Disc Review

Rubber Soul: Special Edition (Super Deluxe 4CD) / The Beatles (Capitol/Universal)

ラバー・ソウル:スペシャル・エディション(4CDスーパー・デラックス)/ザ・ビートルズ

『ラバー・ソウル』ボックス、出ましたーっ! 今日発売なので、ブツはまだ届いてませんが。ストリーミングも始まったので、さっそくご紹介です。

UKオリジナルLPに収録されていた全14曲に加え、同時リリースされた両A面シングル「恋を抱きしめよう(We Can Work It Out)」と「デイ・トリッパー」を生み出した、ビートルズの重要な変わり目を刻み込んだ1965年10〜11月のレコーディング・セッションの流れをCD4枚にまとめたスペシャル・エディション。

CD1がオリジナルUK盤14曲を、いつものジャイルズ・マーティンとサム・オケルが最新技術を駆使して再構築したニュー・ステレオ・ミックス。CD2が別テイク、デモ音源、シングル音源など。CD3がUKモノ盤。CD4がUSステレオ盤。

ジャイルスのニュー・リミックスは、いつもの感じ。リーズナブルな定位になっていて、幅広い世代にとって聞きやすい音像か。ただ、ドラムが左に寄ってる「ドライヴ・マイ・カー」とか、歌と演奏が左右に泣き別れた「イン・マイ・ライフ」とかにすっかり慣れ親しんだ世代としては、ね。そのあたりはいろいろ評価も分かれることでしょう。ドルビー・アトモスなども含むニュー・リミックスに関する複雑な思いについて、今年のアタマくらいに朝日新聞に書かせてもらったっけ。一部引用しておくと——

かつて4人のビートルたちが多くの制約の中で苦闘し、ようやく決定したはずの音の優先順位を、しかし今、新世代の視点と技術が軽々と組み替えていく。その事実に、旧世代のポップ音楽ファンとしては複雑な思いも抱く。ポップ音楽にとっての「オリジナル」とは? 「原典」とは? 最新技術の下、次々繰り出されるこれら再構築物は新たな原典となり得るのか。あるいは可逆的に本来の原典へと立ち返ることを担保した変種の一つに過ぎないのか。音楽に限らず、映画、絵画などの補修も含め、僕たちは本物の凄みに迫っているようでいながら、実は「磨かれすぎた複製」に熱狂しているだけでは? 

いろいろ、ぐるぐるしちゃいますね。

あと、とりあえず興味を惹くのがCD2のレア音源系。「ノルウェーの森(Norwegian Wood)」にシタールが初導入されたテイク2とか、まだ例のリフがない「デイ・トリッパー」の“ソングライティング・ワーク・テープ・ヴァージョン”とか、「イン・マイ・ライフ」のオルガン間奏ヴァージョンとか、ジョージがジョンに“そこはメジャー!”と注意したりする様子も含まれる「嘘つき女(Think For Yourself)」セッションの様子とか、もろもろのバックトラックとか、もちろん興味深いものが満載されてはいる。

特にジャイルズがテープを切り貼りしながら蘇らせたらしきジョン・レノンの未発表曲「リトル・ガール」は、まあ、いかにも断片っぽい音源ではあるけれど、貴重っちゃ貴重。

ただ、過去の一連のスペシャル・エディションに比べると、驚愕の発見とかは少ない感じ。『アンソロジー』シリーズで既出のものもいくつか含まれているし。むしろ、この時期もまだジョージ・マーティンにとって制作の基本だったオリジナル・モノラル・ヴァージョンと、米キャピトルの戦略で、収録曲なども大きく入れ替えつつ当時流行しつつあったフォーク・ロック寄りに編成し直されたUSエディションの同梱こそが今回の箱のポイントかも。

ブライアン・ウィルソンが『ラバー・ソウル』を聞いて、俺もこれに負けないアルバムを作ろう! と決意し、『ペット・サウンズ』制作にとりかかったというエピソードはおなじみだろうけど。その際、ブライアンは“素晴らしいフォーク・アルバムだ”と感じたらしく。てことは、やっぱりオープニングに「ドライヴ・マイ・カー」ではなく「夢の人(I’ve Just Seen a Face)」がぶち込まれたUS盤を聞いたのだろうなぁと思う。

今さらここで説明する必要もないだろうけど。ビートルズの場合、初期、UKオリジナル盤とUS盤の内容がずいぶんと違っていて。日本盤も別だったし。そういう時代だった。で、『ラバー・ソウル』のひとつ前、『ヘルプ!』もUS盤は映画のサントラ仕様になっており、UK盤の収録曲中7曲が入っていなかった。で、そこから「夢の人」と「イッツ・オンリー・ラヴ」をこちらに入れることにして。UK盤の「ドライヴ・マイ・カー」「ひとりぼっちのあいつ」「消えた恋」「恋をするなら」を外した全12曲で再構成されていた。

それだと確かにかなり印象が違うわけで。その感触の違いを本ボックスセットで今また改めて、お手軽に検証することができることになったわけだ。あと、モノ・ヴァージョンもやっぱりガッツがあってかっこいいです。なんかこの時期のビートルズなら、オリジナル・モノがいちばんいいのかも(笑)。

となるとですね、まあ、世知辛いお金の話でナンですが。4CDスーパー・デラックス、高すぎない? CD4枚組で、88ページの豪華ハードカヴァー・ブックレット付きとはいえ、27,500円。予約段階で、まじかーっ!? とぶっとんだものです。2022年の『リボルバー』5CDボックスより高いじゃん。しかも今回はアトモス・ミックスとかハイレゾが入ったブルーレイは別売りだし。前ボックスから4年を経て、もはやそういう世の中なの? CD1にニュー・ステレオ・ミックス、CD2にレア音源のハイライトを収めた2枚組ならば5,000円弱だけど…。今回はなんかモノとUS盤が一緒っていうのがポイントな気もするから、2枚組じゃ物足りないっちゃ物足りないし。

でも、それだったら、ジャイルズのニュー・ステレオ・ミックスだけでなく、従来のステレオ・ミックスも入れておいてほしかった。ジョージ・マーティンが1987年にリミックスしたステレオ・ヴァージョンのほうは、まあ、みんなCDで持ってるだろうからいいとして。1965年のオリジナル・ステレオ・ミックスくらいはスーパー・デラックスに入れてくれよー。ブルーレイ・エディションにでもいい。容量、余裕ありまくりでしょ。あれは例の『モノ・ボックス』にどさくさ紛れって感じで入れたから、そっちで聞けってことかな。

いやいや、いつもながらアップルのやることはよくわかりません。

ちなみに、今月半ばに出る『レコード・コレクター』誌は、まあ、もちろんビートルズ『ラバー・ソウル』スペシャル・エディション特集なわけですが。そこでオリジナルUK盤の収録曲、全曲解説、書かせてもらいました。そのあたりをテキストに、10月19日のCRT【第二回ビートルズまつり 〜いつ聴くの? 今でしょ! 21世紀の『ラバー・ソウル』〜】で盛り上がりましょう。明日のお昼、10月3日12時から前売り開始でーす。

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