Disc Review

After the Gold Rush: 50th Anniversary Edition / Neil Young (Reprise)

アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ:50周年記念エディション/ニール・ヤング

毎年、冬と夏に早稲田大学エクステンションセンター中野校で『英米ロック史〜ロックンロールの創始者たち』というオープンカレッジ講座を担当してきて。今年のアタマ、1月から2月にかけての講座で、ありがたいことに開講以来10回目を迎えることができました。

1月から2月というと、すでに新型コロナ禍が忍び寄ってきていた時期。受講生のみなさんも人によってマスクしたりしなかったり…くらいの感じで。なんとか乗り切りはしたものの。今年夏に予定されていた11回目の講座はさすがに中止。生徒さんたちとお目にかかれなくなって、仕方ないこととはいえ本当に残念でした。

大学自体、対面での講義がなかなか再開できずにいる状態なので、オープンカレッジはどうなるのかなぁ…と思っていたところ。来年アタマ、冬の講座はZoomによるリモート環境で開講されることになりました。結局みなさんと直接お目にかかれるわけではないとはいえ、Zoom越しに、また音楽をテーマにみなさんといろいろ学ぶことができます。とりあえずよかった。

来年1月16日から2月13日まで、毎週土曜日の13時〜14時半の全5回。今回取り上げる顔ぶれは、ブライアン・ウィルソン、ジェイムス・テイラー、細野晴臣、“ブリル・ビルディング”系ソングライターたち、そしてエルヴィス・プレスリー(パート3)。詳細は大学のホームページでチェックしてください。学生でも、そうでなくても、年齢関係なく、どなたでも受講できます。試験とか、ないです(笑)。お気楽に、ぜひ。

で、今日、本ブログで取り上げるのは、そんな早稲田の講座でも2016年の冬、2回目のときにテーマにしたニール・ヤング。今年は6月に『ホームグロウン』、11月に『リターン・トゥ・グリーンデイル』アーカイヴ・ボックスvol.2、と、発掘音源系のアルバムを本ブログでもとりあげまくってきたけれど。もういっちょ、いきます。

1970年9月にリリースされた彼のソロ・アルバム第3弾『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』の発売50周年を祝う記念エディションだ。

この人、スティーヴン・スティルス、リッチー・フューレイらとともにバッファロー・スプリングフィールドを結成したのが1966年。バンド解散後、1969年に2枚のソロ・アルバムをリリースして。やがてクロスビー、スティルス&ナッシュに合流。クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング名義で1970年3月に出したアルバム『デジャ・ヴ』が特大ヒットを記録して。

と、そんな流れを受け、同年9月に満を持して届けられた新作ソロ・アルバムが『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』だった。ここに至って鉄壁の“ニール・ヤングらしさ”が世に広まり、以後、現在に至る、と。乱暴なようだが、ニール・ヤングの音楽的な歴史はそんな感じだと思う。このアルバム以降、ニール・ヤングは何ひとつ変わらず半世紀、音楽シーンの横軸を“進化”の名のもとスピーディに点移動するのではなく、定点にがっちり足を踏ん張りながら縦軸をどこまで深く掘り下げていけるか、つまり“深化”していけるかを突き詰めつつ着実に歩みを続けている。そういう意味でも重要な“起点”となった1枚。まじ、名曲ぞろいだ。

“払い戻すには年をとりすぎた。売るにはまだ若すぎる。そんなとき自分と折り合いをつけるのはむずかしいことなのか?”という答えのない問いかけを繰り返しながら浮遊感に満ちた生ギター演奏に乗せてモラトリアムな世界観を綴る「テル・ミー・ホワイ」。

“見てごらん。この70年代、母なる自然が逃げていくのを”という今なお有効性を失っていないメッセージを生ピアノに乗せて弾き語る「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」。

ジョニ・ミッチェルと別れたばかりのグレアム・ナッシュのために書かれた曲と言われている切ないワルツ「オンリー・ラヴ(Only Love Can Break Your Heart)」。

根深い人種差別を続ける南部の白人男を痛烈に批判したハードな「サザン・マン」。

“朝が来るまでぼくは捧げ続ける。朝が来るまでぼくは待ち続けるだけ”と繰り返すだけにもかかわらず妙に心に染み入ってくる小品「やがて朝が(Till the Morning Comes)」。

カントリー界の大御所、ドン・ギブソンが1958年に放った大ヒットをカヴァーし、ぐっとスロウな、喪失感に満ちた三連バラードへと変身させた「オー・ロンサム・ミー」。

聖書を想起させるフレーズなども交えつつ、トラックが行き交う道端に倒れる老人、“答え”を手に夜を駆ける盲人、罪の重さに耐えかねたように沈む悲しげな月、路地に吹き付ける風に舞う朝刊、サイレンのうめき…など、夜と朝の狭間の光景が描き出し、やがて“こんなことで落ち込むな。また立ち直れるさ”と歌いかける「ブリング・ユー・ダウン(Don't Let It Bring You Down)」。

愛する女性のもとから旅立たなければならない男が、自分は彼女にはふさわしくない、もっと素晴らしい相手が現れるはずだと告げる「バーズ」。

難解な比喩や内省的な心情吐露が飛び交う本アルバムにあってもっともシンプルにロックする「アイ・キャン・リアリー・ラヴ(When You Dance I Can Really Love)」。

彼女の愛に疑念を抱く男と、そんな彼を愛さなければと自らを強いる女の恋愛風景を切り取った「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」。

危険な船旅になぞらえながら、気をつけないと足を踏み外しそうな境遇にいる者に警告を発する小品「壊れた渡し船(Cripple Creek Ferry)」。

と、ここまでがオリジナル・アルバムに収められていた11曲。今回はそこに本作と同時期に書かれた「ワンダリン」2ヴァージョンが追加されている。ひとつはアーカイヴ・ボックスvol.1に収められて世に出たヴァージョン。もうひとつは別アレンジの未発表アウトテイク。

どうせならアーカイヴ・ボックスに隠しトラックとして入っていた「アイ・ビリーヴ・イン・ユー」の別ミックスとか、「オンリー・ラヴ」のシングルB面に収められていた「バーズ」の別ヴァージョン(クレイジー・ホースがバックをつとめたやつ)とかもボーナス追加してくれればよかったのに…と、またまたムシのいい不満をもらしたりしつつ、若き日のニール・ヤングのふにゃ〜とした歌声に改めてとろけちゃうのでありました。アナログ(Tower / HMV)は来年春みたい。なんか値段がバカ高いけど…? これは様子見だな。

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