Disc Review

evermore / Taylor Swift (Republic)

エヴァーモア/テイラー・スウィフト

この人はほんと、いつもいろいろと驚かせてくれて。さすが押しも押されもしない21世紀のポップ・クイーンだなと思い知らされるわけですが。

そのサプライズが、なんともあざとくなくて、とてもナチュラルなところもすごい。というわけで。みなさんご承知の通り、テイラー・スウィフト、今年7月に何の事前告知もなしに突如リリースした新作アルバム『フォークロア』に続き、ほんの5カ月のブランクしか置かず、さらなる新作『エヴァーモア』をまたまた緊急リリースしたのでありました。

うれしいけど、正直面食らったなー。慌てた。『フォークロア』のアナログLPなんか、正式リリース日がぐっと遅くて11月20日だったから、つい先日、頼んでいたことすら、まじ忘れたころにようやく手元に届いたばかり。そんな段階ですよ。なのに、え? 何? もう次? みたいな(笑)。展開が目まぐるしすぎて、泣けてくる。もちろん、うれし泣きですが。先日、ポップ・アイコンの大先輩であるポール・マッカートニーと二人でローリング・ストーン紙の表紙を飾っていたけれど、間もなく『マッカートニーⅢ』をリリースする予定のパイセン同様、パンデミックの下、いい意味でも悪い意味でも思いがけずもたらされたふんだんな自由時間をそのまま創作へと注ぎ込んでしまう潔さというか、迷いのなさというか…。

ご本人もSNSとかで“続編”だと明言している通り、『エヴァーモア』は『フォークロア』の世界観をサウンド的にも人脈的にもそのまま受け継いだ仕上がり。あのアルバムで切り拓いたぐっとインナーな感触をさらにもうひと掘り、深めた感じだ。

「端的に言えば、私たちは曲を書くのをやめられなかったんです」と、テイラーはSNSでメッセージしていた。「もっと詩的に表現すれば、私たちはフォークロアな森の入口に立って、そこから引き返すか、この音楽の森の奥めがけてさらなる旅を続けるか、選択を迫られて。私たちはより深くさまよい入ることを選びました」

プロデュースはザ・ナショナルのアーロン・デスナーとブライス・デスナー兄弟、およびジャック・アントノフ。もちろん収録曲はすべてテイラー作。大半がアーロン・デスナーとの共作曲だ。ジャック・アントノフも2曲、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンも1曲、そして前作に引き続きテイラーのボーイフレンド、ジョー・アルウィンも“ウィリアム・バウリー”名義で3曲に共作クレジットされている。

テイラーの作る歌メロって、同じ印象的な音列を何度も繰り返していく中、バックのコードだけが変わっていくというパターンが多い。それによって、こう、なんというか、被写体にピントが合ったまま、背景だけがくるくる流れていくというか、近景になったり遠景になったり変化するというか。そんなイマジネイティヴな効果を生み出すことが多いのだけれど。今回はそれが歌メロだけでなく、ギターやキーボードが奏でるリフまでその傾向を一層強めていて、おかげで浮遊感120パー増。

もちろん、ソングライターとしての成長ぶりも記されていて。「トラレイト・イット」と「クロージャー」。この2曲でテイラーは、けっしてこれ見よがしにではなく、きわめて自然体で5拍子を取り入れているのだけれど。そうすることで、振り払うことができない過去の悲しい記憶を巡る、どうにも整理のつけようがない心の揺れを絶妙に綴ってみせていたりして。腕を上げたなって感じ。

フィーチャード・ゲストはザ・ナショナル、ボン・イヴェール、そしてハイム。ベーシックなバックトラックはアーロン・デスナーがほぼひとりで構築したようだけれど、ザ・ナショナルに関してはデスナー兄弟、およびヴォーカルのマット・バーニンジャーだけでなく、ブライアン・デヴェンドーフ(ドラム)、スコット・デヴェンドーフ(ベース、ピアノ)…と、メンバー全員の名前が参加ミュージシャンとしてクレジットされている。

その他、ジェイムス・マカリスター(ドラム)、JTベイツ(ドラム)、ボビー・ホーク(ヴァイオリン)、ベン・ランツ(トロンボーン)、デイヴ・ネルソン(トロンボーン)、スチュアート・ボギー(クラリネット)、カイル・レズニック(トランペット)ら、ザ・ナショナルゆかりの顔ぶれが勢揃いだ。

yMusicのゲイブリエル・カベサス(チェロ)、アレックス・ソップ(フルート)、CJカメリエリ(ブラス)、元メンバーだったクラリス・ジェンセン(チェロ)、前出カイル・レズニックの奥さまでもあるユキ・ヌマタ・レズニック(ヴァイオリン)、さらにはアントニー&ザ・ジョンソンズのメンバーでありクリス・シーリーのプロデュースも手がけるトーマス・バートレット、ソー・パーカッションのジェイソン・トゥルーティング、マムフォード&サンズのマーカス・マムフォード、ハイムやヴァンパイア・ウィークエンドの人脈としてもおなじみのアリエル・レヒトシェイド、ゲインズのライアン・オルソン、マズのジョシュ・カウフマンなど、前作から引き続きの面々も含めてブルックリン系を中心に気になる名前がずらり。

アーロン・デスナーの助けを借りながらテイラーが持ち前のポジティヴな“距離の詰め方”で広げた人脈と音世界はすごいな、刺激的だな、と改めて感じる。今の時代、確実に濃密な進化/深化を遂げつつあるシーンを的確にすくい上げているような…。

あ、でも、テイラーのことも含め、この辺の顔ぶれにまとめて言及している文章をどこかで見かけたことがあったな、と思ったら。そうだ。わが妻、能地祐子が2017年に出した本『アメクラ〜アメリカン・クラシックのススメ』(DU BOOKS)や、同趣向のテーマでオンライン音楽誌『Eris』で続けている連載『オレに言わせりゃクラシック~This Is How I Feel About Classical Music』における一連の文章だった。身内のことなのでちょっと気恥ずかしくもありますが、ノージがこのあたりで披露している考察なり予感なり願望なりが、まじ、だんだん現実のものになりつつあるような気がして。盛り上がる。

テイラー・スウィフトというキュートな個性が媒介となってシーンにさりげなく巻き起こる刺激的な化学反応。いやー、聞き逃せません。今のところストリーミングで聞いていて、今回もアナログ盤が欲しいと思ってオーダーしようとしたら、リリースは来年の5月だって。まじか。そのころ、またテイラー、何か新しいの出しちゃったりするんじゃないの? もう…。

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