
ザ・ブートレグ・サウンズ・オヴ・マーシャル・クレンショウ:1984-87/マーシャル・クレンショウ
マーシャル・クレンショウに関しては、ほとんどの人と同じだと思うけれど、ぼくも1982年のデビュー・アルバムでハマって。「サムデイ・サムウェイ」とか、どれほど聞きまくったことか。1950〜60年代のロックンロールやポップスが持っていた瑞々しい魅力を、エイティーズ感覚で蘇らせたような感触がごきげんだった。以前、本ブログでも40周年記念エディションの紹介をしたことがあったけれど。
このアルバムは、近年、コーレッツとかにも関わったリチャード・ゴッテラーが共同プロデュースしていたっけ。以降、スティーヴ・リリーホワイトのプロデュースによる『フィールド・デイ』(1983年)があって、Tボーン・バーネットらをプロデューサーに迎えてルーツ色を強めた『ダウンタウン』(1985年)があって、ドン・ディクソンと組んだ『メアリー・ジーン&9アザーズ』(1987年)があって…。
正直、ファーストに比べるとセールス的にはぐんと落ち込んでいってしまったわけですが。このあたりの時期、クレンショウさんが裏でどんな試行錯誤を繰り広げていたのか、ちらっとのぞき見させてくれるような興味深い発掘音源集。それが本作『ザ・ブートレグ・サウンズ・オヴ・マーシャル・クレンショウ:1984-87』なのでありました。
本人が保管していたテープを掘り起こし、当時のデモやスタジオでの未発表録音、ライヴ音源、既発曲のテレビ用バックトラック、コーラスのテスト・トラックなどをまとめた、いわばクレンショウの創作ノートみたいなアルバム。今年4月のレコード・ストア・デイに限定アナログ盤として登場した盤だけれど。今回、10月23日にYep Rocから一般向けにもリリースが実現しました。
『メアリー・ジーン…』のラストを飾っていた名曲「ゼイ・ウィル・ネヴァー・ノウ」の初期ヴァージョンで幕開け。続く「(ウィア・ゴナ)シェイク・アップ・ゼア・マインズ」も面白くて。なんでも曲作りに詰まったクレンショウさんが、なんとバッキング・トラックをイギリスのカースティ・マッコールに郵送。彼女ならどう料理するかと預けてみたものなのだとか。
で、カースティがそのトラックを使って「オール・アイ・エヴァー・ウォンテッド」という曲を書いて送り返してきたのだけれど。それが届いたころにはクレンショウのほうも自力でストーリーを思いついて曲を仕上げちゃっていて。同じオケを使った別曲がふたつ誕生しちゃった、と。
カースティはその5年後、1991年の『エレクトリック・ランドレディ』でこの曲をレコーディング。シングル・カットもしているのだけれど。それで本作にはクレンショウのデモと、カースティのデモが続けて収められている。カースティのほうがすごく短いのは、クレンショウが間違って上から録音しちゃったからだとか。うっかり上書きしちゃったテープのまま、ここに収録されているらしい。
ネット時代以前の、しかもアナログ・テープ期ならではのエピソードだなぁ。楽しい。
あと、クレンショウは1987年の映画『ラ・バンバ』でバディ・ホリー役を務めていて。その際、サウンドトラックに収められた「クライング、ウェイティング、ホーピング」をEストリート・バンドのギャリー・タレントが手がけていたのだけれど。その流れなのかな、ギャリーさんとEストリート・バンド仲間のマックス・ワインバーグというリズム隊がバックアップしたバディ・ホリーの「ザットル・ビー・ザ・デイ」も収められている。これまた完コピです。
ジーン・ピットニーの「非情の町(Town Without Pity)」や、故郷デトロイトの大先輩、ジャッキー・ウィルソンの「リート・ペティート」のカヴァーもあり。『フィールド・デイ』収録曲のライヴ音源もうれしい。あっち行ったりこっち行ったり、雑然とした音源集ではあるけれど、1950年代ロックンロールから1980年代パワー・ポップまでふらふら行き来する自在な感じも含め、それもまたマーシャル・クレンショウっぽいかも。


