Disc Review

Fat Pop (Volume 1) / Paul Weller (Polydor/Solid Bond)

ファット・ポップ/ポール・ウェラー

前作から1年足らず。ものすごいハイペースで届けられたポール・ウェラーの新作だ。

なんでもウェラーさん、前作『オン・サンセット』を去年の7月にリリースした後、パンデミックのせいでツアーもすべてキャンセルされ、何もできない状況下、ぽっかり空いてしまった時間を持て余したらしい。そこで、かつて作りはしたものの、各アルバムのコンセプトに合わなかったなど、さまざまな理由から未完成のままお蔵入りしていた楽曲群に向き合い直したのだとか。

自身のスマートフォンに記録されていた簡素な曲の断片に立ち返り、出来のいいものをピックアップ。それらを元に自宅スタジオでギターあるいはピアノだけをバックに弾き語ったデモ音源をレコーディングした。で、そのトラックをベン・ゴードリエ(ドラムス)、アンディ・クロフツ(ベース)、スティーヴ・クラドック(ギター)らツアー・バンドのメンバーに送り、リモート環境でダビングしたり、アレンジを固めたり…。

しかるのち、ロックダウンがいったん解除されたタイミングを見計らって全員が英サリー州にあるウェラーのブラック・バーン・スタジオに結集。一気にアルバムを仕上げてしまったらしい。テイラー・スウィフトとか、ポール・マッカートニーとか、ブルース・スプリングスティーンとか、多くの意識的なアーティストがこのパンデミック期間を利用しながら、それぞれのクリエイティヴィティを存分に発揮した新作をぼくたちに届けてくれたものだけれど。ポール・ウェラーのこの新作もそう。

コロナ・ウイルスに感謝なんて絶対にするはずもないけれど、この最悪な状況をポジティヴにとらえ、自身の創作活動にさらなる馬力をかけて素敵な新作をぼくたちに届けてくれたアーティストたちには、ほんと心から感謝するしかないというか…。

冒頭、いきなりウェラー流のエレクトロ・ポップというか、フューチャー・ウェイヴというか、「コズミック・フリンジズ」って曲でスタート。なもんで、あ、今回はこういう感じ? と、まあ、テクノ系ちょっと苦手なぼくは一瞬腰を引いたものの。杞憂でした。その種のニュアンスを多少なりともたたえているのは、他に、ゴリラズあたりにも通じるようなクールなエレクトロニックR&B感覚に貫かれたアルバム・タイトル・チューンくらいか。あとはウェラーならではの幅広い音楽性を存分に活かしたあの手この手のポップ・チューンの雨アラレ。

そういう意味では、ある種のベスト・オヴ・ポール・ウェラー。彼の持ち味のカタログというか。斬新な新味みたいなものはまったくないのだけれど、いい曲ぞろい。

ザ・ミステリーンズのリア・メトカーフとのコール&レスポンスでぶちかますざらついたロック・チューン「トゥルー」。娘さんのレアとコラボしつつ、1960年代サンシャイン・ポップふうのシャッフル・ビートに英国風のウェットな情感を乗せた「シェイズ・オヴ・ブルー」。アンディ・フェアウェザー・ロウを迎えてアイザック・ヘイズというかカーティス・メイフィールドというか…みたいなニュー・ソウル・グルーヴを繰り出す「テスティファイ」。ウェラーならではのスウィートなブルー・アイド・ソウル感覚漂う「グラッド・タイム」。イギー・ポップに捧げられたというブルージーな「ムーヴィング・キャンパス」。愛らしいアコースティカル・バラード「イン・ベター・タイムズ」。そして、オーシャン・カラー・シーンのスティーヴ・クラドックと共作した壮麗なラスト・チューン「スティル・グライズ・ザ・ストリーム」まで。

リモート環境での作業が長かったこともあり、いつものように何曲も同時進行でレコーディングする、みたいなスケジュール感ではなかったらしい。1曲1曲、順番に仕上げていく感じ。それもまた、今回のいい形でのバラエティ豊かさにつながっているのかも。ぼくはハイレゾ音源をダウンロード購入しちゃったんだけど、ボーナス音源満載のCD3枚組デラックス・エディション(Amazon / Tower)もあります。聞いてませんが、こっちも思いきり興味深い。

Volume 1ってことだから、当然Volume 2もあるのかな。期待しております。

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