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Disc Review

Who / The Who (Polydor/Universal)

フー/ザ・フー

このアルバムを紹介する際、誰もがオープニング・チューンの歌詞1行目に記されたシニカルなフレーズをまず引用するはずだ。

“気にしないよ。わかってる。君はこんな曲、嫌いだろ…”

ザ・フーが13年ぶりに放つ12作目の新作。堂々と『フー』というバンド名を冠した初のセルフ・タイトルド・アルバム。その1曲目に収められたピート・タウンゼンド作品「オール・ジス・ミュージック・マスト・フェイド」で、ロジャー・ダルトリーはいきなりそうぶちかますのだった。

“アイ・ドント・ケア…”。この一節、ファン全員の頭の中で初期の名曲「ザ・キッズ・アー・オールライト」の1行目、“アイ・ドント・マインド…”と二重映しになるはずだ。で、当時21歳、現在75歳のリード・ヴォーカリストはこう続ける。

“でも、それでいい。俺たち、本当に気が合ったことなんかなかったし。この歌は別に新しくもない。変わってもいない。君のパレードをライトアップすることもない。ただのシンプルな歌。こういう音楽はすべて古くさくなっていくものさ。刃物の刃先みたいに…”

そのあとも、“俺は白鳥だ。黒かったことなんかない。せいぜいグレイだ”みたいな、黒人音楽を愛する英国白人としての自虐を歌ってみたり、“誰かが俺の音楽をパクったってかまわない。俺だって、パクったことがないなんて言ったら大嘘つきになる。俺たちが分かち合っているこのサウンドはすべて、すでに誰かが演奏したものさ。そこら中にある”とか、もう大暴れ(笑)。この曲の音作りも、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターのコンビネーションとか、コーラスの質感とか、もう往年のザ・フーそのまんまというか、ピート・タウンゼンド自らが自分たちの音をパクってるというか。

かっこいい。何もわかっちゃいない輩が、いいパクリも悪いパクリもいっしょくたにして我が物顔でやみくもに糾弾しがちな、なんとも狭量な空気感が蔓延する昨今、おじいちゃん、よく言ってくれた! 的な1曲ではあった。

敬愛するヒーローとしてのチャック・ベリーやモハメッド・アリ、モッズ・カルチャーの象徴でもあるスクーター、かつてテーマ曲をカヴァーしたこともあるバットマン、往年のロンドンの風景、ダブルデッカーのおもちゃ、ユニオンジャック、市松模様、そしてギターを破壊する若き日のピート…。自分たちのこれまでの歩みをぶわーっと乱雑にばらまいた感じのアルバム・ジャケットもいい。

1978年にキース・ムーンが他界してから、ザ・フーの新作リリースはぐっと減ってしまって。これが4作目。ひとつ前の『エンドレス・ワイア』が24年ぶりの新作だったことを思えば、まあ、今回は13年ぶりなので、わりと早かったか、みたいな(笑)。うれしいのは、『エンドレス・ワイア』が彼らのある時期からのアイデンティティのひとつである大仰なロック・オペラ形式を含む1枚だったのに対し、今回は曲ひとつひとつが単体で存在する仕上がりになっていること。

しかも、活きのいいシャッフル・ビートが痛快なR&B「ディトゥアー」とか、過去の自分たちの素行を振り返りつつ、しかしどうにも変わることができない思いを表明する「アイ・ドント・ウォナ・ゲット・ワイズ」とか、なんとなく最初期、よりコンパクトだったころのザ・フーに直結するようなアプローチが多く聞かれる気がする。

もちろん、クラシカルかつドラマチックな展開も見せる「ロッキン・イン・レイジ」とか、アリーナ・ロックっぽい「ヒーロー・グラウンド・ゼロ」とか、米グアンタナモ収容所をめぐる人権問題に言及した「ボール・アンド・チェイン」(ピートが2015年にリリースしたソロ・ベスト盤に収められていた新曲2曲のうちのひとつ「グアンタナモ」のリメイク)とか、“大人な”ザ・フーならではの作品もあるのだけれど。

いずれにせよ、ピートもロジャーも、いまだ怒っているというか。何に対してかはいろいろだけど、とにかくムカついているというか…。その感触がなんともザ・フーだなぁと思えて、うれしくなる。

もちろん、ピートの弟さん、サイモン・タウンゼンド作のフォーキーな「ブレイク・ザ・ニュース」とか、ストリングスとハーモニカの切ない響きを伴ったシンガー・ソングライターっぽい「アイル・ビー・バック」とか(この2曲はピートがヴォーカル)、スパニッシュ風味も取り入れたジャジー・チューン「シー・ロックト・マイ・ワールド」とか、是非はともあれ、異質な要素へのチャレンジも忘れてはいない。「アイル・ビー・バック」ではラップみたいなものまで披露しているし…!

キース・ムーン〜ケニー・ジョーンズの穴を埋めるドラマーは、ザック・スターキー、ジョーイ・ワロンカー、カーラ・アザー。ジョン・エントウィッスルの穴を埋めるベーシストはピノ・パラディノ、ガス・セイファート。キーボードはベンモント・テンチ。ピートとロジャーはそれぞれ別々に自分たちのパートをレコーディングしたそうで。その辺、なんとなく複雑だけれど。

前作を発表してからの13年間、ピートもロジャーもソロ・アルバムを出したり、ベスト盤を編んだり、他のアーティストとコラボしたり、本を書いたり。でも、やっぱりザ・フーとしての新作が出ると、こんなにうれしいものなのだ。これがラスト・アルバムにならないことを願います。

アナログLPはもちろん、カセットも出た。カセット、ほしいかも。CDだと、海外デラックス盤にはボーナス3曲。国内盤にはさらにもう1曲、海外では豪華仕様のアナログ3枚組のみで聞くことができるデモ音源がボーナス追加されている。

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© 2020 Kenta Hagiwara