Disc Review

Playing for the Man at the Door: Field Recordings from the Collection of Mack Mccormick 1958-1971 / Various Artists (Smithsonian Folkways Recordings)

プレイング・フォー・ザ・マン・アット・ザ・ドア:フィールド・レコーディングズ・フロム・ザ・コレクション・オヴ・マック・マコーミック1958-1971/ヴァリアス・アーティスツ

ジョンとアランのローマックス親子とか、ハリー・スミスとか、そういう人たちの情熱というか、執念というか…。彼らの探究心に満ちたマニアックな収集癖のようなものがなければ、ぼくたちは今のような形で米国のルーツ音楽の源に接することはできていなかったのだろうなと思う。

この人もそう。ロバート“マック”マコーミック。1930年にペンシルヴェニア州ピッツバーグで生まれた超マニアックな熱狂的ブルース・コレクター/音楽学者/民俗学者。まあ、超マニアックであったがゆえにいろいろと周囲と問題も起こしていたようで。ロバート・ジョンソンの遺族と権利関係も巡って大もめしたとか、生前は自身のコレクションのほとんどを公開しなかったとか、他の研究者が彼の研究をパクっているのではないかという疑念から故意に自身の論文にウソを紛れ込ませたとか…。ややこしいエピソードは数知れず。

でも、アラン・ローマックスやハリー・スミス同様、白人ながらブルースを筆頭とするルーツ音楽を偏愛してきたマック・マコーミックの徹底的なリサーチやフィールドワークや研究や助言があったからこそ、その後のブルース・シーンがあるのも確かなわけで。いくら感謝しても感謝しきれない存在だ。

と、そんなマコーミックさんが収集したフィールド・レコーディング音源集が『プレイング・フォー・ザ・マン・アット・ザ・ドア〜フィールド・レコーディングズ・フロム・ザ・コレクション・オヴ・マック・マコーミック1958-1971』。文字通り1958〜1971年に、彼が“グレイター・テキサス”と呼ぶ地域(ルイジアナ、オクラホマ、アーカンソーあたりも視野に入れられている)で録音した貴重な音源を詰め込んだCD3枚組ボックスだ。こりゃ、すごい。

この人、他界した2015年までの間に、オープンリール・テープ590本分の音源と、原稿やインタビュー、研究ノート165箱分、写真とネガ数千枚、膨大なポスターやプレイビルなどをため込んでいたそうで。それらの中からピックアップされた66曲がここに詰め込まれている。すでに他のコンピで既出の音源もあるものの、それも含めて貴重なものばかり。

アコースティック・ギター・ブルースだけでなく、エレキものあり、ピアノものあり、ザディコあり、ブギ・ウギあり、ゴスペルあり…。ライトニン・ホプキンスやマンス・リプスカムといった有名どころだけでなく、ライトニンの従兄弟にあたるビリー・バイザーやゴジー・キルパトリックあたりのアタッキーなハーモニカ・プレイとか、ブラインド・レモン・ジェファーソンの従兄弟デニス・ゲイナスの唯一現存する2曲とか、ぼくはこれまで聞いたことがなかったブルース・ウォレスのディープなグルーヴとか、ごきげんなピアノ・プレイでぐいぐいロールするロバート・ショウとか、ジョージ“ボンゴ・ジョー”コールマンのドラム缶を叩きながらのパフォーマンスとか、一般的には1990年代以降注目を集めることになるシデル・デイヴィスの1960年代末の録音とか、茎を束ねたパン・フルートっぽい楽器“クイル”を、入院中のベッドで、近所の川辺に生えていた葦を使って急造しプレイしたジョー・パターソンとか、興味深い聞きもの多し。

貴重な写真や、全体のプロデュースを手がけたジェフ・プレイスとジョン・W・トラウトマンらによる充実のライナーなどを満載したブックレット付き。娘さん、スザンナ・ニックスの文章もマック・マコーミックの探究心の背景にあったより複雑な事情のようなものを伝えてくれていて。“父はいつも仕事をしていました。計画を成し遂げようとする自分の前に立ちはだかる悪魔たちを克服しようといつも奮闘し、壮大な夢をなかなか実現できないことにいつも苛立っていました…”という一文が泣けます。

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