Disc Review

Visions / Norah Jones (Blue Note)

ヴィジョンズ/ノラ・ジョーンズ

本作は、もうあちこちでたくさんレビューされている通り、とても外向きな、明るい1枚に仕上がっていて。ブルーノートの親分、ドン・ウォズが形容する通り、パンデミック突入直後、2020年にリリースされた『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』と“陰と陽”の関係にあるような感じ。『ピック・ミー・アップ…』に漂っていた失意とか喪失感とか閉塞感をノラが乗り越えて、より自由に、ありのまま時の流れを受け入れようとしている感触が伝わってきて。聞いていて救われるというか、うれしくなるというか…。

オリジナル・フル・アルバムとしては『ピック・ミー・アップ…』以来、久々ということになるのだけれど。間にライヴ音源からのベスト・セレクション『ティル・ウィー・ミート・アゲイン』とか、『カム・アウェイ・ウィズ・ミー』の20周年記念デラックス・エディションとか、レイヴェイとの共演クリスマス・シングルとか、いろいろ出たし。相変わらずちょこちょこコンピレーション・アルバムなどにも顔を出しているし。そして何より、来日もあったし。久々感はあまりなし。

そんなふうにオリジナル・フル・アルバム・リリースの空白を埋めてくれたもののひとつに2021年のクリスマス・アルバム『アイ・ドリーム・オヴ・クリスマス』があって。ご存じの通り、これ、2019年の『ビギン・アゲイン』の「イット・ワズ・ユー」や、『ピック・ミー・アップ…』に収録された「セイ・ノー・モア」「トゥ・リヴ」などにサックスで参加していたトゥルース&ソウル〜ビック・クラウン・レコードの主宰、ダップ・キングス人脈のリオン・マイケルズにプロデュースを委ねた1枚だったのだけれど。

今回はそれに引き続き、ノラさんとリオンさんが再タッグ。曲によってはおなじみブライアン・ブレイド(ドラム)やジェシ・マーフィ(ベース)らも参加しているものの、基本的にはノラがキーボードとギター、リオンがドラム、ベース、パーカッション、サックスなど、二人でほぼすべての楽器を演奏しながらの曲作り〜レコーディングだったようで。

ヴィンテージ・ソウル・リヴァイヴァルのキーパーソンでもあるリオン・マイケルズらしい的確なアナログ感が随所に渦巻く仕上がり。バンドっぽい推進力と、シンガー・ソングライターっぽい弾き語り感とが絶妙なバランスで共存している。歌声の説得力もぐっと深まって。ほんと、いいアルバムです。

ノラさんの場合、アルバムが出るたびに多彩なパートナーとのコラボレートを披露してくれて。おかげで音作りの感触もいろいろ。ジャジーだったり、カントリー寄りだったり、フォーク系だったり、かと思うと思いきりエクスペリメンタル方向に振れていたり…。振り幅がでかい。おかげでそのつど、それぞれ好みが違うファンどうしの間で“ノラはこっちのものだ”的な綱引きが行なわれたり。なんだかめんどくさいことも少なくない。

まあ、別にノラの場合に限らず、ファンというのは自分のお気に入りアーティストを自分がわかる範囲内にとどめておきたいと考えがちだから。仕方ないのだろうけど。

でも、そういう意味では今回、ノラさんはリオンの助けを借りながら、幅広い彼女の音楽性と感覚をうまいことシームレスに1枚のアルバムへと織り込んでみせていて。楽しい。リオン・マイケルズとのコラボではあまり期待できなそうなカントリーっぽさすら曲によっては顔を出す。改めてノラ・ジョーンズという個性の雄大さを思い知りました。

国内盤にはリオン・マイケルズとの初顔合わせレコーディングだったというシングル曲「キャン・ユー・ビリーヴ」を最後にボーナス追加。うれしいけど。ただ、アルバムとしては12曲目の「ザッツ・ライフ」で終わるほうが沁みるような…。

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