Disc Review

Gershwin Country / Michael Feinstein (Craft Recordings/Concord)

ガーシュウィン・カントリー/マイケル・ファインスタイン

1985年、アイラ・ガーシュインに見出され、アイラ&ジョージ・ガーシュウィン作の名曲ばかりを歌ったアルバム『ピュア・ガーシュウィン』でデビューを飾って以来、往年のティン・パン・アリー系の名曲の魅力を再発見する活動を続けてきたシンガー、マイケル・ファインスタイン。

基本的にはずっと年1作という感じのペースで30作以上のアルバムをリリースしてきたのだけれど。2014年にクリスマス・アルバムを出したのを最後に、ぱったりとリリースが途絶えていた。本国アメリカでは2010年代後半も、懐かし映画専門チャンネル“ターナー・クラシック・ムーヴィーズ”のプレゼンターとしてちょくちょく画面に登場したりはしていたようだけれど、そういうの見ることができない日本からしてみると、もうすっかりごぶさたというか。どうしたのかなぁ…と、ぼんやり思っていた。

が、出ました。7年半という長いブランクを経ての新作アルバム。しかも、彼の出自とも言うべきガーシュウィン関連の1枚だ。これまでもアルバムごとにいろいろテーマを立てながらリリースを続けてきたファインスタインだけれど、今回も企画色強め。アルバム・タイトル通り、ジョージ・ガーシュウィンが生み出した名曲の数々をなんとカントリー・サウンドで“リ・イマジン”した作品だ。

アコースティック・ギター、フィドル、フラット・マンドリン、アコーディオン、ウッドベースといったカントリー系の、こう、なんというか、オーガニックな? そういう楽器を使いながらのガーシュウィン・ワールド。

ジャズ・スタンダード+カントリー/ブルーグラスという取り合わせだと、たとえばレイ・スティーヴンスの「ミスティ」みたいな、違和感を逆手にとったノヴェルティ系に仕上がる可能性もなくはなかった気がするのだけれど。いやいや、本作、そんなことはまったくなし。むしろ、たとえばウィリー・ネルソンの大ヒット作『スターダスト』のような、ああいう無理のないジャズとカントリーの融合作になっていて。ちょっとうれしい。

ウィリーの『スターダスト』が証明しているように、カントリーの中にもポピュラー・スタンダードの要素はたくさん潜んでいる。と同時に、カントリーそのものもまた、いわゆるグレイト・アメリカン・ソングブックの重要な一角を担う米国音楽である、と。そういうこと。

考えてみれば、ジャズとカントリーの融合という意味では往年のボブ・ウィルズから現在のアスリープ・アット・ザ・ホイールへと至る“ウェスタン・スウィング”ってものがあるわけで。ある意味、その路線の最良の近作という感じかも。

エグゼクティヴ・プロデューサーは旧友、ライザ・ミネリ。エンジニアはビル・シュネー。レコーディングはもちろんカントリーの都、テネシー州ナッシュヴィルで。ジェリー・ダグラス、サム・ブッシュ、ブライアン・サットン、ダン・ダグモア、ブレント・メイソンら腕ききがバックアップ。そして、1曲ごとに豪華カントリー・スターたちがデュエット・パートナーとして参加している。

パートナーたちの顔ぶれは、ドリー・パートン、ロザンナ・キャッシュ、アリソン・クラウス、ブラッド・ペイズリー、エイミー・グラント、ライル・ラヴェット、マンディ・バーネット、ヴィンス・ギル&ザ・タイム・ジャンパーズ、リー・アン・ウーマック、ロニー・ミルサップという10人。そこにもう一人、エグゼクティヴ・プロデューサーのライザさんが加わっての全11曲。

ちゃんとヴァースから歌い出される曲も多く、ファインスタインはやっぱりガーシュウィン作品を大切にしているんだなぁということがよくわかる。そしてカントリー系のシンガーもミュージシャンも、ちゃんとこういう音楽性をも身体にしたためて、その上で活動しているんだという、シーンの厚みのようなものも思い知る。

気持ちいいっす。

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