Disc Review

18 / Jeff Beck & Johnny Depp (Rhino/Warner)

18/ジェフ・ベック&ジョニー・デップ

昨夜のCRT「スマハマ? ヨコハマ! ビーチ・ボーイズまつり’22」、ご来場、ありがとうございました。久々の有観客イベントで。まだまだなにかと心配も多い中、たくさん集まってくださってうれしかったです。やっぱり誰かと好きな音楽のことを同じ空間で分かち合うのは格別ですね。また盛り上がりましょう!

で、そのイベントでもちらっと話題になった1枚を今日は取り上げます。ゲストの竹内修くんが紹介してくれた新作アルバム。ジェフ・ベックが、なんとあのジョニー・デップとがっちりタッグを組んで作り上げたコラボレーション・アルバム『18』です。

ジェフ・ベックという人は、実はビーチ・ボーイズ・ファンというか、ブライアン・ウィルソン・ファンにとってそれなりに気になる人で。というのも、えーと、あれは2013年のことだったか。ビーチ・ボーイズ50周年再結成プロジェクトを終えたブライアンが新作ソロ・アルバムのレコーディングにとりかかった、というニュースが彼のウェブサイトに掲載されて。その段階では、ブライアンはジェフ・ベックとタッグを組み、ドン・ウォズを共同プロデューサーに迎え、さらにビーチ・ボーイズからアル・ジャーディン、デヴィッド・マークス、ブロンディ・チャップリンも参加したアルバムになる予定だと発表されていた。

かつて2005年、ミュージケアーズ・アワードを受賞したブライアンへのトリビュート・コンサートにジェフさんがゲスト出演。そのとき、彼はビーチ・ボーイズの「サーフズ・アップ」を演奏したのだけれど。これがすごかった。緻密に構築されたバック演奏や豊潤なコーラス・ハーモニーを完璧にライヴで再現するブライアン・ウィルソン・バンドをバックに従え、リード・ヴォーカルのパートをジェフさんがすべてギター1本で弾きこなしてみせた。何がすごいって、歌詞が聞こえてきたのだ。まじに。ギターが歌うっていうのはこのことだな、と。打ちのめされたものだ。

そんなふうにライヴでだけ実現していた夢の共演が、ついに1枚のスタジオ・アルバムへと結実するかもしれないと、思い切り期待していたのだけれど。結果的にそのセッションはお蔵入り。実際に数曲のレコーディングも進行していたらしい。その中から、おなじみの「ダニー・ボーイ」のウィルソン&ベック・ヴァージョンをジミー・ファロンのレイト・ショーで生披露したこともあった。2013年の秋にはジョイント・ツアーもあった。

にもかかわらず、両者の共演音源はまったく世に出ないまま終わってしまった。幻のアルバムがまた1枚増えてしまった。ベック自身が語ったところによると、好きなようにプレイしてくれていいと言われてはいたものの、ブライアンが作ったコード進行のもとでギターを弾くと、どうしても西海岸的なプレイになってしまい、自分らしさが出せなかった、と。

でも、そんなジェフ・ベックが、もしかしてその幻のアルバムが出ていたらこんな感じになっていたのかもしれない的な、片鱗をちょっとだけ体験させてくれる新作を届けてくれたのだ。それが本作『18』だ。

ジェフさんとジョニーさん。二人の出会いは2016年。自らバンドをやったり、けっこう熱心に音楽活動もしているジョニーさんの意欲にジェフさんがぐっと興味を抱いたそうで、2019年、世がパンデミックに突入したころ以降、ケルト音楽からロック、ソウルなど、多彩なカヴァーに挑み始めて行ったのだとか。その成果が本作『18』。二人の共同作業が、自分たちの18歳のころを思い起こさせた、と。そういう思いが込められたタイトルらしい。

ヴィニー・カリウタ、ピノ・パラディーノ、ロンダ・スミス、ヴァネッサ・フリーバーン・スミス、オリヴィア・セイフなどジェフ・ベック人脈も参加しているけれど、けっこう全編にわたってジョニー・デップがベースに、リズム・ギターに、キーボードに、コーラスに大活躍。ジェフ・ベックのギターとデュエットするような感じのヴォーカルもいろいろ聞くことができて。これがけっこう素直で的確。好感が持てる共演だ。

と、そんな話題のアルバムの中に、なんとブライアン・ウィルソン作のナンバーが2曲収められているのでした。「ドント・トーク」と「キャロライン・ノー」。ビーチ・ボーイズ、1966年の傑作アルバム『ペット・サウンズ』の収録曲中、特に内省的な名曲ふたつ。CRTで竹内くんも言っていた通り、この2曲のみジョニー・デップは不参加。ジェフ・ベックの完全ギター・インストで綴られていて。ちょっとだけコード解釈が違っている個所とかあるとはいえ、あの2005年の「サーフズ・アップ」を彷彿させる仕上がりなのでありました。これはうれしい。

もちろん、贅沢を言えばですね、ほんとはブライアン・ウィルソン・バンドのバッキングで聞きたかった。それが本音。まあ、コーラスに関してはもともとオリジナル・ヴァージョンにも入っていない2曲ではあるけれど、例の未発表コーラス・タグ入りの「ドント・トーク」とか“スターズ・アンド・ストライプス”ヴァージョンのコーラス入り「キャロライン・ノー」とか、その辺のジェフ・ベック・ヴァージョンも味わってみたかった。つくづく幻の共演アルバムが惜しまれるわけですが。でも、ここでもジェフ・ベックならではの、まるで歌詞まで聞こえてくるリリカルなギター・プレイが存分に味わえて。しびれる。

怒られるかもしれないけれど、とりあえず現段階で、ぼくにとって本作への興味はほぼこのギター・インストふたつと、ジョニー・デップのヴォーカルをフィーチャーしつつ、なんとデニス・ウィルソンのソロ・ナンバーをカヴァーした「タイム」の3曲だけ。もったいないことに、まだ他の曲に関しては深く聞き込めてはいません。他はこれからのお楽しみ…ってことで。

とりあえず収録曲の内訳チェックをしておくと。ビーチ・ボーイズの「ドント・トーク」と「キャロライン・ノー」、デニス・ウィルソンの「タイム」の他は、デイヴィ・スピラーンの「ミッドナイト・ウォーカー」、キリング・ジョークの「デス・アンド・リザレクション」、ミラクルズの「ウー・ベイビー・ベイビー」、マーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「毛皮のヴィーナス(Venus In Furs)」、エヴァリー・ブラザーズというかベティ・エヴェレット&ジェリー・バトラーの「レット・イット・ビー・ミー」、ジャニス・イアンの「スターズ」、そして2020年に先行リリースされていたジョン・レノンの「アイソレーション」というラインアップ。さらにジョニー・デップのオリジナルも2曲含まれている。

アルバム・ジャケットは、これまた竹内くんが教えてくれた通り、現在のジェフの奥さま、サンドラさんが描いた18歳のころのジェフ・ベックとジョニー・デップのイメージだとか。やー、アオハルっすね。

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