
ザッパタイト:フランク・ザッパズ・テイスティエスト・トラックス/フランク・ザッパ
何年か前、ディスクユニオンから依頼していただいて、ベスト盤についての文章というのを書いたことがある。その一部、振り返ってみると——
何でもありのサブスク時代。
インターネットのクラウド上に、新譜から旧譜まで、ありとあらゆる音楽のファイルがずらり勢揃いしていて。毎月それなりの定額を支払えば、好きなときに好きな音楽を好きなようにオンデマンドで楽しめる。これまでそうした配信は主に音質今いちの圧縮音源で行なわれてきたけれど、最近はCD音質のロスレス方式や、それ以上の高音質が期待できるハイレゾ方式で配信する時代が到来。
ありがたいことだなとは思う。思うけれど。
何でもありすぎると、何にもないのと同じというか。これだけ膨大な音源ファイルに自由にアクセスできるってことになると、もはやどこから手を付けていいのかわからなくなっちゃって。まあ、いいか…的な?
贅沢で、かつ怠惰な悩みだ。でも、わからなくもない。そういうとき、何か興味のある未知の音楽に接する絶好の入口となるのが、そうです、ベスト盤。グレイテスト・ヒッツ。アンソロジー。クロニクル。コンピレーション。そういうCDやヴァイナルLPたちだ。
オリジナル・アルバムに比べてベスト盤は劣る、とか。そんなふうに考えている人も少なくないようだけれど。いやいや。とんでもない。確かにひどく安易なベスト盤とかコンピレーション・ボックスとかもある。それは事実。でも、的確な意図の下、その音楽を知り抜くスペシャリストがていねいにコンパイルしたベスト盤なりアンソロジーなりはオリジナル・アルバムすら凌駕する。圧倒的な存在感を放つ。
とか、まあ、こんなことを書いていたのだけれど。今回、まあ、なんというか、いわゆる“ベスト盤”というコンセプトにいちばん似合わなそうなフランク・ザッパの18曲入りベスト盤『ザッパタイト』が再発になったというニュースを受けて、この文章、思い出しちゃいました。
ザッパはちょうど60年前の1966年にデビューして。以来、1993年に亡くなるまでに62作のアルバムを遺して。亡くなってからもすでに70作以上の遺作が出続けていて。
そんな人のベスト盤…って(笑)。まあ、もちろん無理なわけですが。逆に遺された音源が膨大すぎるからこそ、新たにザッパの世界に触れてみたい世代への入口としては、少々乱暴な選曲でもいいからお手頃なベストがほしいところ。
というわけで、10年前、2016年に息子のアーメット・ザッパと、ザッパ家のテープ倉庫管理人であるジョー・トラヴァースが全キャリアを振り返る形でざっくりコンパイルした代表曲集が『ザッパタイト』。副題通り、とびきりおいしい18曲です。10年前はCDとデジタル配信のみでのリリースだったけれど。今回は初のヴァイナルLP化が実現。ブラック・ヴァイナル2枚組のほか、限定のピンク・スワール・ヴァイナル2枚組もある。国内盤CDも今回は初登場。
ロック、ブルース、R&B、ドゥーワップ、サーフィン・インスト、カントリー、ジャズ、現代音楽などの要素が渾然とアナーキーに渦巻くザッパ・ワールドを、きゅっとコンパクトに凝縮して聞かせてくれます。以前、ボブ・ディランのベスト盤を取り上げたときにも書いたことだけれど。
とにかく膨大な楽曲が遺されているだけに、他にこっちの曲も入れたい、あっちも入れたい…って感じになるところを、思いきり割り切った18曲。入門編にはやっぱこういうのが必要だと思う。
あと、ザッパ関連だと5月に『ザッパ '66 Vol.1:ライヴ・アットTTGスタジオ』ってのも出ていて。これもすごかった。1966年10月、ハリウッドのTTGスタジオで収録されたデビュー間もないマザーズ・オヴ・インヴェンションのスタジオ・ライヴ音源。『フリーク・アウト!』と『アブソリュートリー・フリー』の真ん中くらいの時期の記録です。
米CBSが『セックス・イン・トゥデイズ・ワールド』なるドキュメンタリー番組で当時のヒッピー・カルチャーを取り上げるにあたって、ザッパに思う存分“フリーク・アウト”する演出を依頼。スタジオにヴィト・ポーレカス、“キャプテン・ファック”ことカール・フランゾーニらフリーク・カルチャーの顔役たちが参集し、ライト・ショーや煙幕なども交えつつ展開したハプニング・パフォーマンスらしい。
ジミー・カール・ブラックに加えビリー・マンディが二人目のドラマーとして加入。キーボードでドン・プレストンも加わった新ラインアップでの演奏だ。ワウ・ペダルの開発者としてもおなじみ、デル・キャッシャーの参加も貴重。サイケなジャムから、レス・ポール御大の味とガレージ・ロックンロールがくんずほぐれつする高速インスト、クラシックからの引用も含むコラージュ、さらにはドゥーワップ、ブルー・ヨーデルまで。ザッパらしい雄大かつアナーキーな幅をたたえた選曲で大暴れしてます。
“Vol.1”という表記にわっくわくです。



