Disc Review

Get On Board: The Songs of Sonny Terry & Brownie McGhee / Taj Mahal & Ry Cooder (Nonesuch Records)

ゲット・オン・ボード:ザ・ソングズ・オヴ・サニー・テリー&ブラウニー・マギー/タジ・マハール&ライ・クーダー

「偉大な彼らの音楽をコピーすることなんて誰にもできやしない。絶対に無理。だから、自分のベストを尽くして、いい音を出して、ハッピーな時を過ごせばいいのさ」

ライ・クーダーはそう語る。ライ・クーダーですらそう語るのだ。誰のことかと言えば、サニー・テリー&ブラウニー・マギーのこと。偉大なフォーク・ブルース/ピードモント・ブルースの先達。そんな彼らの音楽に対する愛情と敬意を真摯に表明する1枚が本作『ゲット・オン・ボード:ザ・ソングズ・オヴ・サニー・テリー&ブラウニー・マギー』だ。

しかも、ライ・クーダー単独ではなく、5歳年上の旧友タジ・マハールとがっぷりタッグを組んでの連名リリース。もう各所で話題になりまくっているので、今さら騒ぐこともないっちゃないのだろうけど。でも、やっぱり騒ぎたい。こりゃすごい1枚です。

ライ・クーダーとタジ・マハールといえば、初めての出会いは1964年のことだとか。当時、タジさんが22歳、ライさんが17歳。翌年にはロサンゼルスでザ・ライジング・サンズなるバンドも結成。アルバムのレコーディングもしたけれど、世に出たのはシングルのAB面2曲のみ。残る20トラックはお蔵入りしてしまい、1992年にオフィシャルで発掘リリースされるまで海賊盤市場の目玉商品だった。

1968年にはタジ・マハールのソロ・デビュー・アルバムにライがギターとマンドリンで参加。が、正式なレコーディング・セッションとしてはそれっきり。別々の道でそれぞれの活動をきわめていったわけだけれど。

2014年、アメリカーナ・ミュージック・アソシエーション・アワードでタジが生涯功労賞を受賞したとき、式典のハウス・バンドをつとめていたのが、ライ(リード・ギター)と彼の息子さん、ホアキム・クーダー(ドラム)、バディ・ミラー(ギター)、ドン・ウォズ(ベース)、ティム・ラウアー(ピアノ)という面々で。そのときの受賞記念演奏でタジとライは久々に共演。それをきっかけに交流が復活し、連絡を取り合うようになったらしい。

タジとライは、もう欲もないのか、特に何かしようと目論んでいたわけではなかったようだけれど、ホアキムはこの二人による“ライジング・サンズの復活”に音楽ファンが盛り上がるに違いないと確信。ノンサッチ・レコードに話を持ちかけてこの歴史的なレコーディング・セッションを実現させることになったのだとか。

タジ・マハールがヴォーカル、ハーモニカ、ギター、ピアノ。ライ・クーダーがヴォーカル、ギター、マンドリン、バンジョー。ホアキムがパーカッション、ベース。ホアキムのおうちのリヴィングルームで3日間、リラックスした環境の下、ベーシックなレコーディングが行なわれて、そこにライ・クーダーがさらにスライド・ギターをダビングしたり、3声コーラスを軽く重ねたり、ちょこっと後処理をほどこして完成に至ったものだとか。

前述した通り、収録曲はすべてサニー・テリー&ブラウニー・マギーのレパートリーだ。ブルース・ファンならばすぐおわかりだろうけど、ジャケット・デザインそのものもサニー&ブラウニーが1952年にフォークウェイズ・レコードから出した同名10インチ盤『ゲット・オン・ボード(Get On Board: Negro Folksongs By the Folkmasters)』そのままのオマージュ。ライ・クーダーが12歳のとき初めて手にしたサニー&ブラウニーのレコードだったらしい。オリジナル盤にはサニー&ブラウニーに加えてマラカス担当のコーヤル・マクマハンも連名でクレジットされたうえ写真も掲載されていたからか、こちらもタジ、ライにホアキムのクレジットおよび写真もちゃんと追加されている。ほんと、そのまんまで微笑ましい。

Get On Board / Sonny Terry & Brownie McGhee

フォークウェイズ・レコードのアルバム・ジャケットって、黒い地の厚紙スリーヴに、デザインされた長方形の紙が貼り付けてあって、その紙の左側の余った部分がくるりと裏側に回されてジャケ裏の途中までを覆っている…みたいな、なんか説明がうまくできないのだけれど、そんな形になっているものがたくさんあって。高校時代、小川町のハーモニーとかでよく買ったものですが。

その感触が今回のタジ&ライのアルバムのジャケットにも踏襲されているというか。こっちは別に貼り付けてあるわけじゃないのだけれど、表のデザインが裏の途中まで続いている感じに仕上げられていて。ぐっときた。

そういえば、綴りは違うけれど「ライジング・サン(Rising Sun)」って曲が入っていたのもあのアルバムだったっけ。でも、今回タジ&ライがアルバムで取り上げているのは1952年盤そのままというわけではなく。そこからは「ミッドナイト・スペシャル」「ピック・ア・ベイル・オヴ・コットン」「アイ・シャル・ノット・ビー・ムーヴド」の3曲のみ。残る8曲はレコードやライヴでよく披露されていたサニー&ブラウニーの代表的レパートリー群だ。

ブラインド・ブレイク、ブラインド・ボーイ・フラー、ブラインド・ウィリー・マクテル、レヴァランド・ゲイリー・デイヴィス、エッタ・ベイカー、エリザベス・コットンなどと並ぶピードモント・ブルースの代表選手のレパートリーを、その筋の継承者として右に出る者なしのライ・クーダーが、まじ、この人しかいない偉大なパイセン、タジ・マハールとともにのびのび奏でているのだ。やばい。ちなみに、今回、ライさんが「フーレイ・フーレイ」で使ったマンドリンは、タジのファースト・アルバムで使ったのと同じ楽器なのだとか。それだけでもすごい“ひとめぐり”だなぁと思う。

加えて、サニー&ブラウニーのパフォーマンスというのはかつて公民権運動讃歌としても機能していたわけで。そうした曲たちが今、相変わらず揺れまくりのこの時代に改めて息を吹き返す意義もまた大きい気がする。半世紀以上前からの付き合いになる二人の個性豊かな80歳と75歳のベテランが、若き日、自らの感性を刺激し、その後の歩みに大きな影響を与えてくれた先達へのリスペクトを表明する。この歴史の脈絡というか、壮大な時のうねりというか、なんとも胸がときめく。

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