。

まあ、様々なレコード会社を渡り歩いてきたベテラン・ミュージシャンだけに、何か総括的にこの人の活動を俯瞰したいと思っても、これ! というアンソロジーのようなものになかなか出会えず。膨大なレーベルに録音を残してきたせいで、権利関係がぐしゃぐしゃなのか。怪しげな廉価版も含め、やたら再発コンピが出ていた。乱発状態。同じ曲の再録音も多いので、どれを買ったらいいのやら。まだ世の中がLP時代じゃなかった1940年代から活動しているだけに、ぼくもかつてずいぶんと苦労してきました。

そんな中、でも、このアルバムだけは過去何度もオリジナルの形で再発されてきた。1962年にシカゴのヴィー・ジェイ・レコードから出た『バーニン』。「ブーン・ブーン」を含む傑作で。バックを固めているのがジョー・ハンター(ピアノ)、ジェイムス・ジェマーソン(ベース)、ベニー・ベンジャミン(ドラム)、ハンク・コスビー(サックス)ら、デトロイトからやってきたモータウン系のツワモノたち。のちにザ・ファンク・ブラザーズなどと呼ばれることになる未来の売れっ子ミュージシャン連中だったこともあり、演奏のクオリティもとりわけ素晴らしく。大名盤。

それがまたまた最新リマスタリングをほどこされて出ました。今回はステレオ・ヴァージョン、モノ・ヴァージョン、両方を抱き合わせた豪華仕様。「テルマ」の未発表別テイクも併せて収録されてます。

ジョン・リー・フッカーの場合、音楽的にもフォーク/カントリー・ブルースからエレクトリックもの、R&Bものまで、振り幅が広く。まじ、どこからとっかかっていいかむずかしいのだけれど。このアルバムはジョン・リー・フッカー入門にも絶好の1枚かも。

ジョン・リー・フッカー自身がひとりで演奏すると、小節がテキトーに伸び縮みしたり、ビート感も独特だったりして。まあ、慣れてくるとそれがまたたまらなく魅力的なのだけれど、腕ききバンドを率いてのレコーディングだったこともあり、『バーニン』のサウンドはとてもかっちりしていて。ワン・コードでえんえんバウンドしながら女性を説得し続ける「レッツ・メイク・イット」とか、やはりワン・コードのリフに乗ってやさぐれ気味のメッセージを語り続ける「ドラッグ・ストア・ウーマン」とか、チャンプスの「テキーラ」を思わせる躍動的なテックス・メックス系コード・リフに導かれてスタートする「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」とか、冒頭“ワッヂャセイ? レッツ・ゴー”というドス効きまくりの一言がやばい「ホワット・ドゥ・ユー・セイ」とか、今聞いても色褪せない多彩なグルーヴをぐいぐい堪能できる。

この人の音楽をプリミティヴなものと受け止める方も多そうだけれど、このアルバムを聞くと、むしろこの時期、きわめて都会的なグルーヴをクリエイトしようとしていたこともわかって。盛り上がる。まじ、いきいきしたアーバン・ブルース盤。でも、同時にひとりで小節を伸び縮みさせながら弾き語りしているときと同じ、なんとも不思議な吸引力に満ちた中毒性みたいなものは変わらず感じさせてくれるという。マジカルだわぁ…。

オリジナル・マスターからの最新リマスタリングもいい出来です。アナログLPはオリジナル・ステレオ・ヴァージョンのみの収録ながら、いろいろな色があるみたいで。こっちも見逃せないなぁ。

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