Disc Review

OK Human / Weezer (Crush Music/Atlantic)

OKヒューマン/ウィーザー

とりあえず、本日夜のスケジュールを告知させていただきますね。今夜18時半からは、佐橋佳幸くんと毎度、目黒のブルース・アレイ・ジャパンから有料配信でお届けしている『ケンタ&サハシの“オタクの御託”承ります』。

今回は先月に引き続き総集編第2弾。これまで5回配信した中から、10月にお届けした4回目、難波弘之さんゲストの回と、そして12月、5回目の高田漣くんゲストの回を振り返ります。難波さんが自前のアナログ・シンセを大量に持ち込んでプログレ愛を炸裂させた回と、漣くんがペダル・スティール・ギターをじっくり解析してくれた回。もし見逃した方がいらっしゃったら、この機会にぜひ!

見逃し配信も1週間あるみたいです。詳しくはこちらへ。今夜も総集編のみならず、サハシのギターを堪能できる生演奏もお送りする予定です。お楽しみに。


というわけで、今朝のピックアップ・アルバムのご紹介へ。ウィーザーです。なんと38人編成のオーケストラを従えて制作された通算14作目。誰もが孤立し、引き離され、一人であることを意識せざるを得ない環境の中で、しかしあえて思いきりアナログでヒューマンでアコースティックで、しかも“密”っぽいオーケストラ・アンサンブルの導入に挑むという、もうなんともウィーザーらしい捻れまくりの路線設定がたまらない。

2019年、全編カヴァーものに挑んだ『ウィーザー(ティール・アルバム)』と、ディスコものからレゲエからニュー・ロマンチックからボサノヴァから、何でもありの『ウィーザー(ブラック・アルバム)』の2作をリリース。その勢いのまま、2020年、今度はハード・ロック〜ヘヴィ・メタルへのパースペクティヴを盤面に叩きつけたらしき新作『ヴァン・ウィーザー』をリリースして、グリーン・デイやフォール・アウト・ボーイとツアーに出ようと計画していたものの。

そこに未曾有のパンデミックが到来。が、ウィーザーはこのアクシデントを前向きに乗り越えんとばかり、ポジティヴに予定変更。ヘヴィ・メタルものとは真逆とも言うべき、ふくよかなオーケストレーションとの共演という新たなテーマのもと、まだまだ孤独感を抱え込みながら日々を送り続けるしかない2021年のぼくたちに、なんとも素敵な傑作アルバムを届けてくれたのでした。

ロックンロール・バンドがラージ・アンサンブルを取り入れつつ制作した名盤というと、象徴的にはビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』ということになるようで。本アルバムに関するプレス・リリースなどでは何かと『ペット・サウンズ』のことが引き合いに出されているようだけれど。なるほど。

当然ながら、ジョージ・マーティンが大活躍していた中期ビートルズっぽいニュアンスも強い。ポール・バックマスターが支えていた初期エルトン・ジョンの感触も。

あと、他に引き合いに出されているのはハリー・ニルソンの“シュミルソン”期の作品とか。まあ、確かにそっちのニュアンスに近いかも。全編ストリングス・オーケストラがバックアップした『夜のシュミルソン』とまではいかないものの、そこまでの“シュミルソン”ものの場合、曲によってではあったけれど、ロック系の名うてのミュージシャンが勢揃いしたビッグ・コンボにゴージャスなストリングスが絡んだりしていたし。あと、RCA後期の『クニルソン』とか。あの辺には確かに近いような…。

ただ、ウィーザーの中心メンバー、リヴァース・クオモは、同じハリー・ニルソンものでも、ニルソンがランディ・ニューマンの楽曲ばかり作者自らのピアノ伴奏で歌い綴った『ニルソン・シングズ・ニューマン』に触発されたと発言しているらしい。あれは基本ピアノ一本の伴奏に最低限のコーラス・ダビングなどが施された静かなアルバムだったけれど、その背後に幻視できた豊かなオーケストレーションをリアルなものへと移し換えた、みたいな感じなのだろうか。

オープニング・ナンバー「オール・マイ・フェイバリット・ソングス」から泣ける。美しさとグルーヴとが共存する弦楽アンサンブルに彩られながら、リヴァースが、“大好きな曲はみんなスローで悲しいやつばかり/好きな人はみんなぼくを怒らせる/気分のいいものが全部悪く、悪く、悪くなっていく/大好きな曲はみんなスローで悲しいものばかり/ぼく、どうしちゃったんだろう。わからない…”とか歌い出して。

とりあえず、気になった歌詞のことにちょっとだけフォーカスしてみると。「オール・マイ・フェイヴァリット・ソングズ」には他にも、“パーティは大好き。だけど、行かない/なのに、それで家でじっとしていると気分が悪くなる”とか“散歩してると友達がほしくなる/でも誰かがしゃべりだすと離れたくなる”とか“金持ちになりたい/でも、後ろめたい気分になる”とか“ぼくのことを大嫌いの人とばかり恋に落ちる”みたいなフレーズがちりばめられていて。ウィーザーならではの屈折感が愛おしい。

「プレイ・マイ・ピアノ」って曲では、“妻も子供も2階”とか“もう3週間、髪を洗ってない”とか“Zoomのインタビューに戻らなきゃ/でも、時が過ぎていく/ピアノを弾いていると”とか“空が見えない/まるで子宮の中にいるみたい”とか“メジャー・スケールからミクソリディアンへとしたたり落ちる”とか“金正恩がぼくの街をぶっこわすかも/知らんけど…”みたいなことを歌っていて。ロックダウン期間のリヴァースの内省の揺れみたいなものがふわふわ伝わってくる感じ。「グレイプス・オヴ・ラス」って曲では、“オーディブルの『怒りの葡萄』でヘッドフォンをロックさせるぜ!”とか、文化系なんだか体育系なんだかよくわからないこと歌ってるし(笑)。

と、まあ、とにかく捻れた歌詞がたまらないうえ、今回はメロディのほうもいつも以上にポップでキャッチーな仕上がり。最高です。『OKヒューマン』ってのはレディオヘッドの『OKコンピュータ』のもじりなのかなぁとか、収録曲の「ヒア・カムズ・ザ・レイン」はビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」からの連想かなぁとか、やっぱウィーザーといえば Windows95 だよなぁ…的なビデオクリップとか、いろいろ気になる小ネタも多いけど。その辺も吹っ飛ばす、いい曲とちょっと屈折した歌詞とのマッチング。全長30分ちょいという長さも美しい。

『ヴァン・ウィーザー』のほうも5月ごろにはリリースされる予定だとか。そちらも楽しみ!

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