Disc Review

The Who By Numbers (5CD+Blu-ray) / The Who (Polydor/Universal)

ザ・フー・バイ・ナンバーズ(スーパー・デラックス・エディション)/ザ・フー

今では30歳過ぎたロック・アーティストとか当たり前だけど。1960年代とか70年代前半とかには、ロック・アーティスト自身が歳を取るということが、まだあまり想定されていなかったようなところもあって。

まあ、ロックンロールが若者のための若者による新奇な音楽として誕生したのが1950年代半ば。当然ではあったのだけれど。当時は30歳以上のロック・アーティストとか、確かにまだまだ少なかった。1960年代の若者文化の中では、バークレーの学生運動から生まれ、ジェリー・ルービンらによって広められた、例の“ドント・トラスト・オーヴァー・サーティー”なんてスローガンも幅をきかせていたわけで。

ぼくもそうだった気がするけれど、みんな、自分が歳取ることとか考えていなかったのかな(笑)。若さっていうのはそういうものなのかも。

で、この人たち、ザ・フーも1965年に「マイ・ジェネレーション」で“歳を取る前に死ねたらいいのに”とぶちあげたときは、作者のピート・タウンゼントは20歳、ヴォーカルのロジャー・ダルトリーは21歳。威勢のいい啖呵をきっていた彼らも、しかし1975年になると当たり前のことながら30代へ。ロック音楽の新たな歴史を、自身の年輪と重ねながら切り拓いていく時期に突入した、と。

そんな時期にリリースされたのが彼らの7作目のアルバム『ザ・フー・バイ・ナンバーズ』で。1969年の『トミー』、1971年の『フーズ・ネクスト』、1973年の『四重人格(Quadrophenia)』と、なんとも壮大な構想を背景にしたスケールの大きな作品を連投してきた彼らが、ここで一転、ぐっとパーソナルで内省的な歌を並べた1枚を届けてくれたのでありました。

日本ではカットされなかった覚えがあるけれど、「スリップ・キッド」とか「スクイーズ・ボックス」みたいなキャッチーなシングル曲もあったし、ピートがウクレレ片手に穏やかに歌う「ブルー・レッド・アンド・グレイ」みたいな曲もあったけど。核を成していたのは、酒を浴びるほど飲んでも出口が見つからないと歌う「ハウエヴァー・マッチ・アイ・ブーズ」とか、人間関係への不信感がにじむ「ハウ・メニー・フレンズ」とか、何とも孤独な世界を描く「イマジン・ア・マン」とか…。ザ・フーならではのアグレッシヴなサウンドの奥から、ピートが当時抱え込んでいた不安や迷い、苛立ち、自己嫌悪、弱音などがちらちら顔をのぞかせるタイプの曲で。

それだけに、ファンの中には“ピートのスランプ期のアルバム”と評する向きもなくはないようだけれど。ザ・フーがこれほど率直に、自分たちの弱さに正面から対峙した作品も珍しかったというか。シンガー・ソングライター時代のただ中に、自分たちなりに時代の空気感に応えた1枚ととらえることもできそうな。

そういう意味で、個人的には『フーズ・ネクスト』の次に好きなザ・フーのアルバムだったりもするわけですが。ジョン・エントウィッスルが描いたジャケットもなんだか楽しいし。

そんな『ザ・フー・バイ・ナンバーズ』の発売50周年記念ボックス、1年遅れではありますが(笑)、出ました。5CD+ブルーレイ。オリジナル・アルバムの最新リマスター音源に加えて、ピートのデモ音源、初期ミックス、ガイド・ヴォーカル・ヴァージョン、未編集ヴァージョン、メンバーどうしのスタジオでの対話などが大量投下されてます。ニッキー・ホプキンス参加の「ハイ・ヒール・スニーカーズ」の短いジャム音源とか、途中でやめないで続けて演奏してほしかったなー。

特に興味深いのが、ピート自身が極めて個人的な思いを吐露した楽曲群を、自ら歌っている初期ヴァージョン。「イマジン・ア・マン」とか、ロジャーが歌う完成版と聞き比べると言葉の響き方もずいぶん違ってくるようで。面白い。ピートとロニー・レインの1977年の共演アルバム『ラフ・ミックス』で発表される「キープ・ミー・ターニング」の初期ヴァージョンも2種類収められている。

ライヴ音源と映像も目玉。以前ボーナス・トラックとして一部世に出たこともある1976年6月12日、ウェールズのスウォンジーで行なわれた公演(1978年に32歳で亡くなってしまうキース・ムーンがイギリスの観客の前で行なった最後の本格的なコンサート)の音源が、これまででもっともまとまった形で収録されているほか、ブルーレイには1975年12月6日、当時の屋内ロック・コンサートの観客動員記録となる7万6896人を集めたというミシガン州ポンティアックでの未公開ライヴ映像も収録されてます。

個人的な悩みや孤独を抱え込んだパーソナルなソングライターとしてのピートと、巨大な会場を埋め尽くす観客を相手に猛烈なエネルギーを放出し続けるバンドとしてのザ・フー。その落差もまた1975〜76年の彼らを象徴している感じか。ザ・フーの内と外。弱さと強さ。両者が味わえる貴重なボックスかも。

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