
ザ・リスト/スザンナ・ホフス
なんか、いつまでもかわいいよなぁ…。
ぼくは、まあ、女性でも男性でも、若作りってのはあんまり好きじゃなく。年相応がいちばん、と思っていて。だから、よくネットニュースとかで見かける“●歳女優、若〜いッ。かわいすぎると衝撃!”みたいなやつは苦手なのだけれど。
この人とか、ごく普通に年輪を重ねつつ、でも、わりと自然体で昔と同じキュートさを保ち続けているみたいで。なんだか素敵だなと思うのだ。ぼくよりほんのちょっと年下くらいだから、けっこういいお年ごろなんだけど。
スザンナ・ホフスの新作です。オリジナル・アルバムとしては2012年の『サムデイ』以来かな。その間、マシュー・スウィートと組んだ“アンダー・ザ・カヴァーズ”シリーズの第3弾(2013年)をはじめ、『ブライト・ライツ』(2021年)と『ザ・ディープ・エンド』(2023年)という単独名義でのカヴァー・アルバムも出していたし、1999年に録音しながらお蔵入りしていた『ザ・ロスト・レコード』も2024年にめでたく発掘リリースされていたし。ごぶさた感はないものの。やっぱりオリジナル新作はひときわうれしい。
以前本ブログでもちらっと話題にしたことがある初の小説『ジス・バード・ハズ・フロウン』を2023年に書き下ろしたことも大きかったみたい。これ、かつて一発ヒットを飛ばした女性シンガーを主人公にした小説だったのだけれど。これを書いたことに刺激されて、物語を組み立てることへの意欲が彼女の中で改めて盛り上がってきたのだとか。
アルバム・タイトルは『ザ・リスト』。なんのリストかと言えば、スザンナさんがかつてデートした男性のリストなんだそうで(笑)。彼女が1980年代に愛用していたファイロファックスの手帳にその実名リストが書きためてあって。有名人もいれば、一般人もいる。そのリストをきっかけに生まれたアルバムなのだとか。
オープニングを飾る「カサブランカ」からいきなり、今年1月に亡くなったグレイトフル・デッドのボブ・ウィアとのお話らしい。彼の名前がストレートに歌い込まれているわけではないけれど、かつてネヴィル・ブラザーズ絡みのパーティで出会ったあと、ふたりでニューオーリンズの街をうろついたことがあったそうで。まあ、実際にはデッドヘッズがぞろぞろ後ろについてきて、何も起こらず終わったらしいのだけれど(笑)、その夜、ひょっとしたら何かがあったかもしれないなぁ…という思いと、映画『カサブランカ』の記憶とが折り重なった感じの曲。
と、そんな曲で幕を開けるアルバムながら。題材的にはけっしてそのリストからの話ばかりではない。もちろん、そういう若い日々の恋愛を暴露ネタにしているわけでもない。現在の結婚生活のこととか、ふたりの息子たちが巣立ったあとの寂しさとかも含め、自分が生きてきた時間そのものを、成功も失敗もまるごと、今、60代後半を生きる女性として楽しげに見つめ直しているような手触り。
共同プロデュースはポール・サイモンやボン・イヴェールとのコラボでもおなじみのインディ系チェンバー・アンサンブル、 yMusic の中心メンバー、CJ・カメリエリ。彼を含む音楽仲間がスザンナさんの自宅キッチンに集まって、コーヒーを飲みながらみんなでスザンナさんの昔話に耳を傾ける。全員が、例の黄色いリーガル・パッドを持って、印象的なエピソードやフレーズをメモして。そのまま曲作りへ…みたいな。そういう流れでアルバムが制作されたらしい。録音場所もスザンナさんの自宅。リリースも彼女自身のレーベルから。
全曲、カメリエリとスザンナさんの共作。曲によってダン・ウィルソンとかジェシー・ハリスとかイーディ・ブリケルとかも共作者として加わる。ちょいちょい共演しているデュエット仲間、ルーファス・ウェインライトを迎えた「バッド・ケース・オヴ・ロンリネス」はグレッグ・リースのペダル・スティールが切ないカントリー・ワルツ。ジェシー・ハリスが共作者に加わった曲のひとつ「フール」はバート・バカラック調。イーディ・ブリケルが加わったラスト・チューン「ホワット・アー・ウィングズ・フォー」は前述した小説『ジス・バード・ハズ・フロウン』のミュージカル化のために書かれたというバラードだ。
昔の恋人たちの名前が並んだ懐かしいリストから始まったアルバムが、最後には“翼は何のためにあるの?”という問いかけへとたどり着く。ざっくり雑にまとめると“愛してくれてありがとう/私がしてきたことを/すべてはこの瞬間につながっていたの/今こそ舞い上がるとき/翼は何のためにあるの?”みたいな。過去を懐かしむためだけではなく、その記憶とともにまだまだ未来に向かって飛び立とうとする感じ。いいじゃないですか。
ちなみに、アルバム・タイトルに冠された問題のリストのいちばん下に書かれている名前は“ジェイ・ローチ”。1991年にブラインド・デートで出会い、その後、結婚。現在まで30年以上にわたって連れ添っている映画監督さんです。アルバム3曲目の「ナン・オヴ・ゼム・ワー・ユー」ってのが彼についての歌。過去に出会ったさまざまな男たちのことを振り返りながら、結局、“誰もあなたではなかった”と。ひゅーひゅー!(古ッ)

