イヤー・アウェイ/ケイシー・ヨハンシング
エミリー・リッツとのデュオ、イエスウェイの相方さんとしてもおなじみ。サンフランシスコを拠点に活動するシンガー・ソングライター、ケイシー・ヨハンシングの5作目、出ました。
ユミ・ゾウマに帯同して来日したことなどもあり熱烈に支持する日本のファンも少なくない彼女。自らパフォーマーとして活動するかたわら、セッション・ミュージシャン〜ツアー・ミュージシャンとしての仕事もそれなりに活発にこなしていたものの、折からのパンデミックに呑み込まれ、そうした仕事が一気に減り、さらには親しくしていたミュージシャン仲間の多くもロサンゼルスやサンフランシスコを離れ…。ひとりきりになってしまった彼女はその時期、毎晩ピアノに向き合い、曲作りに深くのめり込んでいたのだとか。その時期に書きためた曲で構成されたのが本作らしい。
孤独と、しかしそれゆえの自由さとの狭間で生まれた楽曲たち。過去への懐かしさと悔いが内省的に綴られた「オールド・フレンド」とか、ひとり都会に取り残された思いを描く「スマイル・ウィズ・マイ・アイズ」とか、一輪の花の短い生涯を見つめることで自らの生と死とも向き合う「ダフォディル」とか、環境の激変に思いを馳せた「エンドレス・サウンド」など…。それら様々な思いを彼女ならではのクールでエレガントな音楽性に絡めて届けてくれる1枚だ。過去イチの充実盤かも。
今回もマルチ・インストゥルメンタリスト、ティム・ラムゼイとの共同プロデュース。1970年代ミドル・オヴ・ザ・ロード系の沁みるヴォーカル・アルバムを聞いているときのような深く、繊細、かつ流麗な世界観が印象的だ。洗練されたコード展開とメロディの流れ。ささやくように淡々と物語を綴る歌声。ジョニ・ミッチェルやニール・ヤング、キャロル・キングといった1970年代シンガー・ソングライターたちの味わいを下敷きに、フリートウッド・マックというかクリスティン・マクヴィーのようなクールな透明感や、プリファブ・スプラウト的な浮遊感に満ちた音の積み方、ジュディ・シルの瞑想感、バート・バカラック的な優美さと実験性が交錯するテイスト、ジミー・ウェッブの哀しくノスタルジックな荒涼感などがふわっとナチュラルに溶け合う感じがたまらない。
ヨハンシングさんとラムゼイさんは本作を作るうえでジョン・キャロル・カービーとか細野晴臣とかの作品群にも大いに触発されたという。なるほど。そのあたりが本作のいい意味での“幅”を演出しているのだろう。心地よくポップな「ヴァレー・グリーン」とか、ほのかに哀愁漂うアップテンポ曲「ラスト・ドロップ」など幅広く愛されそうなフックを持った曲もあるので、より多くの音楽ファンに届く可能性あり…かな?