Disc Review

Here It Is: A Tribute to Leonard Cohen / Various Artists (Blue Note) + Hallelujah & Songs from His Albums / Leonard Cohen (Columbia/Legacy)

ヒア・イット・イズ:トリビュート・トゥ・レナード・コーエン+ハレルヤ・アンド・ソングス・フロム・ヒズ・アルバムズ

昨夜、久々の日本武道館。ノラ・ジョーンズ見てきましたが。まさに至福の時間で。クリス・モリッシー(ベース、コーラス)、ブライアン・ブレイド(ドラム)、ダン・アイイード(ギター、ペダル・スティール)という顔ぶれのバンドも実に的確だったし、オープニング・アクトのロドリーゴ・アマランテとも本編とアンコールと、それぞれ1曲ずつ共演を聞かせてくれたし、何よりもノラさん、抜群に感じよかったし(笑)。ピアノだけでなくギターも1曲聞かせてくれたし。

14日の武道館セットリストをちら見して出かけたのだけれど、まあ、当然のように一部曲が入れ替わっていて。その辺の出し入れも楽しかった。まだこの後も日本公演は続くので、これからご覧になる方、お楽しみに。先日、本ブログでも軽く触れたコーレッツ@新宿ロフトみたいなちっちゃいとこでも、今回の武道館みたいなでっかいとこでも、どんな小屋でもやっぱライヴはいいっすね。

で、今日はそんなノラさんも参加したレナード・コーエン・トリビュート盤と、本家レナード・コーエンのオールタイム・ベスト盤とをご紹介。

1950年代から60年代にかけて詩人、小説家として名を成したのち、1967年、33歳のときにシンガー・ソングライターとして本格的に活動をスタートさせたコーエン。そんな彼の功績を振り返るトリビュート盤『ヒア・イット・イズ:トリビュート・トゥ・レナード・コーエン』は名門ブルーノート・レコードからのリリースだ。プロデュースはラリー・クライン。コーエンの遅咲きのデビュー作、1967年の『レナード・コーエンの唄(Songs of Leonard Cohen)』から、2016年に82歳で亡くなる直前にリリースされた『ユー・ウォント・イット・ダーカー』まで視野に入れつつ選曲されている。

ノラさんをはじめ、ピーター・ゲイブリエル、グレゴリー・ポーター、サラ・マクラクラン、ルシアーナ・スーザ、ジェイムス・テイラー、イギー・ポップ、メイヴィス・ステイプルズ、デヴィッド・グレイ、ナサニエル・レイトリフらが1曲ずつ新旧コーエン作品をカヴァー。それをビル・フリゼール(ギター)、イマニュエル・ウィルキンス(サックス)、ケヴィン・ヘイズ(ピアノ)、スコット・コリー(ベース)、グレッグ・リース(ペダル・スティール)、ラリー・ゴールディングス(オルガン)らがバックアップしている。時代もジャンルも超えた形でレナード・コーエンという偉大な表現者の魅力を再構築する真摯な試みだ。

アルバムの幕開けは、ノラさんが前述の晩年作『ユー・ウォント・イット・ダーカー』の収録曲をカヴァーした「スティア・ユア・ウェイ」。ラストはビル・フリゼールが、彼ならではの歌心を存分に発揮した、もう歌詞が聞こえてきそうなギター・インストによるコーエン初期の名曲「電線の鳥(Bird on The Wire)」。その間に、前述したような優れたシンガーたちがそれぞれのアプローチで多彩なコーエン作品を静かに歌い綴っていく。

いつもと違う、ものすごく低いキーで歌うジェイムス・テイラーの「あなたの胸に(Coming Back to You)」とか、メイヴィス・ステイプルが切実に訴えかけてくる「もしもあなたが望むなら(If It Be Your Will)」とか、旧約聖書の文言を絡めながら別れた恋人を思い聖なる信仰心とよこしまな淫らさとの間で揺れまくる必殺の名曲をサラ・マクラクランが淡々と綴った「ハレルヤ」とか、1984年のアルバム『哀しみのダンス(Various Positions)』からの選曲が特に泣けた。まあ、ぼくが個人的にこのアルバムで本格的にレナード・コーエンの深みにハマったという極私的理由によるものではありますが…。

これは以前、英ACEレコードが編纂した『ハレルヤ~ソングズ・オブ・レナード・コーエン』というコンピを紹介したときにも書いたことなのだけれど、かつてボブ・ディランがコーエンについて、「レナードの話をするとき、誰もが彼のメロディについて語るのを忘れている。ぼくに言わせれば彼のメロディも、彼の歌詞同様、この上なく偉大な天賦の才だ…」と語っていて。なるほど。そういう魅力は確かにこうして他のシンガーたちがカヴァーしたときにこそ、わかりやすく感知できるものなのかも。

ただ、これまたそのとき書いたことの繰り返しではありますが、最終的にいろいろ聞き進めていくと、コーエン作品はやはりコーエンが歌っているのがいちばん…という、なんとも身も蓋もない結論に達してしまうのも事実。

というわけで、今回もこのブルーノートからのトリビュート盤に接した後は、レナード・コーエン自らの歌声に接しましょう。サブスク系では6月にストリーミングがスタートしていたコーエンの最新ベスト『ハレルヤ・アンド・ソングス・フロム・ヒズ・アルバムズ』。10月14日にフィジカルが出ました。今年、全米で公開がスタートしたコーエンのドキュメンタリー映画『ハレルヤ:レナード・コーエン、ア・ジャーニー、ア・ソング』の関連作品としてコンパイルされた1枚だ。

もちろん、コーエンの深遠な魅力をたかだか17曲でたどることなどできるはずもないのだけれど。レナード・コーエン未体験の人には絶好の入門盤になりそうだし、ずっと聞き続けてきた古株のファンにも、時代とともに彼のどこが変わり、どこが不変だったのか、それを駆け足で再確認するためのダイジェスト盤として楽しめるはず。基本的には既発音源で構成された1枚ながら、冒頭に収められた「ハレルヤ」だけは2008年のグラストンベリー・フェスでの未発表ライヴ音源だ。それだけでも古株ファンも入手しておかなきゃ…的な? 加えて、コーエン・ファミリー・トラストが所蔵する貴重なコーエンの個人ノート、日記、写真などもブックレットに掲載されてます。

2012年のアルバム『オールド・アイディアズ』に「ショウ・ミー・ザ・プレイス」という曲が収められていて。今回のベストにも選曲されているのだけれど。そこでコーエンは、救いや癒やしを求めるのではなく、むしろ苦しみが生まれた地を示してほしいと祈っていた。コーエンの旅路はそういうものだった。

そして、ラストは没後、2019年にリリースされた遺作アルバム『サンクス・フォー・ザ・ダンス』のタイトル・チューン。その曲で、コーエンは“ワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリー、ワン…”と繰り返し、最期の瞬間に向かってワルツのステップを踏み続ける。そして、彼はこう歌うのだ。“踊ってくれてありがとう/つらかった/素晴らしかった/楽しかった”と。

すごい人でした。ほんと。

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