Disc Review

Black Bayou / Robert Finley (Easy Eye Sound)

ブラック・バイユー/ロバート・フィンリー

超遅咲きのディープ・ソウル・シンガー、ロバート・フィンリーの新作だ。この人のざっくりとした歩みについては2021年に出た前作『シェアクロッパーズ・サン』を紹介した際にあれこれ書いたので、ぜひそちらを参照していただきたいのですが。

今年の夏、所属するイージー・アイ・サウンド・レーベルのブルース・コンピ『テル・エヴリバディ(21stセンチュリー・ジューク・ジョイント・ブルース・フロム・イージー・アイ・サウンド)』に表題曲を提供したり、そのアルバム・ジャケットにデザインされたり。いい感じの助走をつけたところで、2年半ぶりの新作をぶちかましてきた。

今回ももちろんイージー・アイ・サウンドの親分、ブラック・キーズのダン・アワーバックがプロデュース。この人、基本的にはブルース・シンガーで。今回ももちろん核を成しているのはブルースものなのだけれど。それも真っ向からのシャッフル系ブルースだけでなく、マイナーもの、ストレート8ビートものなども交えつつのあの手この手。

さらにはトニー・ジョー・ホワイトっぽいスワンプ風味あり、ブッカー・T&ジ・MGズの「ヒップ・ハガー」っぽいリフものあり、オールマン・ブラザーズ・バンドふうのサザン・ロック系あり、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルを思わせるビート・パターンあり、必殺のハチロク・サザン・バラードあり。これまで以上に音楽性を広げた充実作に仕上がっている。

来年2月で70歳を迎えるフィンリーではあるけれど、本格的にソロ・レコーディングに取り組んでからはまだほんの7年目。音楽的な引き出しはもっともっとありそうだ。それをアワーバックが巧みに引っ張り出して見せているということか。

遅咲きならではの説得力というか、語り口の渋さ、深さみたいなものもさすがで。ラストを締める「アリゲイター・ベイト」とか、しびれる。これ、タイトルからもわかる通り“ワニのエサ”についての歌で。このエサってのが主人公自らのことなのだ。子供のころおじいちゃんにかっこいいブーツを買ってもらって沼地に連れて行かれ、そこをブーツ履いて歩き回って遊んでいたら、丸太だと思って踏んだものが動いた。なんと、それがワニで。そのワニをじいちゃんが銃でしとめ、「よくやったな」とか言われた。それで初めて自分がワニのエサにされたことを知った。そうやってたくさんの子供がワニに食われたらしい。で、アッタマ来て、帰宅後、ソッコーで父親にその話をぶちまけたら、ああ、それ、俺もやられたよと大笑いされて…みたいなストーリー。それをフィンリーさん、語りつつ、歌いつつ、綴っていくのだけれど。

英『MOJO』誌がこの曲のことを“サザン・ゴシック・ソウル”とか評していたな。それ、言い得て妙。“このべテラン・ブルースマンは、フラナリー・オコナーが紡ぐ風景と、トム・ウェイツの脳裏に渦巻く未開の生態系からの逃亡とをゆっくりとクルーズするかのよう…”みたいな、なんだかよくわからない文章もあって。うまく訳せないけど、なんとなくわかる気がしたりして。

ロバート・フィンリーがギターとヴォーカル。ダン・アワーバックがギター、パッーカッション。ブラック・キーズの相方、パット・カーニーと、G.ラヴ&スペシャル・ソースのジェフリー・クレメンズがドラム。やはりブラック・キーズのツアーなどにも参加しているベテランのケニー・ブラウンがギター、エリック・ディートンがベース…といった顔ぶれががっちりバックアップ。

とにかく、人生遅すぎるとか、そんなことないんだ、と。熱く思い知らせてくれる1枚でありますことよ。これまた断然アナログだよねー。限定スプラッター・ヴァイナルなんてのもあるみたい。高いけど…。ちなみに、レーベルにはステレオって書いてあるんだけど、音像はもろモノラルです(笑)。

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