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Disc Review

Just Like That... / Bonnie Raitt (Redwing Records)

ジャスト・ライク・ザット…/ボニー・レイット

ボニー・レイットのファースト・アルバムが出たのは1971年暮れだから。この人もデビュー50周年か。いやいや、かっこいいなー。72歳になった今も、特にむりやり気張ることもなく、偉そうにすることもなく、自然体で活動し続けていて。

かつてぼくが大学生だった1970年代、音楽仲間のニシクボさんとか、ミズグチとか、みんなボニー姐さんのこと、大好きだったっけ。ぼく個人は当初そんなにのめり込んではいなかったのだけれど。そういう仲間の家に遊びに行くたび彼女レコードをあれこれ聞かされ、ロック喫茶のようなところで何度も耳にし…。そうこうするうちに、じわじわこの人の魅力が身体に沁みてきて。

オリジナル曲もいいけれど、カヴァーのセンスがなんとも素晴らしく。もちろん絶品のスライドを含む適度にメロウで適度にファンキーなギター・プレイも最高で。1970年代が終わるころ、アルバムで言うと『ザ・グロウ』とか、そのあたりが出たときにはぼくもすっかりこの人のファンになってしまっていたものだ。

その後、1989年、例の『ニック・オヴ・タイム』でグラミー3部門を獲得するなど、一気に一般的な注目度を上げたあとも、しかし持ち前の自然体はいっさい変わらず。というわけで、2016年の『ディグ・イン・ディープ』以来の、たぶんスタジオ・アルバムとしては18作目にあたる、70歳代になって初の新作『ジャスト・ライク・ザット…』も、ほんと、そういう1枚だ。いや、むしろ年齢を重ねたことでボニー姐さんが若き日から目指していたナチュラルな世界観がより理想型に近づいたような…。

ベテランにしか出せない、力みがどこにもない、いい感じに脱力しながらも締めるところはきっちり締まった、適度な隙間もまた心地よい、極上のブルース・ロック・アルバムというか。もう、いいとか悪いとか、そういう次元じゃ語れない、豊かな作品に仕上がっている。最高です。

2012年の『スリップストリーム』以降、3作連続で自身のレッドウィング・レーベルからのリリース。プロデュースはご本人。レコーディングは去年の夏、ロックダウンが緩和された隙に、カリフォルニア州ソーサリートで。1980年代からボニーさんのバンドを支えるリズム隊、リッキー・ファター(ドラム)とジェイムス“ハッチ”ハッチソン(ベース)に加え、新顔となるグレン・パッチャ(キーボード。ハモンドが最高!)とケニー・グリーンバーグ(ギター)がバックアップしている。

1990年代からの仲間、ジョージ・マリネリ(ギター)も1曲、ごきげんなロック・チューン「リヴィング・フォー・ザ・ワン」を共作して参加。これは最近亡くなった友人や家族に捧げた1曲だとか。その曲を含め4曲がボニー姐さんのオリジナル。締めの1曲「ダウン・ザ・ホール」は受刑者用ホスピス・プログラムについてのニューヨークタイムスの記事から生まれたというアコースティック・チューンだ。

とともに、ブラザーズ・ランドレスの「メイド・アップ・マインド」、ジョナ・スミスの「ホエン・ウィー・セイ・グッドナイト」、トゥーツ&ザ・メイタルズの「ラヴ・ソー・ストロング」、カリフォルニア・ハニードロップスの「ヒア・カムズ・ラヴ」など、今回もまた興味深いカヴァー多数。いつものように、基本的には大きくアレンジをいじり倒すことなく、でも最終的にはしっかりボニー・レイット色をにじませてしまうという職人技を披露している。

先行トラックのひとつとして先月すでにYouTubeなどで公開されていた「サムシング・ガット・ア・ホールド・オヴ・マイ・ハート」は、ボニー姐さんがもう30年くらい、いつかレコーディングしようと狙っていたというアル・アンダーソン作品だ。

アンドリュー・マセソン作のブルージーなスロウ・チューン「ブレイム・イット・オン・ミー」の中盤、姐さんはこんなことを歌う。“すべて歳月のせい。時は逃亡者。放浪者。完全犯罪ね。あなたの手から、私の手から、砂のようにこぼれ落ちてゆく。歳月が悪いのよ…”と。そして、さりげなく泣けるスライド・ギター・ソロへ。しびれる。ボニー・レイットは、しかし、そんな冷酷に流れ去る歳月すら味方につけ、軽々と凌駕し、ひょうひょうと、淡々と自分なりの表現を続けている。そんな事実を、この新作は思い知らせてくれるのでした。

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