Disc Review

Space Force / Todd Rundgren (Cleopatra Records)

スペース・フォース/トッド・ラングレン

数日前、アルティメット・クラシック・ロックのサイトをつらつら飛ばし読みしていたら、本作の先行レビューが載っていて。そこに面白い表現があった。ざっくり引用すると——

“トッド・ラングレンという人は長年、落ち着きのないクリエイティヴィティを長年発揮してきた。『サムシング/エニシング』や『魔法使いは真実のスター(A Wizard, a True Star)』のような傑作ソロ・アルバムを生み出すときも、グランド・ファンク・レイルロードからXTCまで、多彩なアーティストのアルバムをプロデュースするときも、彼は正確無比であると同時に無差別的。そうした個性ゆえ、彼は理想的なコラボレーターにも、スタジオの悪夢ともなりうる”と。

なるほど。理想的なコラボレーターでもあり、スタジオの悪夢でもある。確かに。ユートピアも含めた本人名義のアルバムも作品ごとに気まぐれにスタイルを変化させるし、バッドフィンガー、ハーフネルソン(スパークス)、ニューヨーク・ドールズ、グランド・ファンク、ホール&オーツ、スティーヴ・ヒレッジ、ミート・ローフ、チューブス、トムロビンソン・バンド、パティ・スミス、チープ・トリック、XTC、レピッシュ、高野寛など、プロデュース作も変幻自在って感じだし。

評価が確定されちゃうことを拒絶して浮遊し続けるその振り幅も含めて、ぼくたちはトッドのことが大好きで。長年にわたってあわあわ翻弄され続けつつ、大いに喜んでいるわけですが。

今日ピックアップする『スペース・フォース』は、ソロ・アーティストとしてのトッドと、コラボレーター(あるいは悪夢)としてのトッドの両面を味わえるハイブリッドな新作。2017年にトレント・レズナー、ジョー・サトリアーニ、ロビン、ダリル・ホール、ジョー・ウォルシュ、ドナルド・フェイゲンらを曲ごとにパートナーとして迎えてレコーディングされた『ホワイト・ナイト』と同趣向の1枚だ。

実際、『ホワイト・ナイト』が出た2017年から制作はスタートしていたという。前作に入れたかったけれど、時間がなくて完成させられなかった曲もこちらに入っているらしい。というわけで、まさに続編というか、むしろ2枚組的な? 一昨年あたりから何曲かデジタル・シングルとして先行リリースされてきていたけれど、その全貌がようやく明らかになったわけだ。

今回、トッドがスタジオに迎えた顔ぶれは、エイドリアン・ブリュー、リヴァース・クオモ(ウィーザー)、ニール・フィン(クラウデッド・ハウス)、ザ・ルーツ、スパークス、デイヴィ・レイン(ピクチャーズ〜ユー・アム・アイ)、トーマス・ドルビー、ナルシー、リック・ニールセン(チープ・トリック)、アルフィ・テンプルマン、レモン・ツイッグス、スティーヴ・ヴァイ。プログレ人脈あり、パワー・ポップ人脈あり、ヒップホップ系あり、ソウル系あり、アート・ポップ系あり。アメリカ、イギリス、オーストラリア、イラクなど出自もバラバラの12組だ。さすが精緻であると同時に無差別的な男。いい感じにとっちらかってます。

出自のみならず、世代もバラバラ。同世代のスパークスやリック・ニールセンはもちろん、トッドの持ち味を継承する息子世代みたいなリヴァース・クオモとか、孫世代みたいなアルフィ・テンプルマンとかレモン・ツイッグスとか、世代を超えた幅広いコラボが、うまいことトッドのアナーキーで突飛な振り幅を引き出しているようで。楽しい。

これぞ!というべきキラー・チューンに欠ける気もしなくはない。目的地というか最終的な狙いが見えない感じも(笑)。けど、聞いているうちに妙に情が湧いてくるというか。その感じ、いつものトッドならではの味だ。クセになるとやめられないトッドの魔力。なんか、いつまでもおさまりませんなぁ…。なやら何種類ものカラー・ヴァイナルも出ているようで。何色買ったらいいか、とりあえずストリーミングで楽しみつつ、大いに悩み中です。

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