Disc Review

Queens of the Summer Hotel / Aimee Mann (SuperEgo Records)

クイーンズ・オヴ・ザ・サマー・ホテル/エイミー・マン

エイミー・マン、新作出ましたー。2017年の傑作『メンタル・イルネス』以来、4年ぶり。より深く、しなやかに。さらなる傑作を届けてくれた。

エイミーは2018年、スザンナ・ケイセンの自伝を下敷きに制作された伝記青春映画『17歳のカルテ(Girl, Interrupted)』(ジェームズ・マンゴールド監督、ウィノナ・ライダー主演)の舞台版の音楽を担当することになっていたらしく。その原作本(日本では『思春期病棟の少女たち』という邦題で翻訳出版された)を読み込み、大いに触発されながら多くの楽曲を、とてつもないスピードで、一気に、次々と書き上げていったのだとか。

ところが新型コロナウイルスのパンデミックの大波を受け、舞台版の制作が中断されてしまった。しかし、エイミーは立ち止まることなく、その舞台のために書き下ろした15曲を集めたアルバム作りに着手。長年のコラボレーターであるポール・ブライアンをプロデュース/アレンジに迎え、本作『クイーンズ・オヴ・ザ・サマー・ホテル』を完成させた、と。そういう流れらしい。アルバム・タイトルは米国の告白詩人、アン・セクストンの作品にインスバイアされたものだとか。

正気と狂気、正常と異常、真実と嘘、喜びと哀しみ、愛と憎しみ…それらを隔てる“境界”のようなものがいかに不確かで曖昧かがさまざまな切り口から描かれていく。自殺、近親相姦といったテーマに踏み込んだ曲もある。かつてのようなジャングリーなギター・ポップ・チューンとかがまったく見当たらない点は賛否分かれるかも。でも、OK。前作『メンタル・イルネス』の「グッド・フォー・ミー」とか「プア・ジャッジ」あたりで垣間見られた、ひたすら内省的な手触りと、しかし外側の世界をクールに見据え、見抜く眼差しとが共存するいい曲ぞろいだ。これらはスザンナ・ケイセンの視線を通して描かれた世界観でもあり、エイミー・マンの私的な告白でもあり、聞く者ひとりひとりのパーソナルな物語でもある。

ひたすら穏やかな手触りのアルバムではあるけれど、言葉選びも、旋律の紡ぎ方も、アンサンブルの構築も、そして歌い方も、すべて揺るぎなし。タイトでヴィヴィド。ここしかないというピンポイントで、互いに分かちがたく絡み合っている。柔らかさと強さとを併せ持つエイミーの歌声と、ポール・ブライアンが手がけた弦および木管主体の洗練されたオーケストレーションとの相性も素晴らしい。

フォーキーで、ジャジーで、クラシカルで…。エイミー・マンのソングライターとしての底力を改めて思い知らされたアルバムです。

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