Disc Review

Mixing Up The Medicine: A Retrospective / Bob Dylan (Sony Music Labels)

はじめてディラン/ボブ・ディラン

ボブ・ディランの場合、オリジナル新作アルバムの他、定期的におなじみブートレッグ・シリーズを筆頭に何かと深掘り系のマニアックなレア音源集とか、未発表ライヴとか、そんなのばかりがボックスセット形式でどんどん出てきて。

もちろんファンにしてみれば、熱心であればあるほど面白さが沁みる貴重音源だらけだったりして。この上なくうれしいわけですが。入口付近をうろうろしながら様子をうかがっている感じの入門希望リスナーにしてみると、歌詞が違う別ヴァージョンのテイク2とか、そんなのどうでもいいだろうし…。

オリジナル・アルバムを順繰りに聞いていくのが正しい入門姿勢ではあるのだろうけど、なにせデビューしてから半世紀以上。出したアルバムはスタジオものだけで40作くらいあるし、ライヴ盤も多いし。

やっぱりどんなアーティストだろうと、入門するにはベスト盤がいちばん。もちろんディランもベストはいっぱい出ていて。そのどれかを手に入れれば問題ないのだけれど。やっぱり活動期間が長いから、たとえば“グレーテスト・ヒッツ”と銘打って編まれたベスト盤はすでにvol.3まで行っちゃってるし。“ベスト・オブ…”って銘打たれたものもvol.2まであるし。

歳月とともにベスト盤すら選曲がどんどん増えていく。ぼくも以前、通販のための5枚組ベストってやつを選曲させていただいたことがあったけれど、そのときも5枚に収めるのが大変だったもんなぁ…。

と、そんなただ中に、どすーん! と投下されたボブ・ディランの最新ベストが本作『はじめてディラン(Mixing Up The Medicine: A Retrospective)』だ。去年10月、ボブ・ディラン・アーカイヴスが所蔵する歌詞草稿や原稿、写真、ドローイングなど1000点以上の画像を満載して出版された書籍“Bob Dylan: Mixing Up the Medicine”に合わせて編まれた1枚。

配信や輸入盤ではすでに出回っていたけれど、ついに昨日、国内盤も出ました。これが超いさぎよい、なんと全12曲入り! 12曲!? ほんの? たったの? でも、そういうことだよなぁ。入門編ベストならば、この思いきりのよさこそが尊い。

いや、まじ、この割り切り。見事です。収録曲は「時代」「風」「ローリング・ストーン」「サブタレ」「見張塔」「レイ・レディ・レイ」「フォーエヴァー・ヤング」「ブルこん」「ハリケーン」「天国」「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」「シングス・ハヴ・チェンジド」。

まあ、全然足りないけど。でも、この12曲がないと始まらないことも確か。ここから始めるには絶好のベストかも。このほどようやく出た日本流通盤には大のディラン・ファン、浦沢直樹による超ごきげんなディラン入門漫画「BOB DYLANの大冒険」が付いてます。これ面白いです。さらに北中正和さんによるていねいな12曲の曲目解説も、佐藤良明さんの歌詞対訳も完備。

でも、「風に吹かれて」で始まらず、「時代は変る」から始まって、で、ラスト「シングス・ハヴ・チェンジド」で終わるというこの構成。ぼくは個人的に「シングス・ハヴ・チェンジド」ってのは「時代は変る」の“その後”というか、対を成している名曲だと思っているもんで。この流れ、ちょっとぐっときます。

で、このあと、21世紀に入ってディランはまた新たな無敵モードに突入するのでした。それを踏まえて、まず本作で代表作を味わいつつ浦沢さんの漫画読んでディランの20世紀を思いきりざっくり追体験して。で、その後は『ラヴ・アンド・セフト』以降の、21世紀に入ってからのオリジナル・アルバム群を順に聞いていく、と。これが最新型のディラン入門なのかも。

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