Disc Review

Freak Out!: 60th Anniversary Super Deluxe 5CD+Blu-Ray / Frank Zappa (Universal Music)

フリーク・アウト!:60周年記念 5CD+ブルーレイ・スーパー・デラックス・エディション/フランク・ザッパ

2019年に『ザ・ホット・ラッツ・セッションズ』ってボックスセットが出たとき、本ブログでもぼくとザッパとの出会いについてけっこう詳しく書いたので、もしよかったらそちらを読んでいただきたいのだけれど。

そこで書いたように、ぼくは1969年発売の『ホット・ラッツ』ですら5年遅れくらいで聞いているのだから、このザッパのデビュー作、1966年の『フリーク・アウト!』は、ヘタするとオリジナル・リリースから10年近く遅れて手に入れたのかも。

ザッパものの常として、最初はやっぱりよくわからなかったものの。何度か聞いているうちに、モノホンのドゥーワップ・コーラスで綴られた「捨て去った恋(Go Cry On Somebody Else's Shoulder)」にハマって。最高だな、と思い。この曲とか、「ウォウィー・ゾウィー」の終わり間際に出てくるオールディーズっぽいテイストとか、「満たされない日々(I'm Not Satisfied)」や「俺は邪魔者(You're Probably Wondering Why I'm Here)」に顔を出す“♪イェーッ”というドゥーワップふうのベース・ヴォーカルとか。そのあたりを突破口に、めくるめく『フリーク・アウト!』の世界観にずぶずぶ沼っていったのでした。

2枚組LPのすみずみまで、ロック、フォーク、ブルース、R&B、ドゥーワップ、ジャズ、クラシック、現代音楽的サウンド・コラージュなど、本当に雑多な、多彩な、幅広い音楽性がアナーキーに渦巻いていて。でも、そのすべてが本物というか、絶対にテキトーにあしらったものではなくて。仕込みはすべて本格的。歌詞もいかれているようでいて、かなり文学的だったり、哲学的だったり…。『ホット・ラッツ』ボックスを紹介する際に書いた文章をそのまま引用するけれど——

奇才、異才、革新的、破壊的…。

フランク・ザッパを語るときに使われる一般的なキーワードといえば、そうしたものだろうか。確かに。間違いなく彼は革新的で、斬新で。デビューと同時にとんでもない衝撃を音楽シーンにもたらした奇才だった。けれども、破壊的ではなかった。ロックからクラシックまで、彼がぶちこわしたと言われることも多い既存の様々な音楽に関して、しかし彼は存分に知り抜き、愛していた。

愛ゆえの狼藉。既成の価値観に対してひたすらヒステリックに、やみくもにアンチをとなえるだけの“反逆者もどき”とはワケが違う。筋が違う。覚悟が違う。彼が52歳という若さで亡くなるまでの精力的な活動を、もし破壊的だったと言うのであれば、それはロックンロールも、ジャズも、ブルースも、R&Bも、フォークも、クラシックも、とことん愛し、知り抜いた男ならではの驚異のぶちこわし作業だった。

と、そういう感じ。

そんなフランク・ザッパ/マザーズ・オヴ・インヴェンションのデビュー・アルバムの60周年記念ボックスセットが登場しました。

1966年6月、当時としては異例のLP2枚組でリリースされたこのアルバム。全体をひとつのテーマが貫く、いわゆるコンセプト・アルバムのはしりとも言われている。前述したような幅広い音楽性の狭間を自在に行き来しつつ、毒気をまき散らし、ベトナム戦争やワッツ暴動などに揺れながら激変する社会状況の下、既成の安穏とした中産階級的価値観に決然と“ノー”を突きつけてみせた。

全米アルバムズ・チャートでは最高130位どまりと、一般的な注目はさほど集められずじまいだったけれど、反面、あのころ時代を変えようと青い闘争を繰り広げていた若い反体制的リスナーやLAのフリーク・シーンを中心に自分たちの思想の代弁者として受け止められ、熱い支持を獲得することに。まさしく新時代のカルト・ヒーローの誕生だった。

とはいえ、ザッパはけっして当時のヒッピーたちをも肯定していたわけじゃない。ここが大きなポイントで。ザッパ/マザーズは同時に、時代の気分に踊らされただけの浮ついたヒッピーイズムや、ファッションとしての“アンチ志向”のようなものに対しても、本『フリーク・アウト!』で強烈な“ノー”を投げかけていた。すべてを知り抜き、そして何にも属していなかったフランク・ザッパ。その毅然とした“孤高感”と“フリーク・アウト”感こそがロックだ、とか。勇み足気味に言いたくなっちゃったりして(笑)。

そんな歴史的デビュー作『フリーク・アウト!』の60周年を5CD+ブルーレイという豪勢な仕様で寿ぐボックスセット。多くの未発表音源も含む全105トラックが詰め込まれている。

CD1が『フリーク・アウト!』全15曲の1966年オリジナル・ステレオ・ミックス。CD2がアルバム制作中にMGMレコードのエンジニアが作成した“プレ・マスター・ミックス”。CD3が一部テープとして現存する音源に板起こしなどを駆使して復元された1966年オリジナル・モノ・ミックス。このモノ・ミックスが思いの外、かっこよかったかも。CD4とCD5の一部が、1966年2月24日、および6月24日と25日、アルバムの発売およそ4か月前と、まさに発売直前、サンフランシスコのフィルモア・オーディトリアムで行われたマザーズのライヴ音源。録音を手がけたレコーディング・エンジニア、ジョン・ジュドニックが個人的に保管していた貴重なテープからの復刻だとか。すごい! で、CD5の残り部分にマザーズのリハ音源、1965年10月に録音されたデモ音源、ヴォーカルが前面に押し出されたアルバム収録曲の別ミックスなど26トラック。ブルーレイにはCD1〜3の各ミックスのハイレゾ版、および『フリーク・アウト!』本編のドルビーアトモス・ミックスと5.1chサラウンド・ミックス。アトモスものとして「グルーピー・バン・バン」もボーナス追加されてます。

もちろんブックレットも充実。アナログ版もあります。だいぶ高いけど…。

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