Disc Review

American Dreamer (8LP Box Set) / Laura Nyro (Madfish Records/Snapper Music)

アメリカン・ドリーマー(8LPボックスセット)/ローラ・ニーロ

先週の金曜日のエントリーで、本当はこれを取り上げたかったと書いた強力なボックスセット。翌土曜日の夕方、ようやく届きましたー。アナログLP8枚組。立派なブックレットも付いて。でっかい箱に二重に収められているもんで。重い重い。ネット通販で買ってよかった。郵便屋さん、ありがとう。

で、その夜から日曜日にかけて、1枚ずつ年代順に聞き続けてきたのだけれど。いやー、やっぱり改めてしびれた。ローラ・ニーロ。今回、英マッドフィッシュ・レコードがアナログLPで復刻したのは——

  1. 『モア・ザン・ア・ニュー・ディスカヴァリー』(1966年。のちに『ファースト・ソングス』へと改題して再発も。オリジナル・ジャケット)
  2. 『イーライと13番目の懺悔(Eli and the Thirteenth Confession)』(1968年。フォールド・オーヴァーのリリック・シートも復刻されている)
  3. 『ニューヨーク・テンダベリー』(1969年)
  4. 『魂の叫び(Christmas and the Beads of Sweat)』(1970年)
  5. 『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』(1971年)
  6. 『スマイル』(1976年)
  7. 『愛の営み(Nested)』(1978年)

という初期〜中期オリジナル・アルバム7作。1984年の『マザーズ・スピリチュアル』と、1993年の『抱擁〜犬の散歩はお願いね、そして明かりはつけておいて(Walk the Dog and Light the Light)』、2001年の『エンジェル・イン・ザ・ダーク』という1980年代以降のスタジオ・アルバム、さらに1977年の『光の季節(Season of Lights)』をはじめとする多くのライヴ・アルバムたちは残念ながら含まれていない。

この7作に、2002年にCD化された際のボーナス・トラックなどで世に出たデモ・ヴァージョンとかモノ・シングル・ヴァージョンとかフィルモアでのライヴ・ヴァージョンとかを1枚にまとめた盤が付いて。計8枚組。

このボックスセットが自宅に届いて、うれしくて思わずインスタにアップしちゃったときにも書いた通り、ぼくは昔からローラ・ニーロが大好きだったから、この7作のオリジナル・アルバムは当然、全部フツーにヴァイナルで持っていて。なのになんでまた買い直すんだと突っ込まれそうではありますが。でも今回は、まあ、すべて最新リマスターがほどこされているし。レア・ヴァージョン群は基本的にすべて初ヴァイナル化だし。レア情報満載のブックレットも付いているし。

問題は、それで英盤160ポンド。輸入盤国内仕様だとだいぶレートが高くなって、3万2000円から3万5000円くらい。この値段に見合うのか、と。そこんとこなわけだけれど。いや、でも、ローラ・ニーロ様だから。迷っているわけにはいきません(笑)。

ちなみに、全36ページ、LPサイズの大判ブックレット、面白い。まだ全部ちゃんと読み込んではいないけど、ピーター・ドゲットのライナーノーツも詳細だし。トッド・ラングレンやチャーリー・カレロ、ハーブ・バーンスタインのインタビューとかにも発見がたくさんあるし。国内流通仕様でゲットすると、丸山京子さんによるブックレットの全訳も付いてます。素晴らしい。ありがたい。ちなみに、トッドのインタビュー読みながら、ああ、そういえばぼくもある時期のローラに対して同じような疑問を感じていて、後年、彼女にインタビューする光栄にあずかった際、それを本人にぶつけてみたこととかもあったな…とか、思い出して胸がきゅんとなりました。考えようによってはちょっとぶしつけな質問だった気もするのだけれど、あのときもローラはやさしく微笑みながら、すごくていねいに、きっちり答えてくれたっけ。

リマスターに関しては、まあ、アナログ盤なので、個々の再生環境でずいぶんと音質的には変わってくると思うけれど。わが家のわりと普通の環境で聞く限り、きっちりナチュラルな、それでいて分離のいい仕上がりになっている感じ。ウッドベースとか鳴るとその奥行きにしびれる、みたいな。そういうタイプの音。

もちろん主役は歌声で。なので、ラベルによる豊かなコーラス・ハーモニーを伴ってオールディーズとかをカヴァーしまくった『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』とか、なかなか泣けるリマスターです。ちょっと声を張ると少しいやな周波数が出ることもあるローラさんながら、そのあたりの音域がいい感じにソウルフルに聞こえる。まあ、この辺はわが家特有のEQ事情とかも少なからず影響しているのかもしれませんが。

とにかく、ローラ・ニーロという本当に素晴らしい才能に改めて打ちのめされる宝物のような箱。ぼくが彼女にどんな魅力を感じているのかに関しては、先日、日本でのライヴ音源が再発された際、こちらのエントリーにも書いたので、よろしければご参照ください。あと、数年前に出版した『70年代シティ・ポップ・クロニクル』という本にも、かつてぼくがローラ・ニーロという音楽家を認識したばかりのころのことを思い出しながら、ちょこっとだけ彼女について書いた文章がある。一部引用しておきます。

そのころ、ぼくのお気に入りアーティストのひとりだったのがローラ・ニーロ。ニューヨークはブロンクス生まれのユダヤ系白人女性シンガー・ソングライターだ。66年に18歳でデビュー。独特の“間”を活かした静謐かつジャジーな音像のもと、触れたらこわれてしまいそうに繊細な感性でニューヨークという街に渦巻く喧騒や諦観や熱気や退廃を赤裸々に綴る鋭い感性が日本でもクロート筋を中心に高く評価されていた。といっても、彼女の最初の成功はソングライターとしてのものだった。ぼくもブラッド・スウェット&ティアーズがカヴァーした「アンド・ホエン・アイ・ダイ」や、スリー・ドッグ・ナイトがカヴァーした「イーライズ・カミン」、フィフス・ディメンションがカヴァーした「ウェディング・ベル・ブルース」といったヒット曲を通して、その作者であるローラ・ニーロを知った。

初めて買った彼女のアルバムは『イーライと13番目の懺悔』という、やけに厳かな邦題が付けられたセカンド・アルバムだった。68年の作品だが、手に入れたのは数年遅れだったと思う。最初の印象は先述したような、とにかく繊細なシンガー・ソングライターというイメージだったのだけれど、しばらく聞き続けているうちに、単に繊細なだけじゃない、なにやらやけに心を熱く震わせてくれる魅力が彼女の歌声にはあるような気がしてきた。今にして思えば、それが“ソウルフル”ということだったんじゃないかと思う。71年に出た『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』というアルバムはローラ・ニーロが愛するソウル・ミュージックの静謐なカヴァー集だった。ここに至ってぼくはようやく確信できた。その通り、これこそがローラ・ニーロならではのソウル感覚だったのだ、と。

そう思うと、これまで何度も聞いてきた彼女のオリジナル曲たちも、さらに魅力的に響くようになった。かつて50年代のニューヨークのストリートに溢れていたドゥーワップや初期ガール・グループなどがたたえていた豊潤な東海岸系R&B/ロックンロール感覚を、ちょっとだけ遅れてきた世代として憧れをこめつつきっちり受け継いだ、たとえばルー・リードやポール・サイモンらにも通じる珠玉のブルー・アイド・ソウル感覚。いや、もちろん70年代初頭のぼくはドゥーワップもブルー・アイド・ソウルも、その何たるかを知っていたはずもなく、このあたりの細かいことはずいぶんと経ってから後付け的に解析したことではあるのだが。少なくとも、ローラ・ニーロに彼女なりのソウル感覚があることだけは確信できた。以来、ぼくはますますローラ・ニーロを好きになった。

70年代シティ・ポップ・クロニクル

あれからもう50年。ずっと好きなまま。この箱でこれからも大切に聞き続けます。

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