Disc Review

No Fun Mondays / Billie Joe Armstrong (Reprise/Warner Records)

ノー・ファン・マンデイズ/ビリー・ジョー・アームストロング

今さら言うまでもなく、新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした混乱というのはとてつもなくて。明日からもう師走だっていうのに、来年に向けての具体的な展望すら誰ひとり確信を持って立てられない状況。まじ、やんなっちゃう。そうこうするうちに、思いっきり細かい話でキョーシュクですが、マスクするとメガネが曇る季節がまたひと巡りしてきちゃったしさ…。

でも、これまたご存じの通り、こんな状況下だからこそ実現し得た表現活動というのもいろいろあって。その最たるものが、新型コロナに翻弄されるばかりのぼくたちを勇気づけるため、あのニール・セダカさんがSNSで披露し続けてくれているピアノ弾き語り企画。毎日楽しみで仕方ない。最初、3月の終わりくらいにこのご時世に合わせた歌詞に書き直した「おお!キャロル(Oh ! Carol)」をピアノ弾き語りで聞かせてくれたのを皮切りに、4月に入ってからは基本的に平日は毎日、2〜3曲ずつ往年のレパートリーをパフォーマンス中。

けっこう珍しいレパートリーとか、マニアックな他シンガーへの提供曲とかも取り上げているもんで、もう油断ができない。曲の成り立ちについてのエピソードとかもたまに話してくれるし。立場的にも年齢的にもこんなことしなくてもいいはずの超セレブなセダカさんの底力のようなものを今、改めて真っ向から再確認することができたのは、間違いなくこのパンデミックがひとつのきっかけだった。

ロックダウン期間をネガティヴに受け止めるのではなく、ポジティヴに利用することで完成した傑作アルバムも、テイラー・スウィフトのアルバム『フォークロア』から、ブルース・スプリングスティーンの『レター・トゥ・ユー』エイドリアン・レンカーの『ソングズ・アンド・インストゥルメンタルズ』まで、たくさん生まれた。間もなくリリースされる予定のポール・マッカートニー『マッカートニーⅢ』も楽しみだ。新型コロナ禍という誰も体験したことがない災いに襲われたからこそ生まれた“不幸中の幸い”のような作品群。

まあ、ファンとしては喜ばしいような、でも、なんとなく素直に両手を挙げて迎え入れることができないような、でも、そうは言ってもうれしい気持ちは隠せないような…。このなんとも複雑な感触というのが、まさに今年、2020年の音楽シーンならではだなと思ったりもするのだけれど。

そういう感触のアルバムがまた登場しました。グリーンデイのフロントマン、ビリー・ジョー・アームストロングのソロ・アルバム『ノー・ファン・マンデイズ』。先週金曜日に紹介したラーキン・ポーの『キンドレッド・スピリッツ』や、以前紹介したモリー・タトル『バット・アイド・ラザー・ビー・ウィズ・ユー』ホイットニー『キャンディッド』などと同趣向の全編カヴァー・アルバムだ。

実はグリーンデイは今年の2月、およそ3年ぶりの新作アルバム『ファーザー・オヴ・オール…』をリリースして、3月の日本公演も含むワールド・ツアーに出る予定だった。けど、世界的な感染拡大によってすべての計画が延期に。仕方なくビリー・ジョーはロックダウン下でも可能な新プロジェクトに着手。それが“ノー・ファン・マンデイズ”という宅録カヴァー・シリーズだった。ニール・セダカのように毎日とはいかないまでも、毎週月曜日、自身が影響を受けた楽曲を自宅録音してYouTubeで発表していく企画で。これがグリーンデイのファンのみならず、広くロック・ファンの間で話題を呼び、ついにはアルバム化されることになった、と。そういう流れだ。

かつてノラ・ジョーンズと組んで、エヴァリー・ブラザーズが1958年、カントリーやフォークの名曲をカヴァーした名盤『ソングズ・アワー・ダディ・トート・アス』をまるごと再演したアルバム『フォーエヴァリー』を出したこともあるビリー・ジョー。グリーンデイとしてもライヴでよく多彩なカヴァーを演奏しているようだし。そのあたりの選曲センスには定評がある。今回もなかなかのセレクションだ。

先日のラーキン・ポーのとき同様、収録曲とオリジナル・アーティスト名、発表年、および有名なカヴァーがある場合はカヴァーしたアーティスト名をリストアップしてみると——

  1. 君と僕の世界(I Think We’re Alone Now)(トミー・ジェイムス&ザ・ションデルズ、1967年 / ティファニー、1987年)
  2. ウォー・ストーリーズ(スタージェッツ、1979年)
  3. マニック・マンデー(バングルス、1986年)
  4. コーパス・クリスティ(アヴェンジャーズ、1979年)
  5. すべてをあなたに(That Thing You Do)(ザ・ワンダーズ、1996年)
  6. アミーコ(ドン・バッキー、1963年)
  7. ユー・キャント・プット・ユア・アームズ・アラウンド・ア・メモリー(ジョニー・サンダース、1979年 / ガンズ・ン・ローゼズ、1993年)
  8. キッズ・イン・アメリカ(キム・ワイルド、1981年 / マフズ、1995年)
  9. ノット・ザット・ウェイ・エニモア(スティーヴ・ベイターズ、1980年)
  10. ザッツ・ロックンロール(エリック・カルメン、1975年 / ショーン・キャシディ、1977年)
  11. 真実がほしい(Gimme Some Truth)(ジョン・レノン、1971年 / ジェネレーションX、1979年)
  12. ホウル・ワイド・ワールド(レックレス・エリック、1977年)
  13. ポリス・オン・マイ・バック(イコールズ、1967年 / クラッシュ、1980年)
  14. ア・ニュー・イングランド(ビリー・ブラッグ、1983年 / カースティ・マッコール、1985年)

図らずも、いや、図ったことなのかもしれないけれど、ビリー・ジョー・アームストロング〜グリーンデイのルーツの重要な一部分をいきいき垣間見ることができるキャッチーかつコンパクトなカヴァー集という感じ。中でもぐっときたのが、この4月、新型コロナ感染で亡くなったアダム・シュレシンジャーが同名映画(トム・ハンクス監督)の主人公である架空のバンドのために書いた主題歌「すべてをあなたに」かな。シュレシンジャーへの追悼の意も込めたストレート・カヴァーだ。

「アミーコ」も面白い。ヘレン・シャピロが1962年にリリースしたバカラック・ナンバー「浮気はダメよ(Keep Away From Other Girls)」が元歌で。それをイタリアの俳優兼歌手のドン・バッキーがカヴァーしたイタリア語訳詞ヴァージョンを下敷きに、ビリー・ジョーが歌っている。もちろんイタリア語で。かわいい。

とにかくいろいろと楽しい。ウォーキングのおともに最適です。

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