Disc Review

Let It Bleed (50th Anniversary Limited Deluxe Edition) / The Rolling Stones (Abkco/Universal)

レット・イット・ブリード(50周年記念デラックス・エディション)/ザ・ローリング・ストーンズ

ぼくが初めて買ったローリング・ストーンズのレコードは、1966年に日本独自に編纂されたベストLP『ザ・ローリング・ストーンズ・ゴールデン・アルバム』というやつだった。A面が「一人ぼっちの世界 (Get Off Of My Cloud)」で始まって「サティスファクション」で終わり、B面が「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」で始まって「ザ・ラスト・タイム」で終わる、そういう全12曲入り。

出てからしばらくして、翌年か翌々年くらいに買ったのだけれど。よく聞いたなぁ。と、まあ、それはコンピレーションの話。オリジナル・アルバムとしての初購入盤は1969年に出た『レット・イット・ブリード』だった。

ちょうどシングル曲「ホンキー・トンク・ウィメン」がヒットしていたころで。当時まだ中学生の洋楽初心者だったぼくは、それでも曲アタマ、ヨタヨタしたカウベルに導かれてドラムが炸裂する瞬間のただならぬグルーヴに一発でやられた。そのまましばらくドラムとギターだけで推進する、突っ込んでいるんだかモタっているんだかわからない奇妙な感触もごきげん。サビでようやくベースが入ってくる、その瞬間のカタルシスも最高だった。

『レット・イット・ブリード』は、そんな「ホンキー・トンク・ウィメン」が流行っていたころに出た新譜だったので、当然それも入っていると思って買ったのだけれど。なんか、カントリー・ヴァージョンみたいなのしか入っていなくて。ちょっとがっかりしたことを覚えている。が、聞き続けるうちに、そんながっかり感は軽々と霧消。ブルース、カントリー、ゴスペル、アフロ音楽などを見事に取り込んだ内容にずぶずぶハマり込んでいったものだ。

あれから50年かぁ…。今年はそういう思いになることが多いけれど。とにかく、そんな『レット・イット・ブリード』の発売50周年記念エディション。1CDもの、1LPもの、日本限定の7インチ・ボックスに収められた2CDデラックスものなど、様々なフォーマットが出るようだけれど。とりあえずすでに輸入盤でリリースされた、いちばん豪華な限定仕様のやつをご紹介しておきます。2CD+2LP+1アナログ・シングルという混合5枚組デラックス・エディション。

ボブ・ラドウィックが新たにリマスターしたステレオ・ミックス、モノ・ミックスそれぞれ1枚ずつのCDに収め、さらに同じくアナログLP1枚ずつにも収め、さらに中学生時代のぼくがアルバムに入っているものと期待していたアルバム未収録のシングル曲「ホンキー・トンク・ウィメン」とシングル用短縮エディット版「無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)」をカップリングにした7インチ・モノ・シングル…という内訳だ。そこに80ページ豪華ブックレット、リトグラフ、UK盤のみに付いていたポスターの復刻版などが入っている。

なんだか残念なことに、アウトテイクとか別テイクとか未発表ライヴとかはひとつもなし。ヴァージョン的に目新しいものはないので1CDでもいいっちゃいいかも。最新リマスター・ステレオ・ヴァージョンならばストリーミングでも聞けるし。なので、ボックスのほうは記念品って感じですかね。なかなかにごつい、手応えたっぷり、お高い箱ではございますが。

今さらぼくが説明するまでもないとは思うけれど、『レット・イット・ブリード』はやはりすごい1枚なのだ。王者の自信と風格を確立した傑作。ブライアン・ジョーンズの脱退、死、そしてミック・テイラーの加入…という混乱に満ちた時期の作品にもかかわらず、というか、それだからこそ、というか、ストーンズは多彩なゲスト・プレイヤーたちを自在に操りながら、その混乱がもたらした“穴”を見事に埋めてみせた。

ニッキー・ホプキンス、レオン・ラッセル、ライ・クーダー、アル・クーパー、メリー・クレイトン、ジャック・ニッチ、ドリス・トロイ、そしてボビー・キーズ、イアン・スチュワートなど。名手たちの的確なサポートを受けながら、ストーンズはもろもろの迷いを見事ふっきり、来たるべき1970年代に向けて新たな活動のピークを形成してみせた。

『アフターマス』以降の悪魔信仰路線の新しい展開というべき表題曲「レット・イット・ブリード」や「ミッドナイト・ランブラー」、ストーンズ・ロックンロールの代表曲のひとつ「ギミ・シェルター」、キース・リチャーズが初めて全編リード・ヴォーカルをとった「ユー・ガット・ザ・シルヴァー」、そしてジャック・ニッチ編曲による奥深く荘厳なコーラスを伴った「無情の世界」など、素晴らしい曲ぞろい。

ロバート・ジョンソンのブルースをカヴァーした「むなしき愛 (Love in Vain)」にマンドリン・プレイヤーとしてゲスト参加しているライ・クーダーからリハーサル時にいろいろなフレーズを“盗んだ”のが功を奏したのか、キースのスライド・ギターが全編にわたって冴えまくる。道義的な問題は別にして、ともあれその後のキースのギター・プレイの方向性を決定づけた時期の記録として貴重な1枚でもあります。

と、そんな名盤の50周年を祝う豪華箱。国内仕様のフィジカルは来週、11月22日発売みたいです。

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