Disc Review

What's My Name / Ringo Starr (UMe)

ホワッツ・マイ・ネーム/リンゴ・スター

もう20年以上も前、1995年にとある雑誌に寄せた拙稿の一部を引用させていただく。

得をしているのか、損をしているのか。よくわからない。リンゴ・スター。この人の位置どりってやつは、なんだか、本当に独自だ。自由にも見える。とてつもなく幸運なようにも見える。けれども、同時に並外れて窮屈で、不運なように見えなくもない。

リンゴについての文章を書くとき、多くの人たちがよく使う言い回しだが。まさに“ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド”。リンゴ・スターという人は、ビートルズ時代も、ソロになってからも、いつだってたくさんの才能豊かな友達からのあたたかいサポートを受けながら、ひょうひょうと活動を続けてきた。意地悪な目には、偉大な友人たちの威光にすがっている…と映るかもしれない。そういう目から見れば、リンゴはまさに“得をしている”ってことになる。が、そう思われてしまいがちなこと自体、もしかしたらリンゴは“損をしている”のかもしれないし。いやはや、ややこしい立場にいる人だ。

が、ここはひとつ、別の目で。リンゴがいるところには、いつも必ずあたたかい友達が自然に集まってきてしまう、と。そんなふうにとらえたほうが正解だろう。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンに支えられていたビートルズ時代からしてそうだ。ソロになってからも、クインシー・ジョーンズ、ビージーズ、ニルソン、エルトン・ジョン、ドン・ウォズ、ジェフ・リンなどなど、その時代その時代、多彩な分野の友人たちからの強力な援護を受けながら、風体そのままの、ほのぼのとしたアルバムをリリースしてきた。(中略)この人望も含めて、リンゴ・スターの並外れた才能なんじゃないかと、ぼくは思っている。

と、まあ、とにかくそういうことだと思う。永遠に変わらぬリンゴの魅力。今回リリースされた2年ぶり、通算20作目となるスタジオ・アルバムも、だからそういう1枚だ。ジョー・ウォルシュ、エドガー・ウィンター、デイヴ・スチュワート、ベンモント・テンチ、スティーヴ・ルカサー、ネイザン・イースト、コリン・ヘイ、リチャード・ペイジ、ウォーレン・ハム、ウィンディ・ワーグナー、カリ・キンメルら豪華な音楽仲間たちをロサンゼルスの自宅にあるレコーディング・スタジオ“ロッカベラ・ウエスト”に招いて録音された1枚。

プロデュースはリンゴ自身だが、オール・スター・バンドにも参加していたゲイリー・バーをはじめ、サム・ホランダー、ゲイリー・ニコルソンなど売れっ子プロデューサー/ソングライターたちも曲によって絡んだりしていて。人脈的にもなかなか抜かりがない。

もっとも話題を呼んでいるゲストは、もちろんポール・マッカートニーだろう。ポールがベースと、ちょこっとだけバック・コーラスに参加した「グロウ・オールド・ウィズ・ミー」。ご存じ、84年のアルバム『ミルク・アンド・ハニー』に収められていたジョン・レノン作品だけれども。ギターやストリングスが奏でるオブリガートにジョージ・ハリスン作の名曲「ヒア・カムズ・ザ・サン」のリフがさりげなく採り入れられたりもしていて。一緒に年を取ろう…という感動的なメッセージとともに勝手にビートルズ再結成、みたいな(笑)。

別の見方をすれば、この歌のテーマ、つまり“夫婦としての終わりなき愛の日々”をヨーコさんと全うすることができなかったジョンの思いを、1981年からずっと愛するバーブ(バーバラ・バック)とともに年齢を重ね続けているリンゴが代弁してあげているとも解釈できて。まあ、こんな大それたことを真っ向からやらかすことができるのも、今やリンゴかポールしかいないわけだし。これはこれで泣ける。

かつてビートルズ時代、ジョンがリード・ヴォーカルをとってカヴァーしていたモータウン・クラシック「マネー」のお気楽なリメイクも今回入っている。それもこれも、すべてこの人の特権だ。そんな持ち味を存分に活かしたアルバムということになるのだろう。

で、これから書くことはちょっと誤解されそうな話で。リンゴをディスっているように思えるかもしれないのだけれど。そんなつもりはまったくなく。ぼくはリンゴのことが大好きで、ビートルズ時代の彼のドラムのすごさも十分にわかっているつもりで、ビートルズ解散後初めて買ったソロ・アルバムもリンゴの『センチメンタル・ジャーニー』で、中学時代にリアルタイムで接したあのアルバムのおかげでポピュラー・スタンダードの深く豊かな魅力に気づかせてもらって、それだけでもものすごく恩義を感じていて、その後のアルバムもずっと買い続けてきて、来日公演にも可能な限り足を運んでいて…と。そんな事実を前提に、あえて言わせてもらうと。

ぼくが考えるこの人最大の魅力。それは、普通だったらあまり褒め言葉になりそうもない“そこそこ感”なのだ。「リンゴの新作どう?」「んー、まあ、そこそこかな」みたいな。アルバムが出るたびそんな感じなんだけど。それがいい。その感じが大好きだ。

普通、ずっと“そこそこ”じゃアルバムを出し続けることなんかできない。許してもらえない。なのに、リンゴにはできる。この人、やっぱりビートルズだし。出したいと思えばたぶんアルバムは出せるわけで。とはいえ、収録曲の大半が大傑作という感じの、1973年の『リンゴ』とか、翌年の『グッドナイト・ウィーン』みたいなアルバムはなかなか作れなくて。豪華ゲストを招きながらも、みっちり細部まで詰め切らないというか。詰め切れないというか。なので出来上がるアルバムはだいたい、けっこういい曲が数曲と、あとは“そこそこ”みたいな仕上がりで。

でも、その、いい意味でぼんやりした感触が、ほのぼのしていて逆にいいというか。妙な緊張感がなくてなごめるというか。リンゴらしくてほっとするというか。そういうアルバム群をリリースし続けていられるのは、本当にこの人ならではという気がする。これもまた他の人には絶対許されないリンゴ・スペシャル! そういう意味で、今回もまた“そこそこ”です。ごきげんに“そこそこ”。だからまた愛聴します。愛すべき新作をありがとう、リンゴ!

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