
ゲッティング・ゼア/イーライ・ペイパーボーイ・リード
中学2年の冬休みのころだから1970年の新春かな。お年玉とかかき集めて買ったLPがあって。忘れられない。エルヴィス・プレスリーの『フロム・エルヴィス・イン・メンフィス』。
これが初めて手にしたエルヴィスのアルバムだった。というのも、この年のお正月に日本のテレビで、エルヴィス伝説の『68カムバック・スペシャル』が放送されて。それ見て、やっべー、エルヴィスってこんなすげえアーティストだったんだ、ちゃんと聞かなきゃと思ったのがきっかけだったのだけれど。
それで、その当時の最新オリジナル・アルバムだった『フロム・エルヴィス・イン・メンフィス』を手に入れた。1969年にチップス・モーマンのプロデュースの下、メンフィスにあるアメリカン・サウンド・スタジオで、レジー・ヤングとかトミー・コグビルとかジーン・クリスマンとか地元の名手たちをバックに録音された1枚。繰り返し繰り返し、それこそすり切れるくらい聞きまくって。シングル・ヒットした「イン・ザ・ゲットー」をはじめ、全曲、大好きになって。
その中にちょっと気になる曲がいくつかあった。ひとつは「恋はいばらの道を(True Love Travels on a Gravel Road)」って曲。これは1968年にカントリー・シンガーのデュエイン・ディーって人が小ヒットさせたダラス・フレイジャー作品で。エルヴィスのヴァージョンも基本的にはいわゆるポップ・カントリー・サウンドで仕上げられていたのだけれど。
そのころ、この曲をカヴァーしたパーシー・スレッジのヴァージョンってのも出て。えーっ、パーシー・スレッジってR&Bの人だよね、R&Bの人がカントリー? とか、まだ何も知らない中学生だったぼくは驚いたのでした。
他にも「ロング・ブラック・リムジン」って曲も入っていて。これも後になっていろいろ調べてみたら、作者であるヴァーン・ストーヴァルをはじめ、ゴードン・テリーやグレン・キャンベルらも取り上げている曲で。最初のヒット・ヴァージョンはカントリー畑のジョディ・ミラーによる盤だったのだけれど、その後、ソウル・シンガーのO.C.スミスも取り上げ、エルヴィスはそのヴァージョンを参考にカヴァーしていた。
アメリカの南部にはカントリーもR&Bも、白人・黒人関係なくいろいろな音楽がいろいろな形で交錯していて。そういう中から豊かな表現が生まれてきているのだなぁ、白人がロックで黒人がソウルで、とか、そんな単純な話じゃないのだなぁ、と。深い事実をあのころ初めて思い知ったのでありました。
で、まあ、長い前置きでしたが。そんなころの気持ちを思いだしてしまった1枚を今朝のピックアップ・アルバムとして紹介しようかな、という。そういう話です。主役は、本ブログでも何度か紹介している痛快ブルー・アイド・ソウル野郎、イーライ“ペイパーボーイ”リード。
そんなイーライさんの新作。このところ、2作ほどカヴァー・アルバムが続いていたので、オリジナル曲中心のアルバムとしては2019年の『99セント・ドリームス』以来7年ぶり。で、何が『フロム・エルヴィス・イン・メンフィス』を思い出させたかといえば、この人のバンド、ペダル・スティール・ギターが入っているのですよ。
前カヴァー作、2023年の『ヒッツ・アンド・ミッシズ』は、もちろんソウルもの中心の選曲だったのだけれど、中にはモーターヘッドの曲があったり、スティーリー・ダンがあったり、ボブ・ディランがあったり。さらにはカントリーものも! マール・ハガードの「アイム・ゴナ・ブレイク・エヴリ・ハート・アイ・キャン」もカヴァーされていたし。その前、2020年の『ダウン・エヴリ・ロード』に至ってはマール・ハガードの曲をR&Bアレンジで聞かせる1枚だったし。
そのあたりをふまえて接すると、なるほど! 的な新作。全曲ではないけれど、ギタリストのジョニー・ラムが奏でるペダル・スチール・ギターがいい味を出している。ペダル・スティールがメンフィス・ソウルっぽいホーン・セクションと絡み合う「エヴリ・ワンス・イン・ア・ホワイル」で幕開け。続く「アスキング・フォー・ア・フレンド」は完璧カントリーで。
これまで以上にまっすぐカントリー味へもアプローチしていて。米南部音楽の豊かさのようなものに対して、偏見なく、きっちりリスペクトを届けている感じ。ファンキーだったり、スウィートだったり、ほろ苦かったり…。オープニング2曲でもうノックアウトです。
しかも、このアルバム、現在84歳のR&Bアイコン、スワンプ・ドッグをプロデューサー/プレイヤー/シンガーとして迎えた1枚でもあって。イーライさんとスワンプ・ドッグがサム&デイヴばりのデュエットを聞かせる「ワン・マンズ・トラッシュ」とか、ドッグ作の「ノック・ノック・メモリーズ」とか、めちゃかっこいい。
女性シンガー、ザニアとの男女デュエット・ソウルもの「ラヴ・ユー・モア」もサザン・ソウル・バラード系の「ソア・ルーザー」も、「ハウ・キャン・アイ・フォーゲット」も、テンプテーションズっぽい「アイ・キャント・イーヴン・ウォーク」も、どれもたまらない。
この美学。色褪せません。




