Disc Review

Everything Harmony / The Lemon Twigs (Captured Tracks)

エヴリシング・ハーモニー/ザ・レモン・ツイッグス

ブライアンとマイケルのダダリオ兄弟によるポップ・ユニット、レモン・ツイッグス。

ポール・マッカートニー&ウイングス、クイーン、トッド・ラングレン、スパークス、ビッグ・スター…など、1970年代っぽい一連のパワー・ポップというかポップ・プログレというかグラム・ロックというか、そういった往年のポップ・イディオムを21世紀の若者ならではのクールかつ柔軟な編集感覚で見事コンテンポラリーな音像へと昇華させる頼もしいやつらとして、ぼくたちポップス・ファンを大いに盛り上げてくれていたわけですが。

今回は一気に路線を変換!

いや、違うな。単純に路線変換したわけじゃなく。前述したような音楽性の作品群を愛聴しているポップ・リスナーならば、たぶん同時並行でこちらも愛聴しているはずの、サイモン&ガーファンクルとか、1960年代後半のビーチ・ボーイズとか、カート・ベッチャーとか、ビー・ジーズとか、そんなチェンバー・ポップ〜ハーモニー・ポップ的な方向性へと、今回は大きく舵を切ってみせてくれた。

今年の2月、本ブログでもジャケットからしてビーチ・ボーイズの「駄目な僕(I Just Wasn't Made for These Times)」を想起させる先行シングル「コーナー・オヴ・マイ・アイズ」を取り上げて早々に盛り上がっておりましたが。いよいよアルバムの登場です。フル・レングス・アルバムとしては2020年の『ソングズ・フォー・ザ・ジェネラル・パブリック』に続く4作目。

『エヴリシング・ハーモニー』なるアルバム・タイトルが、これまた超ストレート。もろ。本人たちも“サイモン&ガーファンクル”的な1枚と発言しているらしいけど。同時にワイズ・ブラッドとかアーサー・ラッセルとかの近年の動きに触発されたらしき感触もあり。いずれにしても持ち前のすぐれたソングライティング・センスを存分に活かした、いい曲だらけの、美しく、スウィートなアルバムを紡ぎ上げてくれた。

2020年から21年にかけて、主にマンハッタンのリハーサル・スタジオで曲作りおよびベーシック・トラックの録音を行なった後、アコースティックなエコー・チェンバーを備えたスタジオを求めてサンフランシスコへ。ストリングスやフレンチ・ホルン、ハープシコード、ヴィブラフォン、そしてコーラスなどを何重にもダビング。そして最終的にはブルックリンに新設した自分たちのスタジオでミックスおよびマスタリングした、という流れで完成に至ったらしい。

東海岸と西海岸を行き来しながら編み上げられたオーケストレーション。フィル・スペクターがプロデュースしたレナード・コーエンの1977年作『ある女たらしの死(Death of a Ladies' Man)』を意識したという「ホワット・ハプンズ・トゥ・ア・ハート」とか、前述したアート・ガーファンクルとブライアン・ウィルソンの味が美しく交錯する先行シングル「コーナー・オヴ・マイ・ハート」あたりがその流れをもっとも象徴する楽曲か。アルバム・タイトル・チューンでのイマジネイティヴな音の積み方もなんだか魅力的だ。

オープニングを飾る「ホエン・ウィンター・カムズ・アラウンド」とか、アコギ1本をバックに“毎日が人生でいちばんサイテーの日”とえんえんミニマムに繰り返しコーラスし続ける「エヴリデイ・イズ・ザ・ワースト・デイ・オヴ・マイ・ライフ」とかは往年のグリニッチ・ヴィレッジっぽい仕上がり。

でも、同時に「イン・マイ・ヘッド」「ホワット・ユー・ワー・ドゥーイング」「ゴースト・ラン・フリー」みたいな、従来のレモン・ツイッグスのテイストをそれなりに感じさせてくれるポップ・チューンもある。こっちの味もやっぱりうれしい。で、ラスト。アルツハイマー病と闘う者の思いを彼らなりに受け止めながら書き上げた歌詞を美しいハーモニーで包み込んだ「ニュー・トゥ・ミー」でアルバムは幕を閉じる。

相変わらず頼もしいやつらです。次も楽しみ。

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