Disc Review

Electrophonic Chronic / The Arcs (Easy Eye Sound/Concord)

エレクトロフォニック・クロニック/ジ・アークス

ブラック・キーズのダン・アワーバックは2015年、相方のパトリック・カーニーが休暇中に水泳事故で肩を脱臼したのを受けブラック・キーズとしての活動を一時休業。その間に取り組んだサイド・プロジェクトがジ・アークスだ。もともとはソロ・プロジェクトとして立ち上げたセッションだったようだけれど、気の合う音楽仲間たちとわいわい進めていくうちにバンドへと発展していったらしい。

メンバーはアワーバック(ヴォーカル、ギター、ベース)の他、以前ブラック・キーズのサポートをしたこともあったリオン・マイケルズ(キーボード)と、彼の仲間であるニック・モヴション(ベース)、ホーマー・スタインワイス(ドラム、パーカッション)らダップ・キングス絡みの顔ぶれに、当時ブラック・キーズのツアー・バンドの一員でもあったザ・シンズのリチャード・スウィフト(ドラム)。2015年にファースト・アルバム『ユアーズ、ドリーミリー』をリリースした。

メンバーの顔ぶれからもわかる通り、ブラック・キーズのブルース・ロック感、ガレージ感、サイケ感と、ダップ・キング系のレトロ・ソウル感、ファンク感とが魅力的に交錯するごきげんな仕上がりで。日本のファンとしても、パット負傷によって11年ぶりのブラック・キーズ来日公演が流れてしまうというちょっとしたロス状態にあったこともあり、その残念感を癒やす絶好の1枚になってくれたものだ。

ブラック・キーズの活動休止中もアワーバックはアークスを引き連れてツアー。その際、なんとセカンド・アルバムもすでに完成していることが発表されたのだけれど。実際はなかなかリリースされないまま、なんと2018年にメンバーのひとり、リチャード・スウィフトが他界。次作発売もうやむやに。お蔵入りも危惧されていた。実際、そのアナウンスからかなりの歳月が流れて。ほとんどその存在も忘れかけていたわけですが。

なんと、出ました。フル・アルバムとしては実に8年ぶり、アルバム未収録シングル「レイク・スペリアー」からだと7年ぶりとなるニュー・リリース。オリジナルのフル・ラインアップで、ナッシュヴィルにあるアワーバックのイージー・アイ・サウンド・スタジオ、ニューヨークのクイーンズにあるミシェルズのダイアモンド・マイン・スタジオ、およびマンハッタンのエレクトリック・レディ・スタジオでレコーディングされたセカンド・アルバムだ。

プロデュースはアワーバックとミシェルズ。去年の10月に先行リリースされたシングル「キープ・オン・ドリーミン」、11月にリリースされた「ヘヴン・イズ・ア・プレイス」、12月にリリースされた「アイズ」を含め、混合具合としてはファーストよりもレトロ・ソウル色がぐっと強まった感も。

ブルー・アイド・ソウル風味が強い「ビハインド・ジ・アイズ」とか「ラヴ・ダズント・リヴ・ヒア・エニーモア」とか、ねじれた“シャラララ…”コーラスが盛り込まれた「サンシャイン」とか、特にしびれます。「サンシャイン」のクリップはリチャード・スウィフトへの追悼なのかな。アーマ・トーマスの「ア・ウーマン・ウィル・ドゥ・ロング」の“ウーマン”を“マン”に換えてカヴァーしているのも渋い。

限定カラー・ヴァイナルもあり。アークスのサイトのWebストアとかではいろいろなパターンのカラー・ヴァイナルを売っていたようだけれど、すでにソールドアウトのものもあり。出遅れたぼくがゲットできたのは透明クリア・ヴァイナルでした。

ミシェルズによれば、アークスは『ユアーズ、ドリーミリー』を出したあと、えんえんレコーディングを続けていたらしく。本作もそんな中で生まれた1枚。生前のリチャード・スウィフト参加の音源もあるし、彼抜きの音源もあるし。いずれにせよ、他にもさらに80曲くらいレコーディングされた音源があるのだとか。てことは、まだこれからもそれらお宝音源が世に出る可能性もまだまだあるということ。楽しみだ。

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