
ユアーズ・フォー・ザ・テイキング:ザ・ファウンド・ソングズ・オヴ・ジミー・ウェッブ/ジミー・ウェッブ
ジミー・ウェッブに関しては、本ブログでも過去何度か取り上げて、いくつかプレイリストを作成したりもしているのだけれど。
この人の作風というのは、本当に魅力的で。最初にジミー・ウェッブという名前を意識したのは中学生だったころに出くわした、んー、最初はどっちだろう? フィフス・ディメンションの「ビートでジャンプ(Up, Up and Away)」でだったか、グレン・キャンベルの「恋はフェニックス(By the Time I Get to Phoenix)」でだったか…。とにかくそれ以来、この人独特の広がりとか、浮遊感とか、そういうものにすっかりハマってしまって。
というわけで、ぼくは当初ジミー・ウェッブを職業ソングライターとして認識したのだけれど。その後、本人名義のアルバムとかもちょいちょい聞くようになって。そうか、この人は当時よく比べられていたバート・バカラックとか、そういう鉄壁の職業作曲家とは違って、もっとシンガー・ソングライター寄りの、パーソナルな持ち味の人だったんだと思い直すようになって。
面白い存在だなぁ…と。いつも、いつまでも、気になるアーティストであり続けています。
そんなジミー・ウェッブも今年の8月に80歳を迎えて。でも隠居しちゃうことなく、新作、届けてくれました。いや、新作というか。アルバム・タイトルを見ればわかる通り、“Yours for the Taking”、つまり、どうぞお持ち帰りください、というメッセージとともに届けられた“The Found Songs of Jimmy Webb”、ジミー・ウェッブの発見された歌たち。
フランク・シナトラとかバーブラ・ストライサンドとかリンダ・ロンシュタットとか、他シンガーのために書かれたり、あるいは自身のために書かれたりしたものの、タイミングが合わなかったり、何らかの事情があったり、結局レコーディングされず、ウェッブ自身の言葉を借りれば“ピアノのベンチの中にしまわれたまま(in the piano bench)”になっていた未発表曲群をベースに構成された1枚だ。
長年の盟友、フレッド・モリンの下に保管されていたそれらの楽曲を、モリンのプロデュースの下、ナッシュヴィルの腕ききミュージシャンのサポートを受けながら、80歳という節目を迎えたジミー・ウェッブが新たにフル・プロダクションで命を吹き込んだものだとのこと。
たとえば「ウィンター・クローズ」という曲は1970年代にフランク・シナトラのために書き下ろされた曲で。シナトラ自身も興味を示していたものの、もう少し手直しを…とアドバイスされたまま、再びシナトラの下に持ち込むことなく終わっていたらしい。今回はグレアム・ナッシュをコーラスに迎え、ウェッブ自身の“物語”として新たにレコーディングし直された。
「ファーザー・ザン・アイズ・キャン・シー」はバーブラ・ストライサンドに提供しようとしていた曲。ウェッブの話によると、なんと過去20年間に4回、いろいろアレンジを変えたり工夫しながらバーブラにプレゼンしたものの、なぜかあえなくボツになっていたのだそうだ。それを今回はマイケル・マクドナルドをコーラスに迎えてレコーディングしている。
アルバム・タイトル曲「ユアーズ・フォー・ザ・テイキング」はリンダ・ロンシュタットに提供しようとしていた曲。でも、これまたなぜかリンダが歌うことはなく終わっていて。彼女が共同プロデューサーを務めたウェッブのソロ・アルバム『サスペンディング・ディスビリーフ』に収録しようと考えたこともあったようだけれど、そのときもレコーディングは実現せずじまい。それを今回、デル・アミトリのジャスティン・カリーを迎えてついにレコーディング。
ベス・ニールセン・チャップマンを迎えた「イフ・アイ・エヴァー・ゲット・トゥ・トーク・トゥ・ユー・アゲイン」はロサンゼルスのトルバドールでジョニ・ミッチェルのライヴを見たことがきっかけで書いたものというから、これも1970年代初頭の作品かな。他にもマーク・コーン、エイミー・グラントらが客演した曲も。
ボツ曲集じゃん、とか軽く切り捨てられそうだけど。確かに。ポップ・ソング〜ヒット・ソング作りに日々邁進するプロのソングライターの世界では、作り捨て、書き捨て…という感じでどんどん作品を提供して、ボツになったものはすぐ忘れて次へ、次へ…みたいな? そういうふうに楽曲は消費されていく。
でも、音楽って最初の出会い頭で一気に聞く人の耳をつかむタイプのものもあれば、何度も何度も繰り返し聞き返した後、ようやくじわじわと真価を発揮するものもあって。この聞き分けは手練れのプロデューサーにもとてつもなくむずかしい。しかも、実は後者のほうが時を超えて生き残ったりすることも多かったりして。
ウェッブ自身、若いころは先を急ぐあまり、曲を次々と置き去りにしてきたけれど、80歳になった今、少し落ち着いた気持ちでそれらを見つめ直すことができた、といった趣旨の発言をしている。なるほど。そういう中でふと忘れられてしまっていた隠れたお宝集という感じで受け止めたほうが楽しい1枚かも。
新録11曲に加えて前述「ウィンター・クローズ」と「イフ・アイ・エヴァー・ゲット・トゥ・トーク・トゥ・ユー・アゲイン」のピアノ弾き語りによるオリジナル・デモも併録されている。アナログLPはそのデモ2曲が本編とは別に7インチ・シングルで添えられてます。
当時の瑞々しいデモと、80歳の今、歌われる深みのある新録ヴァージョン。両方を聞き比べると、先述した彼の持ち味、つまり他シンガーに提供する作品でもそのメロディと歌詞の骨格にはきわめてパーソナルな物語が潜んでいるのだ、ということがよりくっきり伝わってくるような…。



