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Alligator Records: 50 Years of Genuine Houserockin’ Music / Various Artists (Alligator)

アリゲーター・レコード:50イヤーズ・オヴ・ジェニュイン・ハウスロッキン・ミュージック/ハウンド・ドッグ・テイラー、フェントン・ロビンソン、アルバート・コリンズ、クリストーン“キングフィッシュ”イングラム、ニック・モス、ビリー・ブランチほか

1960年代に入ってモータウン・レコードがひと山当てるまで、黒人スタッフが経営する独立系レコード・レーベルがアメリカのビジネス・シーンのど真ん中に切り込むことなど誰にもできなかった、と言われる。とはいえ、ブルースなりR&Bなりジャズなり、そうした黒人ポップ音楽はそれ以前も何らかの形で世に流通していたわけで。つまり、そうした黒人音楽がアメリカン・ショービジネスに組み込まれ、マーケットに流れるうえで、その裏側には必ず、意識的な、あるいは商売上手な白人スタッフが存在し、重要な役割を果たしていたということになる。

1950年代初頭、アラン・フリードら白人ディスクジョッキーたちが“ロックンロール”という呼び名のもと黒人音楽をラジオでかけまくったことも含め、常に黒人音楽の紹介者として、協力者として、あるいは利用して搾取する者として、そこには白人の存在があった。

象徴的な存在としてはアトランティック・レコードを立ち上げたトルコ生まれのアーメットとネスヒのアーティガン兄弟、ブルーノート・レコードのアルフレッド・ライオン、キング・レコードのシド・ネイザン、モダーン・レコードのビハリ四兄弟、サン・レコードのサム・フィリップス、セプター・レコードのフローレンス・グリーンバーグ、ルグラン・レコードのフランク・ガイダ、そしてチェス・レコードのフィルとレナードのチェス兄弟など…。

白人でありながら黒人音楽に魅せられ、黒人音楽の快感を自らも実現したいとソウルフルな突進を繰り広げていたパフォーマーたちの音楽のことを“ブルー・アイド・ソウル”と呼ぶけれど。先述したような白人の裏方たちも、広義にとらえればブルー・アイド・ソウル・ブラザー(&シスター)だったということになる。もちろん、金儲けのことしか考えていない者もいれば、黒人音楽への深い愛情ゆえに採算度外視で紹介作業にのめり込んだ者もいた。いずれにせよ、彼らの存在なくしてアメリカのポップ・シーンにおいて黒人音楽がそれなりの位置をそれなりの段階でそれなりに確保することは難しかったはずだ。

この流れは1970年代に入ってからも受け継がれた。そのひとつがブルース・イグロアという当時23歳だった白人青年が立ち上げたアリゲーター・レコード。米ルーツ音楽ファンにはおなじみのエピソードだろうけれど。もともとブルースが大好きでシカゴへとやってきたイグロアは、老舗の独立系ジャズ〜ブルース・レーベル、デルマーク・レコード(ここの創設者、ボブ・ケスターも黒人音楽好きの白人だ)のスタッフとして働いていたのだが、1970年2月、シカゴのサウスサイドの《フローレンス・ラウンジ》でハウンド・ドッグ・テイラー&ザ・ハウスロッカーズのワイルド&ダーティな演奏を目の当たりにしてひと目ぼれ。彼らのレコードをデルマークから出したいとボブ・ケスターにかけ合ったものの、あえなくリジェクト。レコーディングさせてもらえなかった。

じゃ仕方ねーや、とばかり、イグロアは貯金をはたいて自費でハウンド・ドッグ・テイラーのレコーディングを敢行。自宅アパートをオフィスにして自身のレコード会社を立ち上げた。50年前のことだ。自分の車にレコードを積んで自ら地元のレコード店やラジオ局を回りながらプロモーション。これがアリゲーター・レコードの始まりだ。ご存じの通り、その後、アリゲーターはビッグ・ウォルター・ホルトン、キャリー・ベル、フェントン・ロビンソン、サン・シールズ、ココ・テイラー、アルバート・コリンズ、ロニー・ブルックスら多彩な顔ぶれと契約を果たし、さらにはロイ・ブキャナン、ロニー・マック、ジョニー・ウィンター、エルヴィン・ビショップら白人ブルースマンたちをも迎え入れつつ、強力なブルース・レーベルとして着実に成長を続けた。現在までに300作以上のブルース・アルバムをリリースしている。

そんなアリゲーターの50年に及ぶ歴史をCD3枚、怒濤の58トラックで振り返った強力アンソロジーが本作だ。まあ、アリゲーターは25周年、30周年、40周年、45周年…と、細かく刻みながら周年アンソロジーを編み続けているわけで。またかよとあきれるブルース・ファンも少なくないとは思いますが(笑)。でも、こういうのは縁起物だから。

今回の50周年アンソロジーを聞きながら、熱さとクールさ、泥臭さと洗練…といった両極の要素が同居するフェントン・ロビンソン・ヴァージョンの「ローン・ミー・ア・ダイム」を初めて聞いたときの感動とか、粗っぽいのに一体感に満ちたハウンド・ドッグ・テイラー&ザ・ハウスロッカーズのグルーヴに出くわしたときの衝撃とか、爆発的なスピード感でフレーズをたたみ込んでくるアルバート・コリンズのギター・ソロを浴びた瞬間の快感とか、いろいろなものを改めて思い出した。

1970年代半ば、まだ“ニュー”が付いていた『ニューミュージック・マガジン』を参考書に、手探りでブルースの沼へと恐る恐る足を踏み込んでいったころの初心がよみがえるというか…(笑)。

もちろん本アンソロジーは、1970年代の懐かしいパフォーマンスだけに終わることなく、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムとか、ニック・モス・ウィズ・デニス・グルーエンリングとか、トロンゾ・キャノンとか、セルウィン・バーチウッドとか、ジョニー・コープランドの娘さんであるシェミキア・コープランドとか、J.B.ハットーの甥が率いるリル・エド&ザ・ブルース・インペリアルズとか、さらにはマーシャ・ボール、リック・エストリン、トミー・カストロ、3月にアリゲーター50周年を祝すオンライン・コンサートを主導したビリー・ブランチらの近作まで。今なお着実に活動を続けるアリゲーターの歩みをそれなりにざっくりカヴァーした仕上がりだ。

アルバム・タイトルに冠された“Genuine Houserockin’ Music”、正真正銘のハウスロッキン・ミュージックというのは、レーベル発足時にブルース・イグロアが掲げたアリゲーター・レコードのキャッチコピー。50年前のブルース・イグロアの熱意は今なお有効に機能し続けているってことだ。うれしいなぁ。ということで、めでたく盛り上がりましょう。しつこいようだけど、縁起物ですから。

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